第16話 ED研究会発足

「よお、透。相変わらず下の調子はどうだ?」


「……どうもこうも変わらないよ」


「はは、そっか。わりぃわりぃ」


 翌日。教室に入ったオレに前の席に座るクラスメイト・浜村(はまむら)茂雄(しげお)が話しかけてくる。

 こいつは高校に入って知り合った友人だが、このクラスの中では比較的話しやすくオレが不能とぶっちゃけてからもそれほど距離を取らずにいてくれた数少ない友人の一人だ。


「にしても、ここ最近のお前すごいな」


「は? 何がだよ」


「何がって……我がクラスのアイドル本城夏美。更に隣のクラスのマドンナ宮野秋葉。更には三年の笠瀬冬乃先輩からも言い寄られているんだろう? 今や学校中の話題だぜ」


「へ、マジで?」


 茂雄のその一言にオレは思わず仰天する。

 というか、夏美さんや秋葉さんは分かるが冬乃先輩のことも、もう噂になっているのか?


「そりゃな。冬乃先輩ってこの学校でも変わり者らしいから。っていうか聞いた話だと彼女が所属するクラブにお前が入ったって聞いたぞ」


「ん? いや、確かに彼女のクラブには行ったけれどオレは入ってないよ」


「そうなの? でも今朝、冬乃先輩。校門の前でビラ配りをしていたぜ」


 ビラ配り? なにそれ? と思わず聞き返すオレに茂雄がカバンからその紙を取り出す。


「ほれっ」


『医療研究会あらためED(不能)研究会部員募集中! あなたのモノの相談乗ります! どんな不能も一緒に治しましょう! 同じ悩みを持つ部員と語らうことであなたの心的要因も治せるかも。現在部員は三年・笠瀬冬乃と一年・下野透。不能を恥じずに一緒に研究し治しましょう!』


 なんじゃこりゃーーーーー!!!

 思わず掴み取って叫ぶ。

 それと同時に教室の扉が開いて同じビラを持った秋葉さんが現れる。


「ちょっとちょっと! 透っち! これってどういうことー! なんでうちに相談せずにあんな妖しい研究会に入ってるのー!?」


「え、いや、秋葉さん、それは違って……!」


「と、透君! これって私よりも冬乃先輩の治療の方が頼りがいがあるってことなの~!?」


「って、夏美さんまでー!?」


 気づくとオレの周囲に夏美さんと秋葉さんが詰め寄り、ビラの部員の部分について追求してくる。


「っていうか、それについてはオレが冬乃先輩に直接聞きたいくらいでー!」


「なにやら騒がしいな。後ほど、出直したほうがよいか?」


 騒ぐオレ達の耳に入る冷静な声。

 はっと後ろを振り向くとそこにはいつからいたのか冬乃先輩がいた。


「って、冬乃先輩! これってどういうことですかー!?」


「ん? 見たとおりだが、ほれ君も昨日言っていたではないか、いつでも私のいる部室に来たいと」


「はあ、まあ確かに言いましたが……」


「それならば部員になってくれた方がいつでも気軽に部室に来れるだろう」


 まあ、確かにそれはそうですが……。そういうのはせめてオレに相談してからで……。

 と、そんなことを思っていると隣にいた秋葉さんが身を乗り出して、冬乃先輩に詰め寄る。


「そういうことならうちもこの部活入る!」


「えええー!? ちょ、何言ってるの秋葉さん!?」


「当然じゃない! つーか、透っちの不能を治すのはうちの役目だしー!!」


「うむ。そういうことなら遠慮なく入ってかまわぬぞ。不能の悩みを持つ者、それを治したいと思う者。どちらも我が研究会には必要な人材だ」


「そ、そういうことならわ、私も!」


「いやいや! 夏美さんは陸上部があるからダメでしょう!」


「あ、あううう……」


 オレの至極真っ当なツッコミに項垂れる夏美さん。

 しかし、先輩が「兼任でもよいぞ」と呟くと「じゃあ、入ります!」とあっさり差し出された入部届けにサインした。

 本当にいいのかよ、おい。


「うむ。これで部員は五人。我が研究会も立派に部活と呼べるものになったな」


「え、ちょっと待って。五人? それってどういうこと?」


 部員は冬乃先輩、オレ、秋葉さん、夏美さんの四人のはず。あと一人は一体? と尋ねると、


「うむ。実は一人、君と同じ悩みを持つ者が先程入部してきたのだ。というわけで今日の放課後から忙しくなるぞ。透」


「え、ええええええええええええ!!?」


 思いもよらぬ事態にオレは混乱の叫びを上げるのだった。

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オレ不能なんだと告げたら学年一の美少女が全力で迫ってきた 雪月花 @yumesiro

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