第672話 ツョッカー病院の副院長

「ただ……人魔症にはかかってはないダニイィィッませんが……脱水症状が激しいダニイィィッ……イィィッったい何を食べられたんダニィィィィ? こう見えても私、食には少々うるさいダニイィィィイwwww」

 その言葉を聞くタカトなどは苦笑いを浮かべずにいられなかった。

 ――いやいやいやwwwこう見えなくとも最初から食にうるさそうなのは分かりますがなwww

 そして、ビン子もまた同様にニヤニヤしている。

 ――だってwwwその青白い顔を両サイドから挟んでいる板はパンでしょ! 絶対!パン!

 スグルにいたっては、いつツッコみを入れようかとうずうずと腰を動かしている。

 ――ということは、そのコスプレはサンドイッチってオチなんですかwww

 もうねwww その恰好からして食べ物大好きそうに見えちゃうから仕方ないのだwww

 

「ハ……ハン……バ……」

 クロトは紫色に干からびた唇を金魚の口のようにパクパクと動かし何かをつたようと頑張っていた。

 だが、よほどその声が聞きにくいと見えたのか、医師はクロトの口元へと耳を近づけた。

「えっ? なんダニイィィィイ?」

 だが、その瞬間!

「うげぇ!」

 クロトがつぶれたカエルのような悲鳴を上げたのだった。

 まさか、この医師……門の騎士の候補者になっているクロトを暗殺しに来たアルダインの手のモノなのだろうか。


 いや違うのだ……

 医師の背後には目を素知らぬ顔で腕を伸ばすビン子の姿。

 どうやらこのビン子が……医師の背中をそれとなく押したようなのだ。

 当然、中腰で作業していた医者はスッテんコロリンwww

 そのまま、サンドイッチの顔がクロトの顔へと突っ込んだのである。

「うげぇ!」

 悲鳴を上げるクロトの口に医師の口がブチュッゥゥゥゥ!

 死にかけてなくても悲鳴をあげたくなるのはよくわかる。

 だって……この医師の顔は……タケシなのだ!

 まぁ、タケシと言っても本郷田タケシの事ではない。

 どちらかというと、サンドイッチ男のタケシの方なのだ。

 だからなのか、下につく息子はミキオなのであるwww

 そんなことはどうでもいいのだが、やはり青紫色をした唇から臭い体液がクロトの口へとジュルリ……おそらくもう、クロト自身、この前後の記憶が完全に吹っ飛んだことに違いないだろうwww

 あっ、ちなみに体液は唇の中に溜まった腐汁ですからね。決して、ミキオの汁ではございません!

 

 この様子を見ていたタカトは確信した。

 ――ビン子の奴……ついに、クロトの口を封じよった!

 クロトの口から体調不良の原因がビン子の作ったハンバーガーであると漏れれば、当然に損害賠償請求がやってきてもおかしくないのである。

 ということは、ビン子自身が今できる口封じ行為なのだろう。

 って、確かに口と口でブチュゥぅぅ! 口封じであるwww

 なんか違うような気もしないでもないが、結果オーライ!

 タカトはビン子にアイコンタクトを送りながら心の中でガッツポーズをしていた。

 ――ナイス! ビン子ちゃん!

 ――やったわ! タカト! これで証拠は何も残らないわwww

 そして、ビン子もまた得意げにアイコンタクトで答えながら心の中でピースサインを作っていた。


 床の上でくんずほぐれつの二人に一人のナースが駆けつけてきた。

「どうしました! 伊達右〇近大夫!」

 純白のナース服からのぞく黒い肌。

 だが、その肌のきめ細やかなところを見ると、かなりの美人であることは間違いない。

 しかも、その上、身の丈に併せたナース服の胸のボタンはパッツンパッツンww今にもボタンがはじけ飛びそうなほどである。

 そんな胸をゾンビのような医師の背中にべったりと押し付けると無理やり引きずり起こした。

「気を付けてください! もう頭の替えがないんですからね! このウンコ〇野郎……いや、ウ〇コン大夫!」

 

 タカトは巨乳が背中に密着などというとてもうらやましい状況を見て居ても立っても居られなかったのか……つい本能的に禁断の言葉を漏らしてしまう。

「私めも、オッパイもんでもいいですか!」

 まぁ、当然www

 バキーン!

 という激しい音ともにタカトの顔面が血を噴きふっとんだwww

 あれ? バキーン?

 普通、このパターンだと、「バシっ!」という音ともにビン子さんのハリセンが降ってくるはずなのだが……

 当のビン子は、ハリセンを振りかぶった状態で固まっていたのだ。


「何がオッパイ揉ませてだ! この変態糞野郎が!」

 倒れるタカトをさらに足蹴にするナースを見ながらビン子はつぶやいた。

「もしかして……ルリ子さん?」

 そう、タカトの顔面をきれいな右ストレートで打ち抜いたのは、紛れもなく鰐川ルリ子だったのである。

 それに気づいたビン子のハリセンの動きが、一瞬遅れたのは仕方のないといえば仕方のない事だった。


 ということは……この医者は『サンド・イィィッ!チコウ爵!』。いや! 『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵 ニみきおゥ!』なのか⁉

 というか、彼らはツョッカー病院へと逃げたはず。

 そんな彼らが、なぜ! 今?

 というか、ほんの数時間前にお別れしたばかりだったよねwww


 そう……確かに、彼らは地下闘技場を後にしたのちツョッカー病院へと逃避行した。

 というか、立花ハイグショップを辞めたルリ子にとって、もう、行くところがほかになかったのである。

 え? ルリ子の家?

 そんなもん、2か月分の家賃滞納によりすでに玄関の鍵を火器に変えられておりますわ!

 触った途端、はい!ちゅどーん! あっという間に家ごと爆発!あの世行きwww

 そんでもって、入居時に強制的に加入させられた生命保険で滞納分のお家賃はキッチリ回収されてめでたし!めでたし!

 これが家主モンガ=ルイデキワ、いや、ルイデキワ家のやり口なのである。

 だからこそ、ルリ子は鰐川ヒロシが失踪して家賃の支払いが滞って以来、ラーメン屋『キッチンラ王』の裏にある物置小屋で生活していたのだ。

 というのも、ラーメン屋とあっていつもお湯が沸いていたのだ。

 このお湯……店主のラオウが作る『同人誌に描いていた女を強制的に惚れさせるラーメン』のスープならいざ知らず、麺をゆでるお湯はまっさらで奇麗なもの。冷ませば白湯として飲める程である。

 年頃の乙女にとって毎日、湯あみができるというのはどれだけ幸せなことか。

 しかも!しかも!店主であるニシン ラオウは『同人誌に描いていた女を強制的に惚れさせるラーメン』を作ることに夢中で、壁一つ挟んだ庭先でルリ子がタオル一枚で水浴びをしていることなど知らないのだ……というか、まったく気づいていないのである。

 だが、今やそんなラオウからも追われる身……

 もう、ルリ子には戻る場所などなかったのである。


 そして、 『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵 ニみきおゥ!』もまたデスラーを見捨てた身……いまさら、どこに行こうというのであろうか……

 って、彼はこの時まだ、デスラーが異次元に消えたことを知らないはずなのでは?

 そう、当然、彼はそのことを知らない。

 知らないのだが……自分の傍らには行き場を失った少女がトボトボと歩いているのである。

 そんな彼女を野宿などさせることができようか……いや!できはしない!

 せめて、屋根のある場所……

 あたたかな朝食を食べさせられる場所……

 そして……

 ――この子が安心して笑える場所……だニィィィィ……

 と思った時、サンド・イィィッ!チコウ爵 が思いつくのは自分が作られたツョッカー病院しかなかったのである。

 だが、もし、そこでデスラーと鉢合わせをしたならば、かなりひどい目に会わされるのは目に見えていた。

 それは彼の腐った頭でも十分理解できている。

 もしそうなれば……自分の身を自ら差し出す覚悟をしていたのだ。

 おそらくサディストのデスラーのこと、喜んでサンド・イィィッ!チコウ爵を改造するだろう……たとえば、今度はハンバガーとかに……きゃぁぁぁぁぁぁ!

 だが、しかし、そんな痛い目に会うのは自分だけ……自分だけなのだ。

 ――この子はひどい目に会わされることはないだニィィィィ……た……たぶん……だニィィィィ……

 そして、なにより……ツョッカー病院にはルリ子が探すヒロシの頭があるはずなのだ。


 ということで、サンド・イィィッ!チコウ爵 は医師に、そして、ルリ子は看護師になったのである。

 え?

 話がつながらない?

 コレだけ説明しても分かんないかなぁwww


 仕方ない、もう少しだけ説明しよう。

 太陽が地平線からほんの少し顔を出しだしたころ、ツョッカー病院では一人の男の怒鳴り声が響いていた。

 おそらくこの男が、ツョッカー病院の院長だと思われる。

 というのも、顔の真ん中に「いんちょう」と黒い文字が書かれていたのだから。

 そんな院長が看護師たちの手を引っ張っては片っ端から確認しているのである。

「デスラーはどこだ! 遅刻か! あのジジイ! 今度遅刻したらクビだって分かってんだろうな!」

 まだ、午前5時……看護師であっても強制帰宅させられるツョッカー病院では朝一番の作業は入院患者たちの生存確認をすること。

 夜のうちに状態が悪くなって亡くなっている患者も多いのだ。

 その数およそ10.……入院患者の5割を占める。

 そのため、院長に構っている暇などあるわけもなく、あわただしく防腐作業をしなければならないである。

 そう、ツョッカー病院はブラック中のブラック病院!

 入院患者にも超厳しいが、働く者にとっても厳しい環境なのである。

 だから当然、遅刻すればクビなのだ!

 まあ、デスラーもデスラーですでに999回遅刻をしているので、コレでめでたく1000回目の再入社のための履歴書を書かないといけなくなるwww


 そんな時、病院の玄関にかの二人が現れたのである……

 不機嫌な院長はそんな二人を見るや否や!

 怒鳴り声をあげた!

「ハイ! 採用!」

 まだ二人とも何も言ってないにもかかわらず……である……

 というか、この院長、これでもちゃんとした医者なのだ。

 そう! プロはプロを見分けられるというではないか。

 そういった感じで、一目見ただけでサンド・イィィッ!チコウ爵の医者たる才能を見出したようなのだ。

 まあ、よくよく考えてみれば……サンド・イィィッ!チコウ爵の体はヒロシなわけで、医者としての技術はその仕草に現れていた。

 え? 頭? 医者としての知識はいらんのかい!

 うーん、頭は別にいいんじゃない? だって、ツョッカー病院はヤブで有名なんだから、誰が治療しても同じことなのよwww

 そして、そばにいるルリ子もまた看護師として採用されたのだ。

 確かに、この娘、言葉の割にはよく気の利く優しい子。看護士という職業は適任なのかもしれない。










 


 

 

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