第649話 アジャコンダ

 蛇の魔物アジャコンダの口によってオオカミの魔人スグールが今にも丸のみにされそうになっているではありませんかwww

 オオカミの魔人の奴www蛇の口の中で必死に上あごが閉じるのを支えていやがる。

 もう、足元に転がるアイドル応援グッズの入った紙袋のことなどかまっていられない様子。

 って、まだ、始まって2秒しかたっていないのにwwww


 ゴックン♪

 ――あっ! 食べられたwww


 オイオイwww

 魔人と魔物は仲間じゃなかったのかよwww

 ということは仲間割れ?


 いやいや、魔人世界のルールは力そのもの!

 そう、強者は弱者を支配するのだ。

 そしてまた同様に、弱者は強者に歯向かうことは許されない。

 このアジャコンダ、ここまで大きな体になるにはそれ相応に時間もかかったことだろう。

 だが、いまだに魔人へと進化していないところを見ると、食料にしてきたのは人ではなくて、同じ魔物といったところか……

 ならばこそ、アジャコンダは本能的に感じ取ったのである。

 このリング上の食物連鎖のカーストを!

 それゆえ、アジャコンダの牙は自分よりも弱い狼の魔人スグールへとむけられたのであった。


 今や……リング上に残るは、ゴンカレーとアジャコンダだけwww

 って、もう……タッグチームの意味ねぇ~じゃんwwww


 鎌首をもたげるアジャコンダがチロチロと舌を出し入れする。

 そして、拳を構えるゴンカレーは静かにステップを踏み始めた。

 二人、いや、二匹の獣の間に静かな火花が散り落ちる。


 次の瞬間! 大蛇アジャコンダが動いた!


 ガラガラヘビのように大きな音を鳴らす大蛇の尻尾!

 そんな尻尾が大きく!そして、激しく揺れたのだ!

 白旗とともに!


 えっ? 白旗?

 そう! 白旗である。

 白旗……それは降伏の印。

 当然に、この聖人世界においても同様の意味を持っていた。

 すなわち、このアジャコンダ、ゴンカレーと対峙した瞬間、すぐさま降参したのであるwwなんでやねんwww

 

 まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。

 相手の強さを本能的に悟ることができるこの大蛇。どうやってもゴンカレーには勝てないと悟ったのである。

 ならば、無理を承知で戦うのか?

 確かに、プライドのある魔人であればその選択もないことはない。

 だが、アジャコンダは蛇、すなわち、魔物である。

 その生存本能に従い、自分が確実に生き残れる方法を選択しただけにすぎないのである。


 だが、ゴンカレーは拳を構えたまま戦う姿勢を崩さない。

 それどころか、上半身をかがめ、殺気を高めるのである。

 そして、次の瞬間! その上半身が勢いよく回転すると渾身の力を込めた右ストレートが繰り出されたのだ!

 降参? 降伏? そんなの関係ねぇ!

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 そう!自分が生きてリングを降りたければ、相手を殺す以外にあり得ないのだ!

 それこそが!このリングの唯一無二の掟!


 その殺気を感じ取ったアジャコンダは死を覚悟した。

 今更、反撃を企てたところで間に合わない。ならば、いっそ……楽に……などと、思ったのかは知らないが、アジャコンダの頭はリングの上に土下座のように垂れさがりピタリと動かなくなっていた。


 そんなアジャコンダの鼻先をゴンカレーの拳が一直線に貫いた!


 ポン♪

 と軽い音。

 今や、ゴンカレーの拳が恐怖にひきつるアジャコンダの鼻先にそっと添えられていた。

 ゴンカレーは鼻先を撫でながら、そして、一言……

「もう……人間を食うんじゃないぞ……お前はきっと、ヒロインになれる! 俺が保証する!」

 そう言い終わると、ゴンカレーはクルリと踵を返した。


 ドキューン♡

 それを聞いたアジャコンダの眼にハートが浮かんだのだ。

 って、このアジャコンダはメスだったのか⁉

 そう、メスなのだwwww

 見てくれはこんなにごっつい体であったとしても、その心は純真な乙女なのである。

 それはまるで女子プロレス界の発展のためにあえて悪役レスラー役に身を置いた元チャンピオンのようでもある。

 きっと彼女もまたヒロインにあこがれていたことだろう。

 だが、自分を信じてくれる人のために敢えてその道を突き進んだのだ。

 そしてまた、アジャコンダもまた本当の自分を見てくれる人に出会ったのである。

 その感動はいかほどであろうか。

 そう、それは体に電撃が走るほどの衝撃!

 今やアジャコンダは興奮と感動によって体を震わせリングに横たわり失神していた!

 動かない! いや、動けない!

 高鳴る鼓動がアジャコンダの体を押さえつけるのである!

 そして今、ゴングが鳴る!

 カン! カン! カン! カン! カン! カン!

「試合終了!」

 その瞬間、会場内からは大ブーイング!

「なんじゃこれぇぇえぇ!」

「そんなのありかよ!」

「運営は能無しかよ!」

 派手なバトルを期待していた観客からすれば、この結末は納得ができない。

 チャンピオンが血まみれにならないまでにしても、せめてアジャコンダの体がグチャグチャになってくれれば興奮できた。

 だれが……アジャコンダの心をグチャグチャにしろとwww

 いや……百歩譲って、恋に身を焦がした美女がリングにへたり込んでヨガっているのであれば、まだ見れないことはない。

 だが、目の前にいるのは蛇……しかも大蛇の魔物なのだ……

 一体どこのどいつが、魔物の恋焦がれる姿を見て興奮できるというのだろうか!

 多分!いやしない!

 ということで、「金返せ!」と、怒鳴りたくなる気持ちも分からなくもないのであるwww


 しかし! レフリーが試合終了を宣言した以上、この試合は終わり!

 いかに観客がブーたれようが、終わったものは仕方ない!

 だが、気持ちの収まりがつかない観客たちは、リングに向かってゴミを投げ始めていた。

 だが、そんなゴミもリングに届くことはなかった。

 というのも、リングを取り囲む金網にあたってはじけ飛んでいたのである。

 もしかして……金網はこのために用意したモノだったのだろうかwww


「ガッチュさんwww相手が死ないとリングから降りれないのが、この地下闘技場のルールだったと思うのですがwwwコレでいいんでしょうか?」

 リングサイドに座るアナウンサーが隣の解説者に尋ねていた。

「あ~あれwwwいわゆる『ドキュン死』というやつねwwww」

「『ドキュン死』ですか?」

「そう『ドキュン死』!」

「それで死んだことになるのでしょうか?」

「オッケー!オッケー!オケツに欲情www」


 はぁ~? ドキュン死?

 それを聞く観客たちは納得がいかない。

 ココの運営は、それでいいと本当に思っているのだろうか!

 あんなくそみたいな試合を見せられて納得しろと言われても納得できない。

 当然、「金返せ! 金返せ! 金返せ!」と、荒れた観客たちのブーイングが一つにまとまりはじめていた。


「ここをどこだと思っている! 地下闘技場だぞ!」

 いつの間にかそんな荒れた観客たちを数人の屈強な男たちが取り囲んでいた。

 だが、観客たちの中には凄まれて、すごすごと尻尾を巻くものばかりではない。

 そう、カルロスのように血の気の多いものだっているのだ。

「しゃからしかぁぁぁぁあ!」

 と、カルロス隊長は威圧する男に殴りかかる!

 それを合図にするかのように、もう、会場内は場外乱闘!

 誰が誰を殴っているのか全く分からないwww

 もう、手当たり次第にどつきまくっているwww

 って、カルロス隊長は神民の守備隊長だろうwww こんなところで乱闘騒ぎなんかしていていいのかよwwww

 いいんだよ! 魔装騎兵にならずに素手でどついているんだから、全然セーフなのwww

 って、それでいいのかよwww


 タカトとクロトにも容赦なくパンチが飛んでくるwww

 だが、この二人、道具作りしかできないオタクである。

 そう、今までの人生で人と喧嘩をして勝ったためしなどありはしないのだ。

「いてっ!」

「あ痛っ!」 

 ということで、殴られるままに右にフラフラ……左にフラフラ……


 会場内の人がまばらになり床に散らばる大量のゴミが見え始めた頃、ようやく二人はカエルが指し示していた控室の前にたどり着いた。

「タカト君……何とかたどりついたね……」

「ああ……長い道のりだった……イテテテ」

 だが、二人は控室のドアを開けようとはしない。

 もしかして、何かの気配を感じ取ったのだろうか?

 いや、それともこの中にいるはずのデスラーやサンド・イィィッ!チコウ爵の攻撃を警戒したのかもしれない。

 などと、思ったのだが……単に疲れきっていただけだったwww

 というのも、そんな二人は先ほどから壁に手をつき肩で激しく息をしていたのである。

 だって……あの乱闘騒ぎの中をかき分けて進んできたのだから。

 もう……おそらく……二人のHPは限りなく0に近づいていたに違いない。

 だが、ここまできて帰る訳にはいかない!

 このドアの向こうにルリ子がいるのだ!

 大きく深呼吸をして呼吸を整えた二人は大きくうなずくと同時にドアノブへと手をかけた!

 重なりあう二つの手と手。

 金属のドアノブの冷たさとは対照的な肌のぬくもりが伝わってくる。

 とっさに顔を赤らめる二人。

 そして、互いに手をひっこめた。

 

「タカト君がドアを開けなよwww(///ω///)」

「いやクロトの方こそwww(///ω///)」

「いや、やっぱりここはタカト君でしょうwww」

「いやいや、クロトさんの出番ではないでしょうかwww」

「いやいや、タカト君に任せるよwww」

「いやいやいやいや、クロトさんを差し置いてはwww」


 ということで、お決まりの!


「じゃぁ!ワシが!」


 でもって、当然www

「「どうぞ!どうぞ!」」

 と声を合わせるタカトとクロトは、その声がする背後へと振り向いた。

 そこには、顔をめちゃくちゃに殴られてボコボコに腫らした男が立っていた。

 それを見て呆然とするタカトは、当然「あんた誰?」。

 というのも、お岩さんのようにまぶたがひどく腫れあがった状態では、もう誰なのか分からないのだ。

 そんなタカトにかぼちゃの様にでこぼこの顔の男は笑いながら声を返す。

「君は……確か、第七駐屯地で会った少年だな。そして、そっちにいるのは史内しない様の神民のクロト君」

 その声を聞いてようやく気付いたのか、クロトが恐る恐る尋ねた。

「もしかして……エメラルダ様の神民のカルロス様ですか?」

 男は大きく笑うとうなずいた。

「そうとも! カルロスだ!」 

 それを聞いたタカトもどうやら気づいたようで。

「なんだ!カルロスのおっちゃんかよ! って、カルロスのおっちゃん!神民だろ! こんなところに来ていいのかよ!」

 だが、それを聞くなりカルロスの顔が怖い表情に変わった。

「それはこっちのセリフだ! 夜遅くに子供だけでこんな場所にいていいわけないだろうが!」

「いえ、私たちだけで来たわけでは……」

 と、クロトは慌てて立花どん兵衛と本郷田タケシの姿を探してあたりを見回した。

 だが、どうにも二人の姿が全く見えない。

 もしかして、人混みが多すぎて見えなかったとか?

 いや、そんな訳はない。

 というのも、乱闘騒ぎがすっかりと収まった会場はスッカスカ。

 すでに多く観客たちは帰途についていた。

 そのため、あれほど熱気に満ちていた観客席がガランとした殺風景な光景に変わっていたのである。

 もう、向こう側の壁の下を走っているカエルの姿でさえはっきりと見えるのだ。

 こんな状態で二人の姿を見落とすわけはない。

 ならば、二人はいったいどこに行ったというのであろうか?


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