第670話 朝日が昇って朝ごはん
「朝ごはんできたわよ!」
あれほどイカ臭かった店内にエスニックな香りが立ち込めていた。
そんなビン子の声に反応したのか床に転がっていた男たちが思い思いに目を開けはじめた。
「もう朝か……なんか体が痛いな……というか、ケツが痛い!」
カルロスは大きく伸びをするとトントンと腰を叩いた。
その横でスグルもまた、首を右に左に傾けている。
「仕方ないですよ……カルロスさん……これしか着るものがなかったんですから」
スグルはパッツンパッツンに伸びきったチアリーディングのユニフォームの袖の部分をつまみ上げながら半笑いを浮かべていた。
「まぁ、確かに裸よりかはましだよな……しかし、胸はちょうどいいんだが、他がどうにも小さすぎてだな」
そう、この二人が身に着けているユニフォーム。実はハイグショップにあったルリ子のものであったのだ。
というのも、地下闘技場から裸で帰ってきたカルロスとスグル。
疲れ切って、そのままごろり……と、転がったのだが、そんな姿のままで店内でうつ伏せになっていれば、外からお尻の穴が丸見えになってしまっていた。
そんな状況……通りから店内を覗くオッサンたちはきっと思うことだろう。
まぁ♡ こんなところに穴が二つ♡
しかも仲良く並んでるいるじゃあ~りませんか♡
……ということは!
……
……
この穴に何かぶすりと突っ込みたい!
いや! 突っ込むぞ!
そう、男なら誰しもが持っている子孫繁栄の生存本能である!
しかも、ココはハイグショップ! リサイクル屋さんときたもんだ。
店内の床の上には使い古した道具がそこかしこに転がっていたのである。
例えばドリルとか!
ディルドとか!?
バイブとかwww
ならば! 突っ込んでみよう!このバイブ!
ということでブスリ! ブスリ!
などというようなことになりかねない。
だが、そんなことにでもなったりしたら、『立花ハイグショップ』が『立花バイブショップ』になってしまい風営法に引っかかりかねないのだ。
それを案じた立花は、店の奥から一そろいの服を二つ取り出すとそれぞれ二人に手渡した。
「せめて、これでも着てから寝ろ!」
だが、服を見たスグルとカルロスは困惑の表情を浮かべていた。
「女物じゃないですか!」
「こんなの着れるわけないだろうが!」
そう、立花が手渡したのは、かつてルリ子が身に着けていたユニフォーム。
それを、ルリ子に見つからないように立花が隠し持っていたものなのである。
しかも! なんと! ルリ子本人が使用した上に未洗濯という超レアな一品だったのだ!
そう!この類の中古商品!ハイグショップでも一二を争う超人気商品だったのである!
だいたい、融合加工のリサイクルショップで経営が成り立つわけがないだろうがwww
ということで、こういった表には出せないアングラな商品の販売収益によって立花ハイグショップは持ちこたえていたのである。
そして、現在、その唯一の在庫商品。それがルリ子が所属していた神民学校のチアリーディング部のユニフォームだったのである。
だが、それを手渡す立花の表情は少々険しかった。
というのも、ここでこのオッサンたちがユニフォームを身に着けようものなら、そのレア度はがた落ちになることは間違いなかった……
そう……もはやそうなればリサイクルショップで売ることもできないゴミくずとかしてしまうのである……
そんなもったいない!
むさいオッサンたちに着せるぐらいなら、作者にくれよ! などと、世の男どもは思うことだろう。
だが、立花は決断した。
そして、ユニフォームを二人へと強く押し出したのである。
なぜなら……ルリ子はハイグショップを裏切って、ツョッカー病院に勤めると言いだしたのである……
――あの裏切者!
ということは、もはやルリ子に義理立てする必要もないのである。
うん? 義理立て? ルリ子の服をパクってんだろwww
いやいや義理立てですよwww
だって、一応、ハイグショップの裏のカタログには、数ある女性の中でナンバーワンとして記載されているんですから。
そこまで優遇してやっているにもかかわらず、ルリ子は裏切りやがったのだ。
といっても、カタログに載っている多くは犬とか猫とかババアとかなんですけどねwwww
――許すまじルリ子!
だが、そうは思っても、すでにルリ子はサンド・イィィッ!チコウ爵とともに旅立った後。
いまさら、ルリ子に仕返しをしたいと思っても後の祭りなのである。
そんなことは分かっている。
分かっているのだが、やはり、立花の気持ちは収まらない。
いや、このユニフォームを見るとさらにイライラが募りだしたのである。
だからこそ、このユニフォームをルリ子に見立てオッサンたちに無茶苦茶にさせようと思ったのかもしれない。
そんな事とも梅雨知らず、小さいユニフォームの袖の穴に無理やり太い腕を通すオッサンたち。
いかに伸縮性のあるの生地とはいっても限界まで伸びきっていた。
「このクソ野郎! 痛いって言ってんだろ! そんな大きいの入るわけないだろうが! 痛い! 痛い! 痛い!」
おそらく立花の脳内では、悲鳴を上げ続けるルリ子の叫び声が聞こえていたことだろう。
だからなのか、そんなユニフォームを見る立花はほくそ笑んでいた。
「まぁ、何もないよりかはマシか」
「カルロスさん……俺、疲れたっす……だから、もう、寝ます……」
そういいながらカルロスとスグルはバタリとうつ伏せになった途端、寝息を立て始めた。
だが……この時、立花は大切なことを失念していたことに気づいていなかった。
そう、このユニフォームの下はミニスカート。
しかも、中に着るアンダーウェアーはすでにどこかのオッサンに販売済みであったのだ。
そのため二人の下半身はスッポンポンのまま……外の通りからは小さな穴が丸見えの状態だったのである。
って、コレ……裸の時と何も状況が変わってないやんwwww
そんなものだから……皆が寝静まった明け方に……店内に忍び込んできたオッサンたちの声が聞こえてきた。
「こりゃ
ブスリ! あん♡
「また言ったな
ブスリ! あん♡
ドク! ドク!
「しかし、何も履いていないのはそそらないよな(怒)」
「テレレ レッテ レー! 持っててよかったティーバック!」
「マァ!ティ……バック、当座……ブッチャァー-----」
意味わかんねぇwww
いいんだよwww分かる人だけが分かればそれでいいのwww
ということで、オッサンたちが入れ代わり立ち代わり ブスリ! あん♡
まさにこの風景……なんか濃ゆいwwwというか、生々しいwww
きっとこういうのを、デロリというんだろうな……
ちなみに『デロリ』とは岸田劉生が生みだした造語で、生々しいしつこさや、独特の濃い表現として使われるらしい。
デロリ! あん♡
デロリ! あん♡
ドク! ドク! ドク!
ドっー-------ク!
などと、ココが過去の世界だけ、時間を跳んだ映画の中のようなセリフが店内に何度も何度も響いていたwww
というような夜明けの出来事など、ハイグショップでうごめきだした面子が知るわけもなく、思い思いに伸びをして朝の光を満喫していた。
「ふぁぁぁぁぁ」
大きなあくびをするタカト。
「昨日は大変だったねwww」
起き立ちのクロトもまた頭を掻きながら愛想笑いをタカトに向けていた。
そんな彼らの中心にドラム缶がひっくり返って錆びた底を天に向けていた。
そう、そのドラム缶こそ昨日の夜、タカトやビン子たちがラーメン屋のニシン ラオウが作りしサンドイッチを食したテーブルであったのだ。
そんなドラム缶がドン!っと大きな音を立てたのだ。
当然、朝立ち、いや、朝起きだちの5人の目はドラム缶へと集まった。
ドラム缶のテーブルの上には大きな皿が一つ乗っていた。
しかも、その横では腕を組んで仁王だつビン子が睨みを利かせていたのである。
「さっさと食べなさいよ! 私が一生懸命に朝ごはん作ってあげたんだから!」
そんな皿の上には昨夜食べたようなカツが挟んであるサンドイッチなどではなくハンバーガーが4個のっていたのだった。
「これはカツレツバーガーかな? 美味しそうだねwww」
よほど腹が減っていたのだろうかクロトはニコニコと笑顔を浮かべながら、そのうちの一個へと手を伸ばした。
そんな様子を眠気まなこでぼーっと見ていたタカトは、何かよからぬ予感を感じとった。
というのも、目の前にいるビン子から何か怨念というか恨みというか……いわゆる負のオーラのようなものを感じ取ったのである。
しかも、目の前のハンバーガーはビン子が作ったものなのだ。
ビン子といえば、創作アート料理界のレジェンドを夢見ている乙女である。
そんなビン子が作るものといえば……『電気ネズミのピカピカ中辛カレー』とか『
そんなビン子が……
そんなビン子が、どす黒い負のオーラをまといながら朝ごはんを作ってやったと言っているのだ……
「ちょっと待て! クロト! 早まるな!」
とっさに飛び起きたタカトは大声を張り上げた。
だが、遅かった……
「まっずぅぅぅぅうぅぅ!」
口を押えたクロトが悶絶の表情を浮かべてのけぞっていた。
宙に浮く足。
弧を描く後頭部。
その後頭部が上下に反転し口が天井に向いた瞬間!
ブシャァァァァァァア
クロトの口の中からしぶきが上がった。
落ちていくクロトの体。
それに付き従うかのように、かつてハンバーガーであった吐しゃ物が五月雨のように降っていく。
だが、それで終わりではなかった。
というのも、水しぶきはもう一つ上がっていたのだ。
それはクロトに先を越されまいと、我先に手を出した立花どん兵衛のものであった。
クロトに遅れる事、ほんのわずか。
こちらの後頭部もきれいな弧を描き、ゲロの水滴をまき散らしていた。
「まっずぅぅぅぅうぅぅ!」
朝日が差し込むハイグショップの店内。
油で薄汚れた店の壁が太陽の輝きによって白く清められていた。
そんな清浄なる空間の中を大小さまざまな水滴が舞っていた。
その内に赤や緑といった様々な色を含有し、キラキラと光を散らすその様は、まさに某ランドのエレクトリカルパレードのように華やかである。
そう、臭いをかぐまでは……
うぐっ!
鼻をつまむタカト。
そう、二つの噴水が立ち上った少し後、鼻の穴から胸の奥へと汚れた空気が流れ込んできたのである。
いまや、意識がタイムトリップしてしまいそうなほどの悪臭はハイグショップの店内を埋め尽くしていた。
というのも、三つ目の噴水が新たに上っていたのである。
「まっずぅぅぅぅうぅぅ!」
……って、スグルお前もかよ!
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