第36話 文化祭当日③
昼休憩に入り、俺は家庭科室にて販売されていたカレーを購入すると、実行委員の休憩所にもなっている多目的室にいた。
そこには実行委員全体の約半分ほどがすでにおり、それぞれ適当な席については複数人で楽しそうに食事をしている。
無論俺はぼっちだ。他の人より少し離れた位置の席に着くと、無言のまま使い捨てのスプーンを袋から取り出し、カレーを掬って口に運ぶ。
優樹菜は帰ってくるだろうかと時折黒板の真上に取り付けられたアナログ時計を気にするも、一向に帰ってくる気配はない。
まぁ優樹菜は委員長でもあるからな。いろいろと忙しくて昼休憩すら取る暇もないんだろう。現に多目的室に来ている委員は先ほども言った通り、全体の半分だ。
そんなことを考えながら黙々とカレーを食べ進めているうちにものの五分弱で完食。
まだ少し足りないような気もするが、今から買いに行っている時間は正直ない。俺はカレーが入っていた容器をゴミ箱に捨てると、再び席につき、一眼レフに保存された写真を見返す。
うーん……。
よくは撮れているけど、もう少しインパクトがあるやつも欲しいなぁ……。
これは学校のブログなどでも使用する重要な写真だ。
読者が写真を見て、どれだけ印象に残せるかが肝になってくる。
「うんうん、よく撮れてるじゃないか」
「っ?!」
いきなり後ろの方から声がした。
俺は咄嗟的に振り返ると、そこにいたの肉まんを片手にむしゃむしゃ食べている内村先生だった。
「ああ、驚かせてしまいすまなかったな。お詫びに肉まんを一つやろう」
そう言って、もう片方の腕に抱えられていた紙袋を突き出してくる。
中にはまだ十個近くの肉まんが入っていた。
――これ、全部一人で食べる気なのかよ……。
肉まんもなかなか大きなサイズだし、男でも結構十個は結構キツいかもしれない。
俺はひとまず礼を言いながらおずおずと一つ手に取る。
まだ出来立てなのか熱々だ。
「それにしても写真なかなか撮るの上手いじゃないか。趣味で普段から写真でも撮ってるのか?」
「いえ、別に撮ってないですし、一眼レフ自体滅多に触ったことないですよ」
「そうなのか? それなのにここまで上手く撮れるとはなぁ……大したものだ。将来写真家とか向いてるんじゃないか?」
「写真家っスか?」
「ああ、写真家にもさまざまあるし、有名なのは戦場カメラマンとかか? そのほかにも風景を中心に撮る人もいる」
正直、内村先生から言われるまでは将来のことなんて考えもしていなかった。
そういえば、俺って将来何になりたかったんだっけ?
よく幼稚園の頃とか小学校低学年の時など将来の夢について語る場面がある。
その頃はよくみんなはヒーローになりたいとか非現実的な夢ばかりだったけど……成長していく上でだんだんと現実を知っていくにつれて、自分の夢というものがなんなのかわからなくなってきた。
俺はこれから先何をしたい?
高校受験の時もたしか将来の夢を聞かれたけど、適当なことを言っていたような気がする。
「まぁ参考までに考えときます」
「そうか。けど、お前の人生はまだまだ長い。私とは違い、学生だから将来について大いに悩むといい。私みたいに大学生になってから悩んではいろいろとブレてしまうからな」
内村先生は肉まんの最後の一欠片を口の中へと放り込むと、すぐに紙袋の中から新たな肉まんを取り出して、むしゃむしゃと食べ出す。
将来何をしたいかなんてすぐには決断できないけど、何かしらの方向性だけは決めておきたいところではある。
俺はすっかり冷めてしまった肉まんを食べ終えると、内村先生に一礼してから多目的室を後にした。
残すところは体育館の方だけだ。
そこで何かしらの迫力があるものが撮れればいいんだけど……。
俺の好きな優樹菜さん、今日から義妹になりました。 黒猫(ながしょー) @nagashou717
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