第35話 文化祭当日②
午前十時。文化祭が開催された。
会場である校内はすぐに保護者や地域住民の方で大いに賑わいを見せている。
そんな中で俺は事務室から借りた一眼レフを片手にいろいろな箇所を回っていた。
記録係として、まずは校舎内で行われているものから撮影する。
どのブースも賑わいを見せ、校舎内は笑い声で包まれていた。カメラにも来客者たちの笑顔がバッチリ撮れ、雰囲気的にも申し分はないだろう。
校舎内をぐるぐると回りながら所々と撮影をしていく中で、ふと自分のクラスが何をやっているのかが気になり始めた。文化祭の準備期間が始まってからすぐに実行委員会の方に駆り出されてしまったため、実際に何をやるのかとかはまったく知らないし、もちろん準備の方にも参加していない。
――教室も近いし、撮影のついでに覗きに行ってみるか……。
そう思った俺はさっそくクラスの教室がある二階へと上がる。
廊下をしばらく歩くと、クラスの教室が見えてきて、その前には長蛇の列ができていた。
よくよく見ると、並んでいる人はほとんどが男で教室の前には「コスプレメイド喫茶」という看板が立てかけられている。
もはやコスプレ喫茶なのかメイド喫茶なのか、どっちかわからない。
とりあえず横入りだとかいう揉め事にならないためにも「記録係」という腕章をちらつかせつつ、教室内に入ってみることにした。
「「「「おかえりなさいませっ! ご主人様!」」」」
メイド服や何かのアニメのコスプレなどをした四人の女子たちが出迎えてくれた。
俺は席を案内されるがままにひとまず着く。
「こちらメニュー表だニャンっ! お決まりになったら呼ぶニャンっ!」
アニマルもいたんっスか。
教室内を見渡せば、多種多様なコスプレをした女子がいた。中には全身銀タイツの宇宙人らしき格好をした女子もいる。
ここだけハロウィンの仮装パーティー状態だ。
こんなごじゃ混ぜな感じでも一応客の出入りはあるものだから不思議でならないなと感じつつも、記録係として教室内の様子をカメラに納める。
そして、手作り感満載なメニュー表を見つつ、ひとまず注文をしておく。でないと、記録係とはいえ、同じクラスなのに何も頼まずに出ていくのはちょっと気が引ける。あとで女子から陰口を言われないためにも何か適当なものを注文しておいた方がいいだろう。
俺は近くにいたカエル女子に声をかけた。
「あのすみません。アイスティーを一つください」
「アイスティーゲコね。かしこまりましたゲコ〜」
そう言って、どこかに行ってしまった。
今、俺ってどんな顔をしているのだろうか……。変な顔になってないだろうか?
そんな不安を他所に待っていると、先ほどのカエル女子が戻ってきた。
そういえば、教室の半分くらいが大きな仕切りで隠されてるけど、あの奥で調理などをしているのだろうか? 後で許可をもらって撮影させてもらおう。
「お待たせしましたゲコ。アイスティーゲコ」
「……え?」
カエル女子がテーブルの上にアルミ缶を置いた。
俺はそれに対し、どう反応すればいいかわからない。
――これはボケ……なのか?
だとするならば、何か返さなければならないけれど……
「どうにかなさいましたかゲコ? ご注文はアイスティーでしたよねゲコ?」
「え……あ、うん。そうなんだけど……」
「では、ごゆっくりゲコ」
カエル女子は一礼すると、またどこかに行ってしまった。
俺は残された缶を手に取る。
あ。冷たい。たしかにアイスティーだ。
自販機にでも普通に売っている有名ブランドのアイスティー。
俺は缶の口を開けると、一口飲む。
「……」
普通のアイスティーだった。
自販機で買えば、百円のところをここで飲めば五百円。富士山の山頂並みに高いな!
一気に飲み干した後、俺は逃げるようにそそくさと教室から出ていった。
こんなぼったくり……二度とくるかッ!
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