第668話 スグールとスグル

「ちっ! くそ! これで99連敗か!」

 カルロスはコントローラーを肉の床へと叩きつけた。

「次はどうしようかなwww もう、魔装装甲は全部脱がしてスッポンポンにしちゃったしなぁwww」

 って、これは脱衣ストⅡだったのかwww

 スグールの横では正座したカルロスが下半身の男のプライドを両手で隠しながら上目遣いでにらみつけていた。

「命を取る代わりになんでも言う事を聞くという約束だ! なんでも言え!」

「そうだな……それじゃ……外に出れたら、私を見逃してくれません?」

「馬鹿な事を言うな! ワシは魔装騎兵だぞ! 魔人を目の前にして見逃せというのか!」

「そこを何とかwwww」

「だが、どうやって外に出るというのだ、そもそもお前の力をもってしてもウンコの壁を突き崩せなかったのだろうが」

 そう、このスグールという魔人。ストⅡの話じゃなくてマジで強かったのだ。

 カルロスはスグールと対峙した瞬間、その秘められた闘気にスグに気がついていた。

 全身の毛という毛がスグールの闘気によって逆立っていたのである。

 ――こいつ……アイドルの尻フェチとほざいるが、実は……相当の手練れ

 おそらく魔装騎兵のカルロスと互角の実力だろう。

 まあ確かに、魔装装甲を限界突破すれば勝てなくもない。

 だが、ココは腹の中、そんな中で激しいバトルを繰り広げようものなら、激痛に耐えかねたアジャコンダが大暴れしてしまう事だろう。

 そう、外にはクロトたちがいるのだ……

 神民とは言え魔装騎兵でもないクロトは身を守るすべを持っていない。

 そんなクロトの身に何かあれば、主人であるエメラルダの責任になりかねなかった。

 ――ならば、外に出てからぶちのめす!

 そう、カルロスは心に決めていた。

 だが、外に出るためにはウ○コの壁を突き崩さないといけないのだが……

 そんな壁をスグールが突き崩せないと言っているのである。


 スグールの話によると、数メートルほど掘っても終わりが見えないらしい。

 それどころか、新しく製造されたウ○コが運ばれてくると、せっかく掘った穴が埋められていくのだ。

 折角、掘り進めても、それよりも早く掘った背後が閉じられる……

 ――このままでは埋められて窒息してしまう。

 スグールは目の前のどす黒い壁に向かって渾身の拳を叩き込む!

 だが、壁はひび割れるだけでびくともしない。 

 どうやら、アジャコンダは女の子特有の悩み事、便秘気味だったのである。

 しかも、それも長期間のフン詰まり!

 そのため、ケツの穴の前に溜まったウ○コは硬くとても分厚くなっていた。

 ということで、スグールはウンコの壁を叩き壊すことを諦め、腸内に転がっていたテレビとゲーム機でストⅡを始めたのだ。

 え? 何? 電気?

 そんなのコンセントプラグをそこら辺の穴に突っ込めば電気は来ますよ。

 だって、ここはアジャコンダの腹の中、体内電機があるんですからwww

 って、鬼太郎か!


 だが、カルロスは腐っても守備隊長!

 おとこのなかのおとこである。

 だからこそ、一度した約束はしっかりと守るのだ。

 だが……

「だいたい……外にはクロトがいるからなぁ……」

 大きくため息をつくカルロス。

 そう、カルロスがいくら見逃すとは言っても、外にはクロトとタカトがいるのだ。

 まぁ、神民でないタカトについてはどうにでもなる。

 そう、一般国民の言と神民たる自分の言とでは重みが違うのだ。

 だが、神民であるクロトは自分と同格、それどころか、魔人を見逃したという話がひろがれば、下手をするとエメラルダの責任問題になりかねない。いや、宰相のアルダインなどはそのチャンスを密かに伺っているかもしれないのである。

 ならばこそ、クロトに対する対応を誤れば大問題になりかねないのだ。

 しかし、そんなカルロスの心配をよそにスグールはニコニコと笑う。

「大丈夫ですってwww聖人世界ではよく言うではないですか。笑う門には福来る!って!」

「笑う門?」

「そう! お笑いです! お笑いこそ!世界平和の証! 皆さんはM-1グランプリの王者をたたえなければなりませ~ん! そう、彼らこそ!真の平和の使徒なのでぇ~す!」

「お笑いねぇ……というか、まぁ、外に出られたらの話だがな……」

 と、問題を先送りしようという、中間管理職の悲しいサガをカルロスが発動させた時の事だった。

 突然、通ってきた胃の方向から大量の光がどっと流れ込んできたのである。

 その光はわずかな明かりであった。

 だが、真っ暗闇のアジャコンダの腸内では、それはまるで神が発するかのような神々しいまでのまぶしいばかりの光であった。

「ああ神よ……この明かりは外の明かりでしょうか……」

「ああ紙よ……ウ○コを拭わなくともよいのですね……」

 すでに涙を流す二人は光の下へと這いずりはじめた。 


 そう、その光は控室にかざされた松明の光。

 その光が次元転移ミサイルによって切断されたアジャコンダの断面から差し込んでいたのである。

 かくして、カルロスとスグールは無事外の世界へと帰還することができたのだ。


 事の顛末を聞いたクロトは笑った。

「カルロスさん。それで真っ裸なんですかwww」

「だから、クロト。この魔人を見逃してやってくれないだろうか」

 カルロスは立つ瀬がないかのように頭を掻きながら視線を逸らす。

 その言葉を聞いて感動したのか、スグールは目を潤ませると大きく頭を下げた。

「カルロスさん! ありがとうございま――――ス!」

 クロトはその様子を見ると、しばらく考え込むと一つの質問をスグールへと向けた。

「君はいったい何人食べたんだい……」

 スグールはクロトへと顔を移すと一言。

「えっ? 0ですけど……」

「0!?」

 その言葉にクロトは驚いた。

 いかに人の言葉が通じたとしても目の前の生き物は魔人である。

 魔人とは魔物が人の生気を食らい進化したモノ。という考えが普通だったのである。

 それが、0!

 あり得ない。

「もしかして、君は最初から魔人だったとかかな?」

「いえいえ、私も最初は魔物でしたよ。でも、私、第六の門内で妖精たちが集める『妖精の蜜』の番人をしておりまして、時折、その蜜をペロリと舐めていましたら、いつの間にか魔人へと進化してたんですwwwwテヘペロ」

 『妖精の蜜』とは、妖精達が植物の生気を長い時間かけて集め濃縮した蜜の事。

 数滴でも男に使えば性欲アップで発情し、目の前の女に虜となる惚れ薬。

 女に使えば、排卵が誘発され妊娠確率が高まる子宝の薬として重宝されていた。

 ――確かに妖精の蜜は生気の塊……魔物が魔人に進化したとしても不思議ではない。というか、第六の門内に妖精の蜜がそんなに存在しているのか。

 希少価値の高い妖精の蜜。だが、魔物が魔人に進化できるほどの量が第六の門内にあるというのである。これはこれで重要な情報ではないだろうか。

 そんな情報を持っている魔人をみすみす殺してしまうのももったいない。

 かと言って、私利私欲に走る輩の手に渡ってしまうのも大問題なのだ。

 まあ、第六のエメラルダならその心配はないだろうが……魔人が手元にいるとわかれば、きっとアルダインに言いがかりをつけられることはクロトにも分かっていた。

 ――さてさて……どうしたものか……

 悩むクロトの横では、先ほどから現実逃避したタカトと立花どん兵衛がマツタケの舞を踊っていた。

「ねぇ、立花のオヤッサン。そういえば、働き手がいるって言っていませんでしたか?」

 そう、立花ハイグショップはタケシとルリ子という働き手を失ってしまったのである。

 もう、立花どん兵衛みずから働くしかなかった。

 そのつらい現実から目を背けるかのように踊り狂っていた立花は、クロトの言葉に勢いよく反応した。

「そうなんだよぉぉおおぉお! クロトおぉぉおおおおおお! どうしようおぉぉおぉおおお!」

 勢いよく近づいてくる立花の涙と鼻水でビショビショで汚れた顔を、クロトはまるで汚物でも避けるかのように手で遮りながら引きつった笑いを無理やり作る。

「この魔人、ハイグショップで雇ってみません?」

「なに? 魔人?」

 立花はスグールに鋭い視線を向けた。もう、そこにはあの泣きじゃくっていた表情はなく、どことなく仕事ができるような男の雰囲気になっていた。切り替え早っw

「おい! お前! 俺の言う事をちゃんと聞けるだろうな?」

 スグールはビシっと直立不動に気をつけをすると大声で答える。

「当然であります!」

「なら! お手!」

「ワン!」

 立花が差し出した手に右手をのせる。

 さすがはオオカミの魔人。呑み込みが早いwww

「おかわり!」

「ワン!」

 ハッ! ハッ! と舌を出す姿はもう犬そのもの。

 ――いいじゃないか! この犬! こういう忠実な犬が欲しかったんだよwww

 立花はスグールの反応にまんざらじゃなかった。

 

「チンチン!」

「ワン!」

 スグールは腰に手を当て股間を思いっきり左右に振った。

 そうだった……こいつもまたスッポンポンだった……

「って、そのチンチンじゃねぇ!」

 だが、立花は嬉しそうに突っ込んだ。

 この感じ、タケシと同じ感じwwww

 しかも、タケシよりも言う事を聞くときている。

 ――もう、タケシなんかいらないんじゃないwww

 ということで、

「採用! でも、給料はドッグフードだけだからな!」

「あざ―――――ス!」

 と、勢いよく頭を下げるスグール。って、ドッグフードだけでいいんかい! まぁ、狼の魔人だからいいんじゃねwww


 ということで、後に神民学校で教師をスグル先生は立花ハイグショップで働くことになったのだ。

 だが、その目の色だけはごまかせない。

 そう……緑色の瞳は魔物の証……そして、恐怖の対象なのである。

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