第663話 わずかな可能性
そんなクロトの疑問に、タカトは得意げに答える。
「クロトの言うようにさ、次元転移ミサイルを打ち返したとするじゃん。でも、次元転移ミサイルは無数に飛んできてたわけよ。そんなミサイルを同時に跳ね返して、あのオッちゃんに当たったらどうなるか想像してみ!」
とっさにクロトは足元に横たわるアジャコンダのしっぽを見つめた。
そう、次元転移ミサイルが単発であれば、タケシのように体全体が吸い込まれるはずなのだ。
だが、同時に複数のミサイルが当たれば、このアジャコンダのようにそれぞれのミサイルによって体がいくつにも引きちぎられることになる。
そうなると、いかに異次元で再構築されたとしても、ちぎれた体……すなわちただの肉片である。
そう、クロトの考えを採用したならなば、かえってデスラーが死ぬ確率が高くなっていたのである。
――もしかして、タカト君はそれを見越して……
クロトはその才に恐怖した。
だが、タカトは笑いながら続けるのである。
「しかも! もしかしたらタケシさんも見つけられるかもしれないしねwww」
それにはクロトも立花も驚いた。
というのも、タカトの『エロ本カクーセル巻き』のようにその異次元空間を『
イメージするならば、大きな太平洋の海原のどこかで浮かんでいる笹舟を見つけろと言っているようなものである。
だが、タカトはそんな空間にポツンと漂っているタケシを見つけることができるというのだ。
絶対に無理ぃ~。
と、思う立花は、
「坊主、どうやってタケシを見つけるというんだ! 嘘をつくな! もうタケシは戻ってこないんだ!」
まあ、当然の反応である。
「俺の理論が確かであれば、あの異次元に取り込まれたものは再構築される。すなわち、あのオッちゃんの体も再構築される」
「それはさっき聞いたわ!」
立花は声を荒らげた。
「だ・か・ら! 再構築されるという事は、互いの分子や原子がひかれあうのよ! まるで引力のようにもとあるところへ」
だが、それとタケシが見つけられることが、どうつながるというのだ?
で、クロトは、
「全然意味が分からないんだけどwwwタカト君」
その反応を見ながらいやらしそうな笑みを浮かべるタカトは意地悪そうに焦らし始めた。
「タケシさんは何にぶつかって異次元に取り込まれたのでしょうwww」
「うーん、次元転移ミサイルかな?」
「ブっブブぅー---!」
クロトの答えに両手で×を作るタカトは嬉しそう。
それを見た立花は気づいた。
「もしかしてコンドーさんか!」
「正解! またの名を?」
「コン○ーム!」
「正解! ならば、それには何がついている?」
ハッと気づいた二人は顔を見合わせた。
そう、宙を舞っていたコンドーさんは一度デスラーの砲塔にセットされていたのである。
ビシッ! ビシッ! ビシッ!という音のたびに裏表ひっくり返るっコンドーさんたちであったが、その少し前には、デスラー砲の残り汁がその内側にこびりついていたはずなのだwww
すなわち、それ……デスラーの細胞……
そう、デスラーを構築していた原子や分子が互いにひかれあうのであれば、当然にデスラーの細胞もまた引かれあうのである。
そんなデスラーの細胞は裏返ったコンドーさんの表面にべったりと付着……
そして、仮面ダレダーのヘルメットにコツンとぶつかったのである。
ということは……
仮面ダレダーのヘルメットにはデスラーの細胞が少し付着している可能性があるのだ。
もし仮に、異次元でタケシが生存できているのであれば、おそらく再構築されたそのヘルメットにはデスラーの細胞がついているはずなのだ。
そして、その後、大量に飲み込まれるたデスラーの原子や分子。
それはまるで銀河の誕生のように渦をまき、次第に中止人集まりだすと形を作り出していくのだ。
当然に、ヘルメットについた細胞は、磁石に惹かれるかのようにその渦へと吸い寄せられていくことだろう。
「そう! デスラーを探し出せば、そこにタケシさんもいる可能性が高いのだ!」
大声を上げるタカトは得意げだった。
だが、クロトがぼそり……
「で……そのデスラーを異次元で見つける方法はあるの?」
「へ?」
キョトンとするタカト。
その表情は……まるで……
「そこまでは、考えていなかったwwwww」
と、笑って誤魔化すのが精いっぱいだった。
「まぁ、とりあえず、異次元に行けばタケシさんもデスラーも見つけられるかもしれないという事だね」
そんなクロトのフォローに、なぜかタカトは頭を掻くのだ。
「まぁ、異次元に行っても帰る方法がないんだけどねwwww」
「坊主! それじゃ論外だろうが!」
声を荒らげる立花を、キッと強い目で睨むタカトは「帰る方法さえ見つかれば、タケシさんを見つけられる可能性があるってことなんだよ!」
「まぁまぁ、立花のオヤッサン。わずかでも可能性があるだけいいじゃないですか。タカト君の話だと異次元では時間も止まっているようですし、何とかなりますよ」
「クロト! そんなことが問題じゃない!」
「と、言いますと?」
「明日から誰が店で働くって言うんだよ!」
って、このオヤジ……自分が働くという計算はないようで、常にだれかを働かせてその上前をはねようという気なのだ。
それが分かるクロトは半ば呆れながら、
「タケシさんいなくなりましたからねwwww って、そういえばルリ子さんは? そう、ルリ子さんがいるじゃないですか!」
あたりをキョロキョロと見回すが、どこにもルリ子の姿は見えない。
今や控室に残っているのはタカトとクロトと立花、そしてアジャコンダのしっぽだけになっていた。
ガックリと肩を落とす立花は、大きなため息とともに声を絞り出した。
「それがな……クロト……聞いてくれよ……」
それはまだ立花が外の屋台でタケシの帰りを待っていた時の事のこと。
飲み代が足りなくなった立花はタケシをクロトの元へと送り出したのち、一人屋台で、神様のウンコから作られしウ○コ酒を飲みながらにやにやと笑っていたのだ。
大方、美しい女神さまのウ○コから作られた酒でも想像していたのだろうが、残念ながらそのお酒は、オッサンの神様のウ○コで作ったものであった。
だが、オッサンでも神様は神様! 当然ながら、そのお酒のお値段は滅茶苦茶高かったのである。
そのお代……銀貨三枚3,000円!
だが、しかし……
待てども待てどもタケシが帰ってこないのだ。
――もしかして、タケシの奴、逃げやがったか?
今にして立花は後悔した。
カウンター越しににらみを利かせている女将の表情がだんだんと険しくなっていくのがよく分かったのだ。
しかも、女将の密命を受けた常連客の何人かが立花の真後ろにピタリと立っているではないか。
おそらく、立花の飲み逃げ警戒しているようなのだ。
――万事休すか……
立花の毛穴という毛穴から冷汗とともにさっきまで飲んでいたアルコールが蒸発していくのがよく分かった。
――もしかして、タケシの奴……ワシを見捨てやがったのか……
じわっと垂れ落ちる脂汗を手で拭いながら立花はメロスの帰りをまつセリヌンティウスの心境になっていた。
だが、タケシはメロスではない。
友のため、いや立花のために必死に戻ってくるという保証は全くないのである。
というか……タケシの事だ……今頃、何のためにクロトのもとに行ったのかすら忘れている可能性の方が高いのである。
――なんかちょっと……今思うと……この状況……かなりやばくね?
そんな立花の眼は絶望の涙でうるみはじめていた。
まぁ、立花のタケシに寄せる期待など、この程度なのだwww
だが、かといって、現状、金がないという事実はなにも変わらない。
――どうするワシ……どうする……
今ではあれほどまでに真っ赤に酔っていた立花の顔が、完全に素に戻っていた。
そんな時のことである……
立花どん兵衛の背後で一人の女の声がした。
「立花さん……」
この落ち着いた声のトーンからして、かなりの美少女にちがいない!
振り向かずとも立花どん兵衛にはそれが分かった。
だが、それほどの美少女が、こんな屋台でウ〇コ酒を飲むオッサンに声などかけてくるだろうか?
――もしかして、ナンパか?
いやありえない。
これでも立花どん兵衛、齢70を過ぎたジジイである。
まぁ確かに70と言っても『帰ってきた あぶないデカ』の舘ひろしは、この原稿を書いている時点74歳。まだまだイケメン親父といっても過言ではない。
それに対して……立花といえば……「帰ってはあぶないデカダンス」www
ハイクショップに帰るや否や危ない踊りを踊りはじめクロトに金を無心するのであるwww最低の親父と言っても過言ではない。
ということは、これはセオリー通りパパ活というものなのだろう。
そんな甘い声にさそわれて、ふらりとホテルの一室に入ろうものなら、いきなり強面のお兄ちゃんたちが飛び込んできて「俺たちのデカ長に何をしやがる!」と金品どころか残りの人生までもが強奪されていくのだ。
って……それって、パパ活じゃなくて美人局www じゃなくて、ただの誤認逮捕だからwww
そう、74歳の女性などは人から貰ったお稲荷さん一つで82時間も滋賀県警近江八幡署に誤認逮捕で拘留されたのである。マジこわ……
――そんな手には乗るかよwwwだいたい俺のお稲荷さんは、最初から俺の物だからな!
そんな立花は、あの危ない刑事たちのように格好をつけながら背後へと振り向いた。
「すまないなwwwお嬢ちゃんwww俺はお稲荷さんは持っているが、あいにく金は持っていないんだwww」
その途端、背後に立っていた女性が困った様子で顔をそむけた。
当然、その様子に立花は困惑する。
――しまった! ストレートすぎたか!
そう、これではせっかくの美少女の顔が見えないではないか。
――こんなことならお稲荷さんではなくて、サンドイッチでもあげればよかった!
「お願いです……立花さん……ズボンを履いてください……」
どうやら立花は先走ってしまい……自分のもっていたお稲荷さんを女性に渡そうとしてしまったようなのだ。
……というか、もう……この危ない親父……逮捕しちゃっていいんじゃないでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます