白日夢
@ski317
第1話 後悔
藍鼠色の髪を揺らし、夕立の止まぬ空を見た。その空は一変たりとも青を残さず物の見事に灰色になっていた。大都会に越してきてからというもの、田舎の実家が恋しくなって仕方が無い。ここに来たばかりの時虚しさから逃げるために雑多な都会にやって来た。かと思えば今はその雑多さが鬱陶しくて仕方が無く耳元で五月蝿く色々な音が響いていた。その世界は正しく灰色だった。
「はぁ…お茶でも飲もうか。」
彼女の名は伊野宮 碧。今年で19に成る。地元に居ると思い出したくも無い事を思い出してしまう人間関係を断ち切りたいと言う訳と、ただ単に一人暮らしをしたかった故に都内の大学へ入学した。しかし蓋を開けてみればそれはまた空虚な独りであった。出逢った人々とは疎遠になりたかったがずっと合わないことは辛い。
「友達なんて要らない。」
彼女は何時も呪文のようにこう唱えていた。それは親しい友人を作り関係を歩んだ先にあるのは何時も崩壊と綻びであったからだった。
彼女は小学生の頃に出来た友人にいじめられるという経験をした。信頼していた友人がいつの間にか対岸にいた。指を指し笑った。友人は何時も人気者だった。どれだけ相手が悪かろうが、どれだけ相手が理不尽を強いようが人気の無い自分の話なぞ聞き入れてもくれなかった。その時の友人の顔はとても幸せそうだった。
「人ってなんでこうなんだろう。」
人の暗部に触れながら生きてきた彼女の中には何時も不信が宿っていた。人は優越感に浸ることを習慣化してしまうとなかなかそこから抜けられない。自分の事を大変褒めてくれる上司の元で仕事がしたいと思われてしまうのはそのせいである。いじめも同様。何か自分が相手にたいして不足を感じたり敗北感を感じたりした時、人の脳はそこで優勢を取り戻そうとする。そうすると相手の粗を探し漬け込み自分の方が優れていると自己顕示欲が働く。それがいじめの正体である。そして彼女もまたいじめの被害に遭った経験があった。小学校でも中学校でも幼少期の思いはその後の人生に多大な影響を及ぼす。
「ほんとにつまらない人生だなぁ〜。」
等とまたしても頭の容量を超えてしまいそうなことを考えているとピンポンと自分の部屋のインターホンがけたたましく鳴り響いた。
「あれ?来るの今日だっけ?」
「あれ?違ったっけ?」
「もー!明日のはずでしょ!?何も準備してないよ!部屋もちらかってるし……」
「別に気にしないよ。」
そんな彼女の元に日にちを間違えて恋人が尋ねてきた。彼の名は篠崎 元気。悩み多き彼女の唯一の心の支えである。
「なんか、鬱なんだよね。今日。」
「大丈夫か?なんか食べに行く?」
「うーん。気分乗らない。」
「映画でも見るか。」
「今日はちょっと一人でいたいかな。」
「えぇー。じゃあ帰るか。」
「うんごめんね。」
素っ気ない1つ返事を返し彼を帰らせてしまった。自分としても情けない気持ちでいっぱいだった。自分の心の支えとなっているつっかえ棒を自らへし折ってしまうが如く。
ほんの数秒であった。自分の住むマンションの1回に車が激突していた。
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