第666話 松茸とサンドイッチ(3)

 ――確かに、こいつ右目がないわwww

 だが、そんなことに全くお構いなしの立花はwww

 その小さき松茸を見るやいなや思わず吹き出してしまっていた。

「コイツ!ミキオじゃなくて! ミニオだおwwwwwぷっwww」

「うっせーぞ! この糞やろう! お前のはもっとミニオだろうが!」

 と、食ってかかるルリ子の威圧に、立花のキノコはさらに小さくすくみ上ってしまった。

 それはもう……小指の先ほど……

 だが、腐っても立花どん兵衛!立花ハイグショップのオーナーである。

 キノコは小さくともプライドは大きいのだwwww

 ということで、ルリ子に言われっぱなしも腹が立つので、当然に言い返す。

「おい! ルリ子! やめたいと言って簡単にやめることができると思ってるのか! そんなに世の中甘くねぇぞ! 社会を舐めるな!」

「立花さん……世の中には退職代行と言って、他の人に退職の意向を伝えてもらっているのが流行っているんですって。それにもかかわらず、ルリは自分でちゃんと言いました!」

 フッと鼻で笑う立花はわざとらしく声を大にする。

「だ・か・ら! 何~? それ、俺と何か関係ありますかぁ~? ありませんよね~」

 カチーン!

 その態度にルリ子はブチ切れた。

 ちゃんと筋を通して挨拶しているにもかかわらず、この態度なのだ。

 何か言い返してやりたいと思ったルリ子は、

「残っていた有給休暇も買い取れよ! この糞野郎!」

 まぁ、労働者としては当然の言い分だろう。

「残念したぁwww 有給休暇の買い取りは、法律で認められておりませぇ~んwwwなぜなら、有給休暇はちゃんと休むためのものなのでぇ~すwww」

「はぁ? 大体!お前! ルリに有給休暇の日数なんて伝えてなかっただろうが! このクソ野郎!」

「だって、うちには有給休暇の制度なんてそもそもありませぇ~ん!」

 って、それ言ってしまったらアウトじゃん! 完全にブラックじゃんwww

「ちっ! クソっ! そうだったのか……だったら、退職金よこせよ!」

「退職金? 何で辞める奴に退職金を渡さにゃならんのだwwww」

「辞めるときに渡すから退職金だろうが! クソ野郎!」

「馬鹿か! お前が壊してきた物品等を考えたら退職金だけでは足らんわ! そうだ! 店を辞めたいのであれば、それ相応の誠意というものを見せてくれないとなwww」

「誠意?」

「そうそうwww誠意www」

 と、いやらしそうな笑みを浮かべる立花は右手の人差し指と親指で丸を作って降っていた。

 ――要は金か! このクソ野郎が言っているのは……

 この意地悪モードに入った立花が、辞めさせてくれと言ってハイそうですかと素直に言うことを聞いてくれるとは思えない。というか、絶対にありえない。

 となると、手切れ金を払って、さっさとバイバイしたほうが利口だというものである。

「おい糞野郎! いくら欲しいんだよ!」

「それじゃあ~」 

 それを聞く笑う立花どん兵衛はしてやったりとニヤリと笑う。

 そう、彼は先ほどまでウ〇コ酒の代金の支払いに困っていた。

 そのため、周りに立つ強面の常連客の顔面が鼻息が届く距離まで近づいて威嚇し続けていたのである。

 しかも、その上! 待てども待てどもタケシ奴が戻ってこない。

 というか、戻ってくる気がサラサラしねぇ!

 このままでは明日の朝、この屋台があったこの場所には、まるでウ○コのようにつぶれている自分の体が転がっている可能性が高い、いや、確実にそうなっているなずなのだ。

 もう、それを想像するだけで、立花は生きた心地などしなかった。

 ということで、

「銀貨三枚(3,000円)で手を打ってやろう!」


 えらそうにふんぞり返る立花を見ながらルリ子は苦虫をつぶしたような表情を浮かべていた。

 というのも、ルリ子自身、立花ハイグショップの低い時給のため、生活するだけでやっとなのだ。

 銀貨三枚3,000円などそんな余裕などあるわけなかった。

 だが、この立花の様子を見る限り値切ったところで、素直に受け入れてもらえるとは思えない……

 しかし、無いものはない……

 無い袖は振れないのだ……って、そもそもだぼだぼのティシャツだから袖なんかないんですけどねwww

「……クソ野郎……これだけじゃダメですか……?」

 ルリ子は弱弱しい声と共に震える手でポケットの中からお金をつかみだした。

 その金額……銀貨1枚と大銅貨5枚(1500円)

 それを見るやいなや、立花の表情がまるでカツアゲをするヤンキーのようにルリ子のあごの下から見上げるのだ。

「オイ! ルリ子! 足りねぇじゃねぇか!」

「今、ルリの持っているお金は……これだけしかないんです……クソ……」

「そんなことないだろ! ちょっとそこでジャンプしてみろよ!」

 まさか立花の奴、ルリ子のポケットの中に小銭が隠れているとでも思っているのだろうか?

 だが、もう手持ちのないルリ子は、それを証明するためにも素直に従うしかなった。

 その場でぴょんぴょんと飛ぶルリ子の体。

 それと共に胸の大きなふくらみが激しく上下すると、だぼだぼのティシャツの裾をめくり上げるのだ。

 おおおおおお♡

 先ほどまで立花の逃走を監視していたおやじたちの目が、ちらりと見えるルリ子のおへそにくぎ付けになった。

 エロい! マジでエロイ! この娘!

 そこら辺の小汚いズボンという大地からから茶色いマツタケが一斉に顔をのぞかせ始めた。

 にょき! にょき! にょき!


「じィィィィさんや! こんなに松茸が大量生えてるだにィィィィ…… 豊作だにィィィィ!」


 ぶちっィィィィ! 「ぎょへえぇぇ!?」

 ぶちっィィィィ! 「もえぇぇぇぇ♡」

 ぶちっィィィィ! 「うえぇぇぇぃ!」

 

 ということで、いつの間にか『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵!』の手には新鮮なマツタケが三本握られていた。

 で、このマツタケをどうするのだろうかと見ていると……

 『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵!』は、ずかずかと屋台へと近づいていくではないか。

 カンターの中からは女将が『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵!』の手に握られているマツタケに物欲しそうな視線を落としていた。

 そんな女将に『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵!』は、三本のマツタケを突き出すと大語で叫んだのだ。

「バア、いや、バニィィィィさん! イィィィん乱か? このシィィィィん鮮なマツタケは?」

 女将はなぜか内股をギュッとしめ、モゾモゾトしながら答えた。

「はぁ? あんた。馬鹿なのかい? そんなモノいるわけないじゃないかじゃ。だいたいしおれたマツタケが何の役に勃つっていうんだい!」

 それを聞く『独眼竜サンド・イィィッ!チコウ爵!』はニヤリ。

「かつて毛利ィィィィ元就ィィィィは、ィィィィました! いィィィ本のマツタケでは簡単に中折れてしまィィィィますが、三本まとめると絶対に中折れしなィィィィと!」

 と言いながら、三本のマツタケを輪ゴムで一つに縛り上げたのだ。

 その太さ握りこぶし一個分。確かにこれだと硬そうだ。

「そうかい♡ 私も久しくマツタケを食べてなかったからね♡ そこまで言うんだったら一つ試してみようかい♡ で、一本いくらだい?」

「いィィィ本! 大銀貨! いィィィち枚!(1万円)ぽっきり! ぼっきり♡

ぼっき! 勃起ィィィイィ!」

「そのマツタケ! 三本とも買ったぁぁぁぁぁ!」

 と、即!女将によってお買い上げされたのであった。


 控室の中でガックリと肩を落とす立花は、大きなため息とともに声を絞り出した。

「それがな……クロト……聞いてくれよ……」

 クトトは真剣な面持ちで立花の声に耳を傾ける。

「ルリ子の奴……大銀貨3枚(三万円)も儲けたっていうのに、俺には銀貨三枚(3千円)しかくれなかったんだよ……ひどいだろ……」

 いや、問題はそこじゃない!

 当然、クロトは「いや、オヤッサン。お金の話じゃなくてルリ子さんはどこに行ったかって話なんですけど」

「だからな! さっきから言ってるだろ! ルリ子の奴はオヤジもどきの『サンドイッチマン伊達みにお』といっしょにツョッカー病院で働くんだとよ!」

「ということは、ルリ子さんは看護師になられるんですか」

「そうなんじゃね!」

「まぁ、ルリ子さんの性格からしてそっちの方が向いているような気がしますしね」

「というか、これからハイグショップは誰が働くって言うんだよ!」

 よほど立花は働きたくないと見えるwww

 そこで、「そうですね……」と、腕を組み考え込むクロトであったが、そんな彼の横で突然、ガサリと大きな物音がした。


 びっくりしたタカトとクロト、そして立花はその音がした元へと目を向けた。

 そこにあったのはアジャコンダのしっぽ。

 そのしっぽが、いきなりガサガサと動いたのである。

 ちなみにアジャコンダのしっぽは、魚の切り身のようにしっぽの部分だけしか残っていない。だから当然に生きているとは思えないのだ。

 だが、そんなしっぽが、先ほどからビクン! ビクン! とのたうつのである。


「こいつも!もしかしてゾンビなのか!」

 立花は、先ほどゾンビから受けた屈辱を思い出す。

 ――ああ! あの大銀貨3枚(三万円)があったら、どれだけ地下闘技場で遊ぶことができたであろう……

 それなのに、あのゾンビ野郎ときたら、ルリ子に念を押しつづけたのだ。

「ウ○コには銀貨三枚3,000円以上は与えてはダメだにィィィイィィ!」

 ――クソ! あのダニ野郎め!


 タカトに至っては恐怖で目を丸くしている。

 というのも、先ほど使ったデバガメラは、ブラックホールの消滅と共に一緒に異次元へと消えたのである。

 何を隠そう、もう、タカトの手に身を守る道具など残っていないのだ。

 今のタカトは無防備同然! 丸裸も同じ!

 だからなのかしらないが、いきなりトチ狂ったように……

 ズボンを脱ぎだして……

 踊りを舞い始めたではないかwww

「マツタケやぁ~ ああマツタケやぁ~ マツタケやぁ~」

 って、マツタケに祈って何とかなるんかいwww


 だが、クロトはいたって冷静。

 どこぞの科学者と同様に、この世の中にはお化けなんて存在しないと思っているのだ。

 ひとだま? それはプラズマのなせる業です!

 幽霊? それもプラズマのなせる業です!

 ゾンビ? だからそれもプラズマですって!

 とはいっても、ゾンビはさっきまで『サンド・イィィッ!チコウ爵!』なるものが実際にいたような気がwwwうん、きっとプネウマだwww

 ちなみにプネウマとはウィキペディアによると『プネウマ(古代ギリシア語: πνεῦμα, pneuma)とは、気息、風、空気、大いなるものの息、ギリシア哲学では存在の原理[1]、呼吸、生命、命の呼吸、力、エネルギー、聖なる呼吸、聖なる権力、精神、超自然的な存在、善の天使、悪魔、悪霊、聖霊などを意味する[2]。動詞「吹く」(希: πνέω)を語源とする。ラテン語でスピリトゥス、そこから英語でのスピリットとなった。』と記載がある。

 ――あのゾンビ善の天使か悪霊か? はたまた、ただのオッサンか?

 などと、クロトが妄想の中で一人ツッコみを入れていると……

 目の前のアジャコンダの肉の壁、いわゆる切断面から何かが這いずりだしてきたではないか。

 その様子はまるでテレビから出てこようともがいている貞子!

 ――って、悪霊おるやないかい! あの科学者嘘つきかぁぁぁぁ!


 しかも、その貞子は一人ではなかった。

 貞子が一匹……

 貞子が二匹……


 




 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る