第667話 アジャコンダの腹の中

「きゃぁぁぁぁぁあぁぁ!」

 どこからともなく悲鳴が上がる。


 のっそりと立ちあがろうとする二人の貞子からはポタポタと水滴が垂れ落ちる。

 それはまるでほの暗い井戸の底から這い出てきたような様子であった。

 そんな二人が……

 ついに立ち上がると……

 なにかを掴もうと……手を伸ばすのだ……


 そんな貞子たちが腹の底から声を出す……

「マツでぇ~す!!!!!」

「タケでぇ~す!!!!!」

「「二人あわせてマツタケでぇ~す!!!!!」」


 ⁉

 キョトンとするクロトの横で、タカトが黄色い悲鳴を上げていた。

「きゃぁぁぁぁぁあぁぁ! マツタケやぁぁぁぁぁあぁぁ!」

 意味わかんねぇwww

 そんなクロトを横目に、なぜか目の前のマツタケたちはショートコントを始めた。


「マツさん! マツさん! となりの家にマツタケが生えたんだってねぇ」

「へぇ~ って、コレの事かい?」

 マツの下半身からむくりと起き上がる大きなマツタケ。

 だが、それを見るクロトはドン引きwww

 ――それはマツタケじゃねぇよ!

 しかぁぁぁぁし! タカトと立花は大うけwwww

「マツタケやぁぁぁぁぁあぁぁ! ああマツタケやぁぁぁぁぁあぁぁ! マツタケやぁぁぁぁぁあぁぁ!」

 手を叩いて大はしゃぎwww


 だが、クロトは白けた顔で一言ぼそり……

「何をやっているんですか。カルロスさん……裸で……」

 その言葉に、マツと名乗った男は横に立つタケの頭を思いっきりどついた。

「何がバカウケ間違いなしだ! 全然ウケてないじゃないか!」

「カルロスさん 痛いですね! でも見てくださいよ。あの二人にはバカウケじゃないですかwww」

「あのな……訳の分からん奴らにウケても仕方ないだろうが! 神民のクロトにウケてこそ、お前は見逃してもらえるのと違うのか?」

「まあ……確かにそうですけど……」

「仕方ない……こうなったら、やっぱり……お前……ぶち殺しておくか……」

「ちょっと! ストップ! ストップ! カルロスさん! それは約束が違うでしょう!」

 そんな二人のコントを見ていたクロトは「約束? カルロスさん、約束って何です?」と、気になったようである。

 というのも、カルロスは神民。しかも魔人と戦う魔装騎兵である。

 そんなカルロスに横に立っているのは、こともあろうに……攻撃対象の魔人なのだ。

 実はこの魔人、ゴンカレ―との戦いのリングに立っていたあの魔人。

 あの魔人?

 そう、あの魔人www試合開始早々、アジャコンダに一飲みにされたあの狼の魔人スグールwww

 ってwwwスグール、生きてたのかよwwww

 うんwww生きてたのwww

 で、同じく丸のみにされたカルロスさんと、めでたく腹の中でご対面と相成ったわけでございますwww

 

 壁につく非常ボタンをタカトがポチっと押したとき……

 それに伴い、目の前の檻がガゴーン!という音ともに開いたとき……

 カルロス隊長は一瞬のうちに丸のみにされた。

 そんな体はアジャコンダの喉を通り胃袋へとゆっくりと流れていた。

 だが、その体は魔装装甲に覆われている。

 そのため、飲み込まれたとはいえどもビンビンとマツタケともども体は元気だったのである。

 カルロスは腕を組みながら考える。

 ――この流れに逆らい口から這い出るのは容易なのだが……

 しかし……おそらく口から這い出ようとすれば、この巨大な蛇はそれに抗い口を勢いよくかみしめることだろう。

 まぁ、その力に耐えるぐらいの自信はカルロスには当然あった。

 あったのだが……この大蛇は地下闘技場のチャンピオンであるゴンカレ―と戦おうとしたこのアジャコンダである。

 そのため、その力を跳ね返すには、それ相応の労力を払わないといけないことは容易に想像がついた。

 というのも、すでに開血解放を行っているカルロスの手には予備の魔血タンクがあと1本しか残っていないのだ。

 ――仮に、アジャコンダをぶちのめしたとして、残り一本で少女を誘拐した犯人を捕まえられるだろうか?

 そう、この控室に来た目的は巨大蛇をぶちのめすことではない。誘拐されたという少女を救い出すことなのである。

 だが、現状、どんな奴が少女を誘拐したのか分からない。

 というのも、控室に入った途端、アジャコンダに丸のみされのだからwwww

 そんなカルロスは最悪の状況を予測する……

 ――もしかしたら、誘拐相手は魔人かもしれない……

 ――いや、不死の相手かもしれない……

 そんな奴を相手にしたら予備の魔血タンクが一本では心もとない。

 ――ならば、今、使っている魔血タンクの消耗を極力に抑えるのが定石というものなのではなだろうか。

 さすがはエメラルダの右腕! 第六騎士の門の参謀役である!

 当たらずとも遠からず! といったところではないだろうか。

 えっ? だって、サンド・イィィッ!チコウ爵!はゾンビなのだからwww

 ということで、カルロスは口から這い出ることを諦め、流れに従い外に出ることを選んだ。

 ――このままいけば必ずたどり着くはずなのだ!

 そう! ケツの穴に!


 だがそこに行きつくまでには胃を通り腸を通過しなければならなかった。

 そして、そこには……奴が、そう、あのスグールがいたのだった!

 それは、ちょうど大腸あたりの事であった。

 大人一人が何とか立てるほどの空間。

 そんな中で、二人の男がにらみを利かせていたのである。

 次の瞬間、カルロスが動く!

「波動拳! 波動拳! 波動拳!」

「うがっ! うがっ! うがっ!」

 狼の魔人スグールの悲痛なる声が腸壁に反響する。

 そう、狼の魔人と遭遇したカルロスは、かなり激しいバトルを繰り広げていたのであった。

 まぁ、本来、魔装騎兵は魔人を倒すために作り出されたもの。

 目の前に駆逐すべき魔人がいれば否が応でもバトルになるのは仕方ないことである。

 そんなものだから、二人が激しくバトルするたびに腸壁のいたるところから垂れ落ちる粘液がまだらに光を散らしていた。


 うん? ちょっと待って……光?

 ここは腸内だよね……光などあるはずもないのでは……

 もしかして、カルロスさんが明かりを持っていたのかな?

 いやいや、瞬時に飲み込まれたカルロスの手に明かりになるようなものなど何もなかった。

 だから、カルロスは暗闇の中、食い物の残骸の流れる方向を頼りにケツの穴に向かって壁づたいに歩いていたのである。

 だが、その暗闇の中に、ぼわぁ~っとした明かりが一つ浮かび上がったではないか。

 

「ちっ! まだ耐えるか! ならば必殺の!昇竜~拳!」

 カルロスの怒声とともに、思いっきり上空へと突き上げられた拳

 だが! すかっ!

 次の瞬間、それは空を切り無情にも空回りしていた。

 それを見たスグールはニヤリ!

 そして、すかさずカウンターを繰り出したのである。

「スピニングバードキック!」

 1Hit

 2Hit

「あっ! ピヨッた!」

 攻撃を受けたカルロスの表情が驚きに変わった。

「まだまだぁぁぁwww スピニングバードキック!」

 1Hit

 2Hit

 3Hit

「ちょ!ストップ! 完全にピヨッとるって!」

 すでに敗北を意識したのか、事もあろうにカルロスはスグールに許しを請いだしたのだ。

 って、カルロス様、魔装騎兵でしょwww ちょっと恰好わるいですぅ~www

 だが、スグールは手を止めない!

 とどめとばかりに必殺技をお見舞いするのだ!

「スピニングバードキック!」

 ばきっ!

 K.O.!

 二人の目の前に映る画面の中で一人の青い服の女性がにこやかに笑っていた。

 って、コレ、ストリートファイターⅡじゃんかwww


 そう、二人はアジャコンダの腸内でストリートファイターII でバトル、いや、遊んでいたのであるwww


 どうしてこうなったwww

 というのも、さかのぼること少し前……


 それは、真っ暗な暗闇の中、カルロスがほのかな光を発見した時の事だった。

 ――もしかしてケツの穴に到達したのか?

 だが、よくよく目を凝らしてみると、その光は不規則な光の強弱を繰り返しているではないか。

 ――外の明かりにしては少々変だ……というか、まだ壁を超えていないしな……

 そう、その壁は、自らを外の世界へと押し出す前に通らなければならいという大人の壁、いや大〇の壁。

 おそらくケツの穴の前にあるはずのこの大〇の壁を越えた時!きっと少年は光ある大人の世界へと羽ばたけるのである。

 だが、その壁を超えるのは誰しも嫌なもの……

 今だに大人になることを拒否り、子供部屋にこもるオッサンだっているぐらいなのだ。

 その事実を知ると、いかにその壁を超えるのが大変な作業なのか、おそらく小さき少年たちも皆分かることだろう。

 だからこそ、カルロスは大きなため息をつくのだ。

 ――はぁ……憂鬱だ……大〇の壁を越えたとしても、その後どうすればいいのだ……

 それはもう就職氷河期の大がクセエ!いや大学生が卒業したとしても進路が全く決まらないときの様な悲痛なる表情を浮かべていた。

 そう、たとえ外に出れたとしてもカルロスの体はとても大〇臭くなっていること間違いなし……

 いかに魔装装甲をまとっているとはいえ、関節部分から大〇が入り込む可能性だってあるのだ……

 ましてや、これから誘拐犯と戦わなければならないのに……そんな大〇臭い体で戦えば、どちらが犯罪者か分からないではないか……

 ――これでも自分は第六騎士の門の隊長だ!

 カルロスのプライドは、そんな無様な姿を拒否したかった……

 だから、どうしても大〇をかき分けて通ることだけは避けたかったのだ……

 だが、外に出て誘拐犯と戦うためには、それしか方法がなかった……

 それなのに……

 それなのに……

 なんと! 光が見えるではないか!

 カルロスは狂喜乱舞しながら、その光へとスキップを踏んだ。

「ウ〇コをかき分けずに外に出られたぁぁぁぁあ♪」


「あ……こんちわ……」

 だが、光に満ち溢れた外の世界などではなくそこにあったのは小汚いオッサンではなく狼の魔人が背中を丸めてこちらをジーっと見つめている姿であった。

 それも、締め切られた子供部屋で唯一の光がテレビの画面だけという想像するだけでもイカ臭くなりそうな雰囲気。

 だが、ここに漂うのはイカの臭いなどではなくウ〇コの臭い。

 この臭気の量からするとケツの穴も近いのかもしれない。

 にもかかわらず、この狼の魔人スグールはここに胡坐をかいてテレビゲームにいそしんでいたのである。


「貴様! 何をしている!」

「見て分かりません? ストⅡですけど」

 先ほどからスグールの前に無造作に置かれたボロボロのテレビの中では、青い服の女性が逆立ちするたびにスカートの下に隠されていた尻をむき出しにしていた。

「スパロボの乳揺れもいいんですけど、尻フェチの私としては、やっぱりストⅡを推したいですねwww」

「そんなことを聞いているのではない! 魔人がこんなところで何をしているのだと聞いているのだ!」

「いや……私もアジャコンダに飲み込まれちゃいまして……」

「そんなことは分かっている!」

「で……ケツの穴から外に出ようと思ったんですけど……」

 どうやら、このスグールもカルロスと同じことを考えていたようである。

「ケツの穴の前に巨大な壁がありまして……」

「巨大な壁? ああ、ウ○コか」

「それがどうにも壊せないんですよwww」

「それはお前の力が弱いからだろうが!」

「いやぁ~争いを好まないだけで、意外と強いんですよ。私www」

「ならば! 一つ手合わせといこうじゃないか! お互いの命を賭けて!」

「えっ⁉ ココでするんですか? しかも、命を賭けてだなんてwwwまぁ、命はいらないんで負けたら言う事を聞いてもらいましょうかwwww」

 ということで、テレビの前に陣取った二人はストⅡにいそしみだしたのだ。



 

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