第671話 1.21ジゴ(く)ワット!腰抜けマクフライバーカー糞野郎!

 タカトはしばしばとする目をこすりながらビン子を怒鳴りつけた。

「お前! いったい何を食べさせたんだよ!」

 だが、ビン子はキョトンとしながら。

「えっ? あんたたち、私に内緒でお風呂屋さんに行ったんでしょ!」

「お風呂屋さんって何のことだよ! 銭湯なんて行く暇なんかないツーの! だいたい昨晩、俺たちは地下闘技場で死にかけの戦闘をしてたんだぞ!」

「はい? 地下闘技場? 未成年なのにそんなところに行っていいと思ってるんですかぁ~!」

「あのな! 俺はギャンブルしにいったわけじゃないんだよ! ルリ子っていう人がさらわれたっていうから助けに行ってたの!」

「ふーん」

「なんだよ! そのふーんって」

「だって、そのルリ子さん、この場にいないじゃない!」

「いや……よく分かんないんだけど……後で聞いた話では……さらわれたんじゃなくて、ココを辞めたみたいなんだよ……」

「やっぱり! ルリ子さん、関係ないじゃない!」

「そんなこと知るか! というか、大体! お前はクロトたちに何を食わせたんだよ!」

「え? なにって? 決まってるじゃない!『1.21ジゴ(く)ワット!腰抜けマクフライバーカー糞野郎!』よ!」

「なんだよ! その(く)は! 糞の『く』か!」

「何言ってるのよ!そんなことあるわけないじゃない! 一文字で前と後ろにダブルでかかっている超絶品な一文字よ! 前にかかれば地獄ぅ~!後ろにかかればクワットで4個の意味wwwすごいでしょwww」

「って、ビン子! お前は馬鹿か! それはクワットではなくてクワッドだ!」

「え……そうなの? ま、まぁいいじゃないwwww」

「というか、このハンバーガーに挟んでいるフライはなんのフライなんだよ!」

「決まってるじゃない! 某ハンバーガー屋さんのマクフライよwww」

「お前、ハンバーガー屋さんで買うだけの金なんて持ってないだろうが!」

「だから、そのへんに落ちていたミンチ肉を使ったのよ。某ハンバーガー屋さんだけに落ちている肉ってねwww」

「はい? その辺に落ちていた? というか、ココはハイグショップ、リサイクル屋だぞ。肉なんて落ちているわけないだろうが!」

「えっ? そこらへんに落ちてたわよ。ほら、そこにも……」

 ビン子が指さした際に転がる一つの肉片。

 まるで、肉屋ブッチャーにでも潰されかのようなグチャグチャな断面には小さな穴が開いていて、そこから何やら白い液体がどろりと垂れ落ちていたのである。

 うん、もしかして、この白い液は昨晩、店に忍び込んできたオッサンたちのモノなのだろうか?

 という事は、オッサンたちが突っ込んだという小さい穴ってこの肉片の事なのだろう。

 ……というか、この肉片はいったいなんなんだよ?

「あっ! それ! 俺が食べようと思ってアジャコンダの肉を2つほど引きちぎって持って帰ってきたんですよwwwでも、どうやらあの女蛇、神経質みたいで胃潰瘍になってて、いたるところに小さな穴が開いてたんですわwww」

 噴水を放出し終わって落ち着いた様子のスグルが恥ずかしそうに頭を掻いて立っていた。

 そうか、そうかwwwこの小さな穴は胃潰瘍でできた穴だったのかwww

 ……うん?

 ……ということは……

 ……ビン子が使った肉はアジャコンダの肉。

 ……アジャコンダといえば魔物の蛇……だったよな……

「ビン子! お前、ちゃんと魔の生気は抜いたんだろうな!」

 そう、魔物の肉を食べるときには魔の生気を十分に抜き取らないと食べられないのだ。

 もし、魔の生気が残った肉を食べようものなら人魔症にかかってしまいかねないのである。

 そんなタカトの指摘にドキッとするビン子は、あたふたと言い訳を始めた。

「そ!そんなのするわけないじゃない! だいたい、この店の中に魔物の肉なんて落ちてるって思わないわよ! 普通おちてるとしたらヘビかネズミかキリンぐらいでしょうが!」

 いや……キリンはないと思いますwww

 だが、今はそんなことに突っ込んでいる暇はない。

 タカトは心配する。

「……魔の生気を体内に取り込んでしまったんじゃないのか……」

 そう、性病を予防するにはあれほどコンドーさんが大切だと言われているにもかかわらず……床にころがる肉から白濁の液体が垂れているということは……ノースキン! ノーガード!

 その勇気は男として称賛というか、羨望に値するのであるが……

 魔物であるアジャコンダの肉の穴に、己が持つ何かを突っ込んでしまったオッサンたちは、当然にその何かの先端に開いた小さな穴から魔の生気を取り込んでしまっているに違いないのだ。

 おそらく、クリティカルヒット間違いなし!

 だが……そんな小さき穴に突っ込んだオッサンたちの出来事は、タカトたちが寝静まった夜明け前のお話。当然、そんな事実など知らないタカトが心配するのは、

「マジでヤバいんじゃねえの……これ……マジで……どうすんのよビン子ちゃん……」

 タカトは床に転がるクロトと立花の様子を伺った。

 白目をむいて口から泡を出している二人は、もはやいつ死んでもおかしくないという様子。

 魔の生気をダイレクトに体内に取り込んだのだから、すぐさま人魔症が発症してもおかしくない状況なのである。

 ――やっぱり、この状況……救急車呼ばないとまずいんじゃね? でも、守備隊に状況を説明すれば……加害者はビン子ってことになるよな……ちょっとまて……そうなると、次に来るのは損害賠償! もし多額の金を請求されたらシャレにならねぇ! というか、ウチにそんな金ないし! いやいや、ココは過去の世界だから爺ちゃんの家そのものがないし! まじでヤバイ! ヤバすぎるって! これ! マジでどうすんのよビン子ちゃん!

 だが、そんな中、スグルがウンコずわりをしながらクロトのほっぺをつついているではないか。

「クロトさん~大丈夫ですかぁ~」

 ――って……確か……こいつもバーガー食ったよな……

 「そういわれてみれば……なんでお前は立ち上がれてるんだよ」

 ――ということは、実はクロトたちも起き上がることができるんじゃないだろうか。

 などとかすかな期待を込めてスグルに声をかけたのだが、当のスグルはだるそうに振り返ると、

「だって、俺、魔人ですから、人魔症とか関係ないですしwww」

 言われてみれば確かにそうだ。

 ――やっぱし、クロトたちはクリティカルヒットじゃんwww

「でも!でも! お前、バーガー食った瞬間ぶっ倒れてただろ!」

 自分の求める答えを引き出そうと何とか食い下がるタカトであったが、スグルはテレを隠すかのように頭をかきかきしながら、

「そうなんですヨ! マジで腰が抜けるほど不味いんですヨwwwwコレwww」

 不味いんかい!

 というか、ただ、不味かっただけかい!

 だが、そこまで言われたら、食べてみたい。

 人間、ダメだと分かっていても危険な香りがするものに対しては好奇心がわいてしまうものなのである。

 ということで、当然、タカトもwww

 ―― 一口ぐらいなら大丈夫かなwwwまだ、確かあと一個残っていたよな……

 損害賠償の心配などどこに行ったのかwww 沸き起こった興味の視線は背後のハンバーガーへと向けられた。

 すると、なんと! そこには!

 今にもハンバーガーを口に入れようとしていたカルロスの姿があったではないか!

「カルロスのオッちゃん!」

 ビクっ!

 タカトの怒鳴り声にカルロスは、すぐさまハンバーガーを口の中へと入れるのやめると、しれーっとそれを皿に戻しはじめたのであった。

「というか、カルロスのオッちゃん……今、そのハンバーガー食べようとしてたよね! 魔の生気含んでんだよ! 分かってんのか!」

「いやいやwwwそんなことしようとしてないぞwwww」

「いや! 絶対に食べようとしていた!」

「仕方ないだろう! そこまでまずいって言われたのなら、一度は食べてみたいじゃやないか!」

 たしかに、タカト自身、カルロスと同じ思いを抱いていたのは事実であった。

 そのせいか、なぜかカルロスに怒りというより親近感を覚えてしまったのである。

 だが、そんな中、一人納得ができないものがいた。

 そう、ビン子である。

「何よ! 人がせっかく作ったのに、そんなにマズイ! マズイ!って言わなくてもいいじゃない‼ まぁ、確かに……魔物の肉をそのまま使ったのはマズかったかもしれないけれど……」

 と、ガラにもなく反省しているビン子ちゃんであったwww


 カルロスは、わざとらしく一つ咳ばらいをすると、

「心配するな! 俺が何とかしてやる! すぐさま救急搬送の連絡を入れてくるからな!」

 と大声を上げると、逃げるように外の明るい路地へと走り出していったのであった。

 走り去っていくカルロスの背中を見ながらタカトは思った。

 ――カルロスのオッちゃん! カッコイイぜ!

 というのも、人が歩き始めた路地上をチアリーダーのコスチュームのまま走っていくむさいオッサンの姿はある意味、恰好よかったwww


「人魔チェックの結果は陰性ですしイィィッ! 人魔症の可能性はありませんしイィィッ! 大丈夫だと思イィィッ!ます!」

 クロトの脇で中腰の医師が検査結果を見ながら大見えを切っていた。

 この医師、先ほど飛び出していったカルロスが連れて戻ってきたツョッカー病院の医者である。

 えっ? ツョッカー病院?

 クロトは神民なんだから神民病院の医者を連れてくるべきなのでは?

 だって仕方ないじゃないか!

 ここは貧民街の外れのはずれ……あと、数センチでスラム街!といったようなところなのだ。

 神民病院の偉い先生方がこんな小汚い貧民街に来てくれるわけないだろうが!

 そうなれば……たらい回しに次ぐたらい回しの末、行きつく先はツョッカー病院に決まっているのである。

 そもそも、この場所から神民病院がどれだけ離れていると思っているんだ!

 ――あんな格好で神民街など走ったらエメラルダ様に一生ネタにされてしまいかねんわ!


 だが……ツョッカー病院といえば……やぶで有名……

 切断された腕などは、くっつくどころか触手が生えてグニグニと動くという。

 もう、まじで手術というよりかは人体改造を地で行く病院なのだwwww

 そんな病院の医者が、自信満々に「人魔症ではありません」などと言っても信用できるわけないだろうが!

 というか! お前にだけは「大丈夫だ」と言われたくない!

 というのも、この医師……少々顔色がおかしいのだ……そう、いわゆる死人のように青白く死臭が漂っているのである。

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