第664話 松茸とサンドイッチ(1)

 だが、振り向いた先の女性もまた少々危ない様子だったのだ。

 というのも、その女性、いや、立花の目に映ったのは……金髪のツインテールにウサちゃんのリボンをあしらった美少女ちゃん。

 その身に着けるティシャツはダボダボなのにも関わらず、胸だけのところだけがピンピンと張りつめ緊張していたのだ。

 そんなティシャツの袖から覗く胸のふくらみの柔らかそうなことといたら。

 ――もう! おっちゃんもビンビンしちゃうwwww

 しかも、そのお肌のみずみずしさは、少し離れているこの席からでもよく分かる。

 だが……

 だが……そのお肌が黒いのだ……

 黒いといっても決して汚れてきたないというわけではない。

 先ほどから石鹸のいい香りが漂ってくるぐらいなのだから、この少女、人一倍清潔には気を配っているのだろう。

 そう……いわゆるガングロというやつ……

 ウチの本郷田タケシもかなり黒い……黒いのだが、その黒さに負けないほどこの少女も黒いのである……

 ――ハテ? この黒さ……どこかで見たことがあるような?

 

 というか……ここはスラム街の街はずれ……ガラの悪さでは真っ黒クロスケなのだ。

 しかも、時刻は夜中の12時過ぎ、周りの景色は真っ黒クロ。

 そんな真っ黒クロの中に真っ黒クロの少女がポツリ……

 しかも、こんな格好で出歩いていたりしたら……当然、腹黒なオッサンたちが優しい黒猫のような猫なで声で鳴きながらやってくるのだ。

「ごろにゃ~ご~ お嬢ちゃん一人? オッサンの家に遊びにくる? ベッドの上であんなことやこんなことしながらエンジョイハッスル汗かいちゃう?」

 って! あんなことやこんなことって一体なにするつもりやねん!

 もう~♡ 言わせないでくださいよwww

 あれといえば、あれ! ベッドの上で男女が交差した穴に入れながら言葉攻めしていく奴ですよwww「尻が落ち着かねえ女だな! 桃尻女!」ってな具合に!

 といって……エッチの事じゃないですからねwww勘違いしないでください。

 え? わかんない?

 クロスワードパズル!

 ベッドの上で交差した穴に男女が代わりばんこに文字を入れていく奴です。

 辞書によると桃尻って「尻の落ち着かないこと」ってな意味があるんですって。

 しかも、これを激しいスピードでやればwwwもう、めちゃくちゃ汗かきますよwww多分www

 ってことで、立花は、 

「お嬢ちゃん……クロす……」

 と、言いかけて言葉を止めた。

 というのも、何か危ないものの気配をとっさに感じ取ったのである。


「こ! 殺す!? だにいっ―――! だにいっ―――! だにいっ―――! このオッサン!今!殺すって言いよったよ!?」

 ガングロ少女の背後に立つ一際危ないものが大きな声を上げた。

 そう、それはサンドイッチ!

 しかも、人の顔を両脇からバチンと挟み込んでいたのだ。

 そのせいか、挟み込まれた顔は青く生気を失い、鼻からは腐臭ただよう緑色の鼻水を垂らしていた。

 ……というか、コレ、腐ってね? いや、確実に腐ってるよね。


「やめて! お父さん!」

 騒ぐサンドイッチ人間をガングロ少女が制した。

 って、このサンドイッチは少女のものなのか?

 だから、先ほどお稲荷さんを渡そうとしても頑なに断ってきたわけねwww

 納得!納得!

 って、ツッコむところはそこじゃない!

 このガングロ少女、サンドイッチの事をお父さんと呼んだのだ。

 ということは、この少女もまたサンドイッチ?

 な、訳あるかいwww


「だにいっ―――! だにいっ―――! だにいっ―――! だって、ルリちゃん! このオッサン! ルリちゃんの事、殺すって言いよったで!」

「立花さんが、そんなこと言う訳ないでしょ! それ、お父さんの聞き間違いだから!」

 うん? ルリちゃん?

 ――はて、どこかで聞いたことがあるような……

 立花は頭をひねった。

 ルリちゃん……ルリちゃん……ルリちゃん……

 ガングロのルリちゃん……

 って!

 あのルリ子の事かい!

 ――いやいやいや! ちょっと待て! そんなことあるかい! 

 というのも、立花ハイクショップに務めるルリ子は柄が悪い。

 しかも、事あるごとに糞くそクソと言っているのだ。

 そんなルリ子が、こんなにしおらしいわけはない。

 ――絶対に聞き間違いに違いない!

 だが、サンドイッチを見上げるあの少女の横顔……どこからどう見ても鰐川ルリ子だ。

 驚く立花は、何とか声を絞り出す。

「ルリ子……お前、さらわれたんじゃなかったのか……」


「だにいっ―――! だにいっ―――! だにいっ―――! ルリちゃんさらわれてたの? いっ―――! いっ―――! いっ―――! 誰に? いつ―――! いっ―――! いっ―――!」

「お父さん! いっ―――! いっ―――! いっ―――!うるさい!」

「だって、ルリちゃんの事、心配なんだにいっ―――! だにいっ―――! だにいっ―――!」

「私、さらわれてないわよ! ちゃんとココにいるじゃない!」

「そうだにいっ―――! だにいっ―――! だにいっ―――! ボケてるじゃないぞ! このダニイっ―――! ダニイっ―――! ダニイっ―――!」


 それを聞く立花は唖然としていた。

 目の前の少女がルリ子であるのであれば、当の本人がさらわれていないと言っているのだ。

 いや、もしかしたら彼女の記憶が書き換えられているのかもしれない。

「ルリ子……お前、何かされたのか……いつものルリ子じゃ……」

 そう言いかけた立花に向かってルリ子はクルリと向きを変えた。

「立花さん……今までお世話になりました」

 と、深々と頭を下げたのである。

 これを見た立花は確信した……

 こいつはルリ子の偽物に違いない!と。

 だが、それを確かめるにはどうすればいいだろうか。

 いや、それを確かめるには一つしかない。

 そう、この美少女の体を素っ裸にひん剥いて、隅から隅までをなめ回すかのように調べるのだ!

 いや~ん♡

 って、そんなことできるわけがないだろうが。

 というのも、目の前のルリ子の後ろではサンドイッチの顔をした気味の悪い男が体の芯を右に左にと揺らしているのである。

 そのたびにあたりに飛び散る白い腐汁。

 その腐汁を浴びると男であっても妊娠させられそうな気がしたのである。

 本能的に感じる貞操の危機!

 どうやら彼のもつ松茸は小さいながらも新鮮そのものだったようでwww生えたてキノコのようにバンバンと胞子をまき散らしていたのである。

 ――やっぱり、キノコも新鮮が一番か……年季が入ると傘が開いて胞子も出ない……

 立花は自分が育ててきたキノコを思い浮かべながら、彼の持っているマツタケをうらやましそうに見つめ舌なめずりしていた。

 ――ああ! 松茸食いてぇwwww

 って、ホモじゃない、いや、そうじゃないwww

 ルリ子の体にさわれないのであれば、触らずに確かめる方法を考えればいいのである。

 ならば……と、立花はコホンと一つ咳ばらいをすると声の調子を整えた。

「松茸や~ ああマツタケや! 松茸や~」

 言い終わると、ルリ子の様子をちらりと伺う。

 そう、ルリ子が真のルリ子であれば、この上の句に対して下の句を読むはずなのだ。

 だって、彼女もまた立花ハイグショップの一員だったのだから!

 ――さぁ! どうだ! 偽ルリ子! どう返してくる!

 すると、目の前のルリ子がそっと口を開いたではないか。

「そんなキモイの! 食えるか!この!クソ野郎!」

 これを聞く立花は目を丸くしながら膝をついた。

 ――この少女、まぎれもなくルリ子本人だ……

 もう、声すら出すことができない……今の立花はうずくまるのが精いっぱいだった。

 って、コレのどこでルリ子本人だって分かんだよwww

 え? だって、ルリ子は歌の真意を読み取って、立花の股間にきつい蹴りの一発を決めこんだのだ。

 しかも、歌の最後を、ちゃんとクソ野郎で〆くくったのであるwww

 このリアクションも伴った完璧な歌の返し。これを聞いてルリ子本人でないと言えようか! いや、言えはしない! もうどこからどう見てもルリ子本人以外にはありはしないのだwwww


 そんなルリ子は、うずくまる立花に軽蔑の視線を落とす。

「立花さん。今までお世話になりました」

 股間を押さえ涙目で顔を上げる立花は、こみ上げてくる怒りを抑えながら声を絞り出す。

「お世話になりましたって、まるでハイグショップをやめるような言い方だな!」

「はい。ルリは今日をもって立花ハイグショップを辞めます」

「お前……やめてどうするんだよ! ほかに働くあてがあるとでもいうのか!」

 ルリ子はそばに控えるサンドイッチマンの手をぎゅっとつかむと、

「ルリは、お父さんと一緒に働きます!」

 ――って、そういえば、ルリ子の奴、さっきからこの頭がサンドイッチをしたゾンビの事をお父さんって呼んでいやがったよ!

 と、今さらながら、その事実に気づいた立花は、当然に……

「お前のお父さんはヒロシだろ。そのサンドイッチマン……ヒロシというよりタケシじゃねぇか!」

 それを聞くルリ子は強い視線で睨み返すと。

「確かに顔はタケシかもしれないけど、体のアソコはミキオなの!」

 言っている意味が分からねぇwwww

 というか、お前はミキオのアソコを見たことあるんかいwwww

 いやいやそれどころか、よくよく見ると、確かこのサンドイッチマンのアソコ……主砲がそそり立つどころか、波動砲の発射口のように穴が開いていたような跡があるではないかww

 何を隠そうこのサンドイッチマン、実はタケシでもなくミキオでもなくサンド・イィィッ!チコウ爵!その人だったのだぁぁぁぁ!って、そんな事、言われんでもわかっとるわ!


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