第650話 押すな! 押すな! と言われれば、押したくなるのが人のサガwwww

 実は、この二人……すでに地下闘技場から外に出て、向かいの屋台で一杯ひっかけていたのである。

 えっ? 金あるの? というか、バクチに勝ったの?

 というか、確か立花のオヤッサンって、ゴンカレーの対戦相手にしか賭けないはずだったよね?

 そう、いつもの立花であれば今頃すってんてんの丸裸。

 当然、今回もクロトから貰った金を大蛇に賭けて全財産を失っていたのである……

 だが、今回に限っていえば、立花の後をタケシがついてきたのだ。

 そんなタケシがしつこく「俺にもやらせてくださいよ!オヤッサン!」とうるさい。

 仕方ないので、銀貨1枚(千円)を十一の利息で貸してやった。

 そしたらどうだ!

 タケシの奴、ゴンカレーに賭けて、なんと銀貨1枚を銀貨1枚と銅貨2枚(1,020円)に増やしやがったのである!

 今まで地下闘技場で勝ったことがない立花は、当然大喜び。

 その初勝利を祝って、外の屋台で銅貨1枚(10円)の安酒をひっかけているという訳なのだ。

 って、その安さ……エチルアルコールではなくてメチルアルコールなのではwww

 いやいや、これはウ〇チアルコールwww

 そこら辺に転がっているウ〇コを発酵して作ったお酒なのだwww

 だから安いのよwwwって、どこぞの国にあったな、そんな酒www

 ちなみに、メチルアルコールを飲むと失明しますから絶対に飲まないようにw

 えっ?何? メチルじゃなくてルリ子の事?

 屋台の椅子の上で馬場と猪木のポーズをとっている二人の様子を見ると……多分、もう、忘れてるんじゃないかなwww


 そんな二人を探すクロトを横目にタカトがカルロスに説明を始めた。

「この部屋の奥に女の子を誘拐した誘拐犯がいるんだ!」

「なに!誘拐犯!」

 当然、タカトの言葉に驚くカルロス。

 さすがに誘拐犯とは聞き捨てならない。

「それは本当なのか!」

「カルロス様、本当です……この奥に鰐川さんをさらった一味が……」

 クロトがカエルを見せながらドアをちらりと視線をずらした。

 そんな手の上に乗るカエルが先ほどからゲロゲロ鳴いている。

 ――これはカエルだよな……

 カルロスはそんなカエルを見ながら思った。

 このカエルが誘拐犯を見つけたというのであろうか?

 ――そんな馬鹿な。これはどう見たってただのカエルだぞwww

 だが、カルロスもクロトの融合加工の才能は聞き及んでいる。

 そんなクロトが自信満々にドアの向こうを示しながら誘拐犯がいると言っているのだ。

 ――ならば、おそらく、その話、間違いないのだろう……

 そんな誘拐犯の相手をこんな子供たちだけにさせていいのだろうか?

 ――いい訳けないだろうが!

 ここは大人! いや、駐屯地の守備隊長を仰せつかっているこのカルロス様の出番である!

「わしにまかせて、家に帰っていろ!」

 カルロスは二人を押しのけるようにドアの前に立った。

 だが、タカトとクロトも、ハイ分かりましたと素直に引き下がらない。

 ここまでルリ子を救いに来たのだ。

 ならば!最後までやり遂げたい!

 そう、彼らは道具作りのオタクである!

 道具を作るのと一緒! やり始めたら自分が納得するまで終わらないのである!

 だからこそ、二人は抵抗するのだ。

「カルロス様、わたしも一緒に参ります!」

 その真剣なクロトの眼をじっと見るカルロス。

 ――どうやら、説得は無理そうだ……

 そして、タカトも同様に強い瞳をカルロスに向けるのだ。

「カルロスのオッサン! あとは任せた!」

 と、踵を返して自分だけ帰ろうとしはじめた。

 そんなタカトの首根っこをカルロスがギュッとつかみ上げる。

 宙に浮くタカトは足をバタバタとさせながら抵抗を始めた。

「放せ! カルロスのオッサン! ここは子供が来る場所じゃないんだろう!」

「お前らぐらい、ワシが守ってやる!」

 そう言うカルロスは腰のベルトにストックしている魔血タンクの本数を確認した。

 それは魔装騎兵になるために必要なエネルギー。

 それが2本残っている。

 コレだけあれば、子供二人ぐらい守るには十分だろう。

 しかも、先ほどまでの乱闘騒ぎとはちがい、相手が誘拐犯とあれば魔装騎兵になってぶち殺しても文句は言われない。

 それどころか、明日、出勤した際、あざだらけになった顔をエメラルダに見せたことによって「カルロス! また!地下闘技場に行っていたわね!」と、叱責されたとしても、「いえいえ……エメラルダ様、地下闘技場で遊んでいたわけではございません。私は誘拐された女性を救出に行ったまででございます」などと、言い訳できるのだ。

 そうじゃなかったら……

 そうじゃなかったら……

「カルロスだけ!ズル~い! 私も行きたかったのに!!!!」と散々駄々をこねられて手が付けられなくなってしまうのである。

 だからこそ、カルロスはエメラルダには内密で来ているのだwww


 カルロスは二人を背後に隠すようにドアの前に立つと、ドアノブへとゆっくりと手を伸ばした。

 金属の冷たい感触がジットリと汗ばんだカルロスの手のひらに伝わってくる。

 もしかしたら、カルロス自身、このドアの奥から伝わってくるプレッシャーに緊張しているのだろうか?

 えっ? あの魔装騎兵になれるカルロス隊長がww そんなわけあるかいなwww

 いや! この時、実際にカルロスは緊張していたのだ!

 というのも、このドアは選手控室に通じている。

 という事は……

 もしかしたら!

 このドアの奥にはチャンピオンのゴンカレー=バーモンド=カラクチニコフがいるかもしれないのだ。

 そう考えると、ゴンカレーの熱狂的なファンであるカルロスに緊張するなという方が無理な話なのである。


 そんなカルロスが恐る恐る目の前のドアを押し開けてゆく。

 ゆっくりと広がっていく隙間からは部屋の中の薄暗い光が徐々にこぼれ始めた。

 そこは、学校の教室ほどの大きさ空間が四方を石壁によって取り囲まれていた。

 そんな部屋を照らすのは数本のたいまつだけ。

 そのせいか多くの場所ではわずかな光が届かず、不気味な黒い影を揺らめかせていたのだ。

 そんな部屋の中は妙に静まり返っていた。

 ――もしかして、誰もいない?

 中を覗き込む三人。

 というか、先ほど試合が終わったばかりなのだ、誰もいないはずはない。

 そう思った瞬間、部屋の奥の暗闇でわずかに動く音がした。

 カルロスは、その見えぬ相手に向かって、そっと小さな声を出す。

「そこにいらっしゃるのはチャンピオンですかぁ……」

 及び腰のカルロス……

 もしかして怖いのかよwww

 などと、突き出されたお尻の背後にいるタカトは思っていたのかもしれない。

 というのも、タカトの顔がニヤニヤといやらし笑みを浮かべていたのであったw

 ――そう! こういう時のお約束といえばぁ~wwww

 これである!

 押すな! 押すな! と言われれば、押したくなるのが人のサガwwww

 という事でwwww

 押してみましょうwwww

 ポチっとなぁ~♪


 ということで、タカトは押してみたwww

 押さなくてもいいのに、ついつい押してみた。


 バタン!

 瞬間、大きな音ともに前のめりに倒れこむ音が響く。

 いや、それはそんなかわいい音ではなかった。

 表現するなら……ガゴーン!

 その音は部屋を取り囲んでいる石壁を激しく震わせたのだ。

 その様子にタカトなどは、あんぐりと口を開けたまま固まっている。

 ――俺……もしかして、とんでもないものを押したのでしょうか……

 今更ながら後悔が押し寄せてきているようである。

 というのも、背後にいるクロトなどは恐怖で顔が引きつっているのだ。

「タ……タカト君……さすがにこれはまずいんじゃないかな……」

 そして、二人の前に立つカルロスも呆然と目の前の状況を見上げながら

「お前は! なんばしよっとかぁぁぁぁぁ! この馬鹿チンがぁぁぁぁ!」

 と、金八先生ばりに大きな怒鳴り声をあげたのである。

 え……?

 なに?

 カルロスさんって、前のめりに倒れこんだんじゃないのかって?

 はぁ? 何を言っているのですかwwww

 神民で、かつ守備隊長であるカルロス様のお尻など不謹慎なタカトでも簡単に押せるものではありませんよwww。

 というか、タカトに押されたぐらいで百戦錬磨のカルロス隊長がコケるわけないでしょうがwwwこの馬鹿チンがwww

 ということは、タカトは何を押したのであろう?

 それは……


 壁につけられた非常ボタン。


 読者の諸君は思ったことはないだろうか。

 学校の壁に備えられた赤い非常ボタン。

 言わずもがな、火災になった時に押すと言われているボタンである。

 そして、それをひとたび押せば学校中の非常ベルが鳴り響くといういわくつきのものだ。

 当然、平時に押せば大変なことになる。

 学校中がなんだなんだと大騒ぎwww

 それどころか、金八先生から確実に大目玉を頂くことになるのだ。

「お前は! なんばしよっとかぁぁぁぁぁ! この馬鹿チンがぁぁぁぁ!」

 そんなことは分かっている。

 分かっているのだが……

 目の前にボタンがある以上、それを押してみたいという衝動にかられるのである……

 こみ上げてくる好奇心……

 たとえその結果が破滅的な未来しかないと分かっていても、ついついそれを選択してしまうのが人というものなのだ……


 まさにタカトもそうだった。

 ドアの脇の壁に備えられた非常ボタン。

 押してはならぬと赤い色で主張していた。

 だが、押すなと言われてハイそうですかと理解する素直なタカトではない。

 というか、逆にオタクの好奇心がうずくのだ。

 このボタンを押したらどうなるものかと……

 それは、金八先生に怒られる恐怖にも勝るものである。

 そんな抗いがたい好奇心のおもむくまま、そのボタンに指をかけると……

 力強く押し込んでみたのだwww


 ポチっとなwww

 

 ガゴーン!

 大きな鉄格子が前のめりに倒れると石床を激しく叩きつけた。

 瞬間、大きく揺れる四方の石壁。

 部屋中には舞い散った砂埃が充満していた。

 そのうっすらとした暗闇の中、何かがゆっくりと立ち上がる。

 それはとても大きな影……

 ゆうに人の三倍はあろうかという影は天井近くまで伸びあがっていたのだ。

 そんな影の先……先ほどからチロチロと赤い舌が見え隠れする。

 どうやらそれは鎌首を持ち上げた蛇の顔。

 しかも、薄暗い空間という映画のスクリーンに大きく映し出されドンと迫ってくるかのように大きいのだ。

 その大きさは、まさにタカト達の視界の端と端……そこに一つずつ、ガラスのように澄み切った眼が見えるほど。

 この大蛇……観客席から見たときも大きいと思ったが、間近で見ると半端ない。

 そんなアジャコンダが先ほどから舌をチロチロと出しながら三人を睨んでいたのだ。




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