第662話 ぽ~~~~~~ん!

 暗い控室の宙に浮くコンドーさん達の群れが床に描かれた星座のスカートの中に浮かぶ三つの卵子に向かってひた走る。

 そしてついに先頭を走っていたコンドーさんの一本が、ついに目的とする卵子、いやタカトの頭にたどり着いた!

 皆さんは理科の授業で習ったのではないだろうか。

 卵子の中に精子がスッと入り込むと、他の精子が入り込まないように卵子の表面に受精膜がすぐさま形成されるのである。

 そう、 卵子とランデブーできる精子は一つだけ。

 そして、このコンドーさんもまた、先端に露里ろり万札まんさつエイの胃袋が融合加工されているため、一つの卵子、いや頭はランデブーした瞬間、直ちに異次元空間に取り込まれてしまい、他のコンドーさんたちが、タカトの頭とランデブーすることはないのである。

 だが、いまだにタカトの頭は異次元空間に取り込まれることなく控室の中に鎮座していた。

 というのも……この一番最初に届いたはずのコンドーさんは地面に置かれた卵……いや、タカトの頭に触れることすらできずに、その直前で止まっていたのである。

 いまや、タカトを含め三人の頭のすぐ上部には受精膜の様な目に見えないバリアーが形成されていた。

 そのバリアーによって空から降り落ちてくる全てのコンドーさんが受け止められていたのだ。

 次々と突き刺さっていくコンドーさん達……その様子はまるでそれはハリネズミのようでもある。

 しかも、そのハリネズミの背のように固まった三つの玉が、徐々に大きく広がっていくではないか。

 すでに押し返されていくコンドーさん達は、タカト達の頭から1mほども離れて浮いていた。

 そんなコンドーさん達が再びスッと地面に向かって勢いよく落ちた。

 と、思ったら!

 次の瞬間!

 ぽ~~~~~~ん!

 と、勢いよく弾けたではないか!

 その様子はまるでクラッカーが弾けるかのよう!

 ハッピーバ――――すでぃ!

 などと……そんな生易しいものではない。

 この『大晦渋だいかいじゅうデバガメラ』は反重力エネルギーたるダークエネルギーを放出する。

 しかも、床じゅうに分散した子ガメラによってそのエネルギーは反復増幅されていたのだ。

 そう、星座のように光り輝いてみえたのは子ガメラ間で増幅されたエネルギー。

 そんなエネルギーが中心点であるタカト達の上部に集まると、降り落ちてくるコンドーさん達をすんでのところで受け止めていた。

 だが、いまだに増幅し続けるダークエネルギー。受け止めたコンドーさんごと拡張をつづけた。

 しかし、ついに最終シーケンスに突入したダークエネルギーは、今度は逆に収縮し始めたのである。

 それはまるで宇宙にうかぶ大きな星が死に瀕した時のよう……そう……己が中心に向かって星そのものが勢いよく収縮していくのだ……

 そして、究極までに圧縮された星に訪れるものは……

 超新星爆発!

 ぽ~~~~~~ん!

 え? 超新星爆発って、そんな音なの? 

 そんな事、知るかよwww 音なんて聞いたことがないんだからwwwだから!何でもいいんだよwww


 だが、タカトの融合加工によって、その爆発のエネルギーは控室上部に向かって放出されたのだ。しかも、コンドーさん達も巻き込んで!

 そして、そのエネルギーの向かう先にいた者は……そう、デスラーであった。

 

 木箱の上に載っていたデスラーに、超高速……いや、超光速のコンドーさん達の群れが一斉に襲った。

 おそらく、デスラーの眼には何が起こったのか分からなかったことだろう。

 一瞬、何かが大きく光ったと思った瞬間、彼の意識はプツっと消失したのだ。

 

 念のために、もう一度言っておこう……

 コンドーさん達の先端には露里ろり万札まんさつエイの胃袋が融合加工されている。

 そして、それに触れたものは直ちに異次元空間に取り込まれるのだ。

 だが、超光速で撃ちだされたコンドーさん達は、デスラーの体を取り込むよりも早くデスラーの体を貫通した。

 超!超!超絶スローでその様子を再生することができたならば、デスラーの体がまるで虫で食われたかのように次々と穴が開いていく様子が見えたことだろう。

 消えゆくデスラーの体。

 残るは無数のコンドーさん達とデスラーのちりあくた……

 しかし! そんなゴミとコンドーさん達が逆走し始めたではないか!

 いや、これは逆走などではない……先ほど超新星爆発を起こした中心点に引き戻され始めていのである。

 そう、超新星爆発の後に生まれるのはブラックホール!

 実はある研究ではブラックホールはダークエネルギーによってできていると考えられているのだ。

 (注意:タカトの融合加工の過程はフィクションであってブラックホールの論文内容とは全く異なっていますwww当然、鵜吞みにしないようにwwwって、そんな奴、おるわけないやろwww) 


 タカトの頭上に突如発生した小型ブラックホール。

 勢いよく周りのモノを吸い込み始めた。

 そう、ブラックホールが発生させる空間のひずみによって、周囲に存在するありとあらゆるものを吸い込むのである。

 それが光の粒子であったとしても……ブラックホールに落ちていく。

 言わずもがな壁に打ち付けられすでに原形をとどめていないコンドーさんの破片たちも、無理やりブラックホールへとひかれていく。

 そして、先ほどまでデスラーであった微粉末もまた、黒い渦の中に飲まれていった

 次々と飲まれていく部屋の隅に積み上げられていた大きな木箱たち。

 床に転がっていた未開封のコンドーさんたも舞い上がって消えていく。

 もう、控室の中にあるありとあらゆるものが、この小型ブラックホールに飲み込まれようとしていた。


 だが、それにもかかわらず……タカトは平然としていた。


 そう、タカトの体は床に散らばった子亀たちによって作られた反位相の受精膜、いや違った、薄い皮膜によって守られていたのである。

 その膜の広さは部屋の半分を占めるほど。

 だからこそ、クロトや立花もまたブラックホールに吸い込まれずに立ち続けることができていた。

 ただ、この出来事を想像だにしていたなかったようで、口をあんぐりと開けて固まったまっていたのだが。


 小型ブラックホールを見上げるクロトは苦笑いを浮かべる。

 ――さすがにこれは予想してなかったなwwww

 『大晦渋だいかいじゅうデバガメラ』の性能は、先ほどリングサイドでタカトがオカマのオッちゃんのスカートをめくった時にだいたい理解できていた。

 ならば、この触ることが許されない次元転移ミサイルに対処するのであれば、おそらくタカトの行う改良は、その反重力エネルギーでコンドーさんたちを一気に弾き返すものだと予想していたのである。

 だが、問題はその数と範囲……一個のデバガメラでは到底間に合わない。

 そこで、子ガメラたちに分裂して、足りない数を補おうとした………と、思っていた。

 しかし、今にして思えば、これには問題があった。

 そう、デスラーの存在だ。

 デスラーが木箱の上でコンドーさんを発射する限り、この戦いは終わらないのである。

 まずは、その根本原因であるデスラーを何とかしないといけないのだ。

 で、クロトは、デバガメラで跳ね返したコンドーさんで、てっきりデスラーを攻撃するものだと思っていたのである。

 そう、コンドーさんの先端には露里ろり万札まんさつエイの胃袋が融合加工されている。

 いかにデスラーと言えども跳ね返ってきたコンドーさんに触れれば異次元空間へと取り込まれてしまうのである。


 だが……実際は……


「タカト君……君……人を殺すの嫌だったんじゃないの……」

 クロトはハイグショップで聞いたタカトの想いを口にした。

 まぎれもなくタカトは自分の作った道具を戦いに使う事を極端に嫌っている。

 ならば、当然に、その道具で人を殺すことなど言語道断のはずなのだ……

 それがどうだ……

 確かに、タカトの改良品は無数のコンドーさんを跳ね返した。

 跳ね返しはしたのだが、そのエネルギー量が大きすぎてデスラーの体をぶち抜いてしまったのである。

 だが、そこにもがき苦しんだ死体が生まれたわけではない。

 まして、生暖かい臓物や大量の血があたり一面に飛び散ったわけでなかった。

 だが、そこに先ほどまで確実にいたデスラーの存在が消えてなくなってしまったのである。

 もはや原子レベルにまで分解されたデスラーの体には、当然、命の輝きなど存在していない。

 しかも、そのちりあくたすらブラックホールに飲み込まれて消えてしまっていたのである。

 これを殺人と呼ばずして何と言おう……


 さすがに、立花もこの様子にドンびいた。

「おいお前! もしかして痕跡が残らない完全犯罪だったら、殺してもOKだとか思ってんじゃないだろうな?」

 確かに、これほどまでの完全犯罪があるだろうか? いや、おそらく無いだろう……


 にもかかわらず、タカトはキョトンとしていた。

「誰が、人を殺したって言うんだよ!」

 立花はタカトを指さし、クロトはデスラーがこの世から消えたことを嘆いた。

 確かにクロトもまたデスラーの事があまり好きではなかったが、さすがに死んでもいいいいとは思わない。

「さすがに、消滅させるのはいきすぎじゃないのかな(怒)タカト君‼」

 だが、それを聞くタカトは鼻で笑うのだ。

「ああwwwあれねwww大丈夫だってwww俺の計算では死んでないってwww」

「「はぁ? なんですとぉ?」」

 とっさにクロトと立花は顔を見合わせた。

 デスラーの体は原子レベルにまで粉砕されて、一瞬に目の前から消えたのだ。

 それなのに、タカトは死んでいないというのである。

「あのオッちゃんの事なら、再構築されてるはずだってwwwたぶんwww」

「多分って……」

 少々あきれるクロトを見ながらタカトは続けた。

「だって、仕方ないじゃんwww俺、異次元空間に行ったことないしwww」

「異次元空間?」

 それを聞いたクロトは瞬時にタカトの作った『エロ本カクーセル巻き』の事を思い出した。

 そう、あの道具は、腕に巻いた『エロ本カクーセル巻き』の中に取り込んだエロ本をいつでもどこでも取り出して読むことができる超便利なものなのだ。

 だが、仕組みは融合加工された露里ろり万札まんさつエイの胃袋を通して異次元空間にエロ本を格納しているのである。

 そして、この次元と異次元とを行き来する際には、物体はいったん分子レベルにまで分解されて再構築されるのである。

 ならば、あの小型のブラックホールは異次元空間へとつながっていたとしたならば、原子レベルに分解されたデスラーの体は、異次元空間に入った途端、再構築される可能性は大いにあるのだ。

 しかも、超新星爆発によってデスラーの体が砕かれてから異次元空間に吸い込まれるまでの間の時間は、ほんの一瞬のことである。

 それはデスラー自身ですらしを認識することができないほどの、わずかな時間だった。

 そう考えると、理屈的には、『エロ本カクーセル巻き』で物体を出し入れする作業と工程は似ているといえば似ている。

 ならば、その異次元空間で再構築されたデスラーは息を吹き返していてもおかしくはない……

 しかし!

 ならば、なおのこと! デスラーを異次元空間に飛ばすのであれば次元転移ミサイルのコンドーさんを打ち返して取り込んでしまえばよかったのではないだろうか?




 

 

 

 

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