第655話 天翔九頭閃《あまかけるクズのひらめき》!

 そんな雨から身を守るかのようにタカトとクロトはアジャコンダの大きな体に背をつけ隠れていた。

 そう、コンドーさんの雨はアジャコンダだけでなくタカトとクロトたちも襲っていたのである。

 だが、そんな雨は収まる気配は見せない。

 それどころかますます激しさを増しているのだ。

 しかも、壁としていたアジャコンダの体に次々と穴が開いてくではないか。

 ぼこっ!

 ぼこっ!

 クロトのすぐ傍でアジャコンダの体を突き抜けた次元転移ミサイルが勢いをなくして落ちていく。

 ボテ……

 それを見たクロトは少々苦笑いをしながらタカトに身を寄せる。

「タカト君wwwこれは少々まずくないかなwww」

 タカトは男と交わる気はないと言わんばかりに腰をずらし距離をとる。

「まずいって、どうすんだよ!コレ!」

「だよねwwwどうやら、あの次元転移ミサイルは触れたものを取り込んでしまうらしいねwww」

「分かってんのなら何とかしろよ!」

「タカト君wwwそんなの無理だよ! だって、ミサイルに触れたら消えてしまうんだから、どうしようもないよwww」

「ならどうすんだよ!」

「まぁ、あのデスラーの精魂が尽きるのを待つのがセオリーだよねwww」

「というか、あのジジイ……本当に打ち止めになるのかよ……」

 そうこうしているうちにアジャコンダの体がどんどんと消えていたのだ。

 そう、空から降り続ける無数の次元転移ミサイルがアジャコンダの体を侵食し、その開いた穴をどんどんと大きくしていたのである。

 いまや、そんな穴からはタカト達の体が次第に除き始めているではないか。

 このままでは、ジジイの精魂が尽きる前に、次元転移ミサイルの餌食になりかねない。

「それは、どうにも分からないねwwwすでに、あの発射回数は人間の限界を超えているからねww」

「あのジジイ!化け物かよ!」

「さてさてwwwタカト君!本当にどうしようwww」

「クロト! さっきからその笑いは何なんだよ!」

 というのも、クロトは先ほどからニコニコ。この危機を楽しんでいるようなのだ。

「いやwwwこういう時こそ、タカト君は何かひらめくんじゃないかなって、ちょっと期待しているんだよwwwwほら!道具コンテストの時もそうだったじゃないwww」

 そう、人間というのは危機的状況に陥ると、思考の回転が異常に早くなる。

 おそらく生き残ろうという生存本能が働くためなのだろう。

 だが、そうそういつも上手くいくものではないwww

「あのな! 俺をドラえもんと同じように見るなよ! 人間にはできることとできないことがあるんだよ! 大体、あのミサイルを打ち返すにもお触りしたらアウトなんだろ!」

 ……うん?

 と、ニヤリと笑うタカト君。

「おっ! その顔は何かひらめいたようだねwww」

「お触りがダメなら、お触りをしなければいいんじゃね! ヨシ! クロト‼ 5分間なんとか時間を稼いでくれ!」

「5分でいいんだね。5分ぐらいなら僕でも何とかなるかな!」


 アジャコンダの影でうずくまるタカトを横目にクロトはデスラーへと向きを変えた。

 そして、ポケットから一つの筒状の物を取り出すと、おもむろに親指を押し付けたのである。

「開血解放!」

 親指の先から流れ出す血液がその筒状の中へと流れ込んでいくと……

 ブィーン!

 という起動音とともに筒状の先端から青く光り輝く棒がシュッと伸びた。

 それはまさに、あのスターウォーズに出てくるライトセーバーそのもの。

 だが、クロトはJ大ジェダイの騎士ではない。

 しかも、この時点ではまだ第二の門の騎士にもなっていない。

 いわゆるただの人間なのである。

 そんな人間がフォースの力を宿したのだ!

 って、そんなわけあるかい!

 ドラゴンボールのクリリンがどんなに修行をしようともスーパーサイヤ人になることができないようにクロトもまたJ大ジェダイにはなれないのだ。

 そう!何を隠そう彼こそJ大ジェダイ(日大)ではなく神民学校の高等部に在籍している生徒会長さま!

 皆が頼りにしている存在なのである。

 ちなみに、このライトセーバー、クロトが作ったオイルバーン試作機の超推進力エンジンを超小型化したモノ。

 要はロケットエンジンのミニチュアなのである。

 推進力として先端から噴き出す燃焼ガスを細くまとめ棒状にしたものがライトセーバーのように見えているだけなのだ。

 だから、当然にその光の刃は超高温!

 触れたものをたちまち灰にすることだろう。

 ということは……おそらく……

 クロトはこのライトセーバーで降ってくる次元転移ミサイルを切りつけようというのである。

 確かにその刃は燃焼ガスのため固体ではない。

 これなら、ライトセーバーがミサイルの先端に触れたとしても異次元に取り込まれることは決してないだろう。

 しかも! さらに優れた利点があった!

 というのも、降ってくる次元転移ミサイルは、デスラーの砲塔の表皮に一度は接触したものである。

 ちなみに、ここだけの話だが……彼は2週間に一度しか風呂に入らない。

 しかも……その上……昨夜も壁に貼ったお登勢のポスターに向かってデスラー砲を発射しまくっているのだ。

 そんな納豆臭い砲塔の表皮触れたコンドーさんの内面が裏返って表にむき出しになっているのである。

 縦筋たてすじ露里ろり万札まんさつエイの胃袋に触れずとも、そんなコンドーさんに触れようものなら……想像しただけでもオカンが走る。

 ちなみにオカンはオカンでも母ちゃんではなくてヤカンの方である。

 そんな汚物は納豆、いや、熱湯消毒だぁぁぁぁ!

 と言わんばかりに、このライトセーバーは降ってくるコンドーさんを高温で跡形もなく焼却処理してくれるのだ。

 な! 凄いだろ!

 こんなことを思いつくとは!さすがは生徒会長! クロト様!

 そんな彼がライトセーバーを斜めに構えて、頭上から迫りくる次元転移ミサイルを睨み上げているのだ。

 もう、この姿、はたから見ているだけで、きっと何とかしてくれそうな気になってしまう。


「仮面ダレダー流奥義! 天翔九頭閃あまかけるクズのひらめき!」

 天翔九頭閃あまかけるクズのひらめき! それは言わずもがな、仮面ダレダー48の必殺技の一つである!

 超神速の剣先が九つの方向から同時に打ち出され斬撃を加えるのだ。

 まあ……明らかに、某るろうに剣士のパクリであるが……そんなことより、そもそもクロトは仮面ダレダーを知らなかったはずなのでは。

 それなのに、仮面ダレダーの必殺技を知っているというのは、一体どういうことなのであろうか?

 それはね……

 クロトが日ごろハイグショップで道具作りをしている最中、その横でタケシが叫んでいるんですよ。

「出たな! ツョッカー!」

 その様子は、まるで幼子が仮面ライダーの真似事をするかのようにポーズを決めているのである。

 おそらく、タケシの脳内イメージでは自身の姿が仮面ダレダーに完全に置き換わっているのだろうが、傍から見る分には全くのお笑い芸人であるwww

 だが、脳内仮面ダレダーのタケシは、剣に見立てたバールを斜めに構えたまま勢いよく段ボールの山に突っ込んでいくのだ。

「くらえ! 仮面ダレダー流奥義! 天翔九頭閃あまかけるクズのひらめき!」

 その瞬間、店内に積みあがった段ボールが辺り一面に吹き飛んだ。

 そう、タケシの持つバールが九つの方向から打ち出されたことによって、段ボールを右に左にとまき散らしたのである。

 その威力! その速度!

 まるで、子供が無茶苦茶に棒を振っているようなものであるwwww

 だが! 次の瞬間!タケシもまた吹っ飛んでいた!

 というのも、某るろうに剣士もこの奥義を放つと、自分の体にかなりの負荷がかかるのだ。

 そして、タケシもまた鼻血をまき散らせながら天をかけていた。

「このクズが! そんなもの店の中で振り回すな!」

 そう、段ボールが吹き飛んだ瞬間、立花どん兵衛の右ストレートがタケシの顔面を直撃していたのである。

 そんな様子を、毎日毎日見ていたクロト。

 覚えたくなくとも、自然に耳にこびりついていた。


 そして今! 目の前で次元転移ミサイルによる危機が迫るこの状況で、クロトのひらめきがさえわたる!

 ピキッーーーーーン!

「仮面ダレダー流奥義! 天翔九頭閃あまかけるクズのひらめき!」

 ついにクロトが気合とともに構えたライトセーバーを振りぬいた。


 ライトセーバーの光が作る9つの軌道!

 天から舞い降ちてくる次元転移ミサイルめがけて飛んでいく。


 皆さん既にご存じの通り、10年後のクロトは第二の門の騎士になっている。

 そう、騎士は王に次ぐ偉い身分なのである。

 当然に、下につく者たちを従わせるために、その能力は文武両道!


 だからこそ! このクロトの斬撃は宙を切ったのである!


 スカっ!

 スカっ!

 スカっ!

 スカっ!スカっ!スカっ!スカっ!スカっ!スカっ!

 9つも斬撃を放ったにもかかわらず、一つもミサイルにあたりゃしないwww


 ――あれ……?

 

 クロトの脳内でシュミレートされた天翔九頭閃あまかけるクズのひらめきは百発百中だった。

 その打ち出す角度、斬撃の軌道……どれも問題ないはずだった。

 だが、それでも当たらない! 

 ブン! ブン! ブン!

 スカっ! スカっ! スカっ!


 ついに頭にきたクロト君。

「くそおおおおおおお! あたれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 かつてタケシがやっていたようにライトセーバーをがむしゃらに振り回し始めた。

 ブン! ブン! ブン!

 スカっ! スカっ! スカっ! 

 というか、ここまでやって一つも当たらないとは……逆にある意味、凄い才能であるwwww


 まぁ、彼の場合、仕方ない……

 だって、クロトは騎士になるとはいえ、文武の武には全く才能がないのだ。

 そう、道具オタクである彼は、タカト同様に喧嘩というものに勝ったことがない。

 というか、タカトと違って喧嘩なんか吹っ掛けないのである。

 とはいっても、喧嘩以外のスポーツだってダメダメなのだ。

 要は根っからの道具オタク! インドア派なのである。

 そんな彼が、いくら脳内でシュミレーションしようが、体の動きがついていかないのは当然であった。

 だが、クロトは文武の文には優れている。おそらく、8人いる騎士の中ではトップクラスだろう。

 だからこそ、この文の部分を買われて騎士に抜擢されたのである。

 そして!今! そんな非凡なる文の部分の才能がズレた軌道を瞬時に再計算したのだ!

 ――コンマ2秒、動きが遅い! ならばその分、先に動かせば、必ず!当たる!

 再計算を終えたクロトは落ちてくる次元転移ミサイルに再びにらみを利かした。





 



 

 

 

 


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