第648話 だいかいじゅう!デバガメラ

 では! ここでタカト君に、このデバガメラの性能を説明してもらいましょう!

「聞いて驚け! コレは『大晦渋だいかいじゅうデバガメラ』! 美女のスカートを気づかれることなく捲ることができるすぐれものなのだ!」


 この場にビン子がいれば、絶対に言ったことだろう。

「また、アホなもの作ってからに……」


 さて、この時点で、鋭い洞察力を持っている読者の諸君はおかしいと思ったに違いない。

 というのも、「北風と太陽」の話通りであれば、発せられる熱エネルギーを避けるかのようにして美女そのものが自らスカートをめくるものと思われたのだ。

 だが、タカトは「美女のスカートを気づかれることなく捲る」と言い放ったのである。

 すなわち、この「気づかれることなく」の対象は、スカートを身に着けている美女そのものを指していると思われるのだ。

 ということは、美女そのものに自らスカートをめくらせるという話と矛盾することになるのではないだろうか。


 ――はあ? 誰が熱エネルギーを使ったって言ったんだよ!


 デバガメラが放出しているのは太陽ごときに存する熱エネルギーなどとは異なっていた。

 それは、広大な宇宙!

 あまねく宇宙に普遍的に存する膨大なエネルギー

 そう! それこそ! ダークエネルギーなのである!

 いわゆる反重力エネルギーって奴ね。

 ウィキペディアによると、「ダークエネルギーとは、現代宇宙論および天文学において、宇宙全体に浸透し、宇宙の膨張を加速していると考えられる仮説上のエネルギー」であり、「宇宙全体に広がって負の圧力を持ち、実質的に「反発する重力」としての効果を及ぼしている仮想的なエネルギー」なのである。

 確かに、この原稿を書いている時点では仮説の域を出ていないエネルギーなのであるが、まぁ、小説の中ではフリーダム! 仮説のエネルギーだって実現できるのだ!

 ということで、タカトの足先に乗ったデバガメラからは反重力エネルギーが放出されていたのである!


 すなわち、自らめくれていたのは、スカート自身であって、美女そのものがスカートをめくっているわけではなかったのだ。

 は? なら! 「――はぁ♡はぁ♡熱い♡熱いわ♡」ってのは誰の言葉だよ!

 そんなの簡単じゃん!

 ここまでの文脈から読めば、その主語はタカトである。

 目の前のスカートが徐々にめくれ、その下にあった白い太ももが姿を現してきたのだ。

 背後からその様子を見るタカトにとって、その先にはきっと二つの桃源郷の丘と、それに挟まれた深い渓谷がはっきりと想像できたのだ!

 白だろうか?

 黒だろうか?

 いや、もしかしたらヒョウ柄かもしれない♡

 もう、それを考えるだけで、下半身が――はぁ♡はぁ♡熱い♡熱いわ♡と、なるのであるwwww


 だが、世の中、自分の立てた仮説が必ず立証されるとは限らない。

 どちらかと言えば、外れることの方が多いのである。

 それが、実験! モノづくりというものである!


 そう、タカトの立てた仮説もまた、完全に覆されたのだ。


 デバガメラによってめくられたスカートの中には、確かに二つの桃源郷の丘とそれに挟まれた深い渓谷が存在した。

 存在したのだが、それは驚くほどの問題ではなかった。

 というのも、スカートを身に着けているのが人間である以上、おおよそすべてのスカートの下にはケツというものが存在するのだ。

 だから、目の前にケツが出てきたからと言って、すぐさま発情した犬のように興奮を覚えるものではない。

 そう、己が人間である以上、そこにエロスを求めるものなのである。

 それは、ケツが醸し出す妖艶なシルエット。

 ほのかに漂ってきそうな湯上りの様な生温かさ。

 うっすらと汗でもにじんでいれば、なお最高だ!

 そして、それを覗き見ようとするスリルが非日常のエロスをさらに加速させる!

 いうなれば、スカートめくりはエロスの芸術なのである。

 だから、スカートをめくってケツが出てくるのは当たり前!

 重要なのはそれを覆っている被膜のほうなのである!

 その被膜の存在によって、男は妄想を掻き立てられるのだ!

 特にモザイク処理に慣れた日本男児にとってチラリズムは最高のエロティシズムなのである!

 その材質はシルクやコットンと様々。

 当然、色も白を中心としてベージュや黒と多種多様に展開される。

 そして、その形も逆三角形、もしくは台形が多いのであるが……

 桃源郷の丘の中央を縦に走る深い渓谷には、細い布地がグイグイと食い込まれていたのである。

 まぁ、この表現だけであればTバックという線も残っている。

 現に、目の前のケツは、Tバックのように二つの尻の肉をむき出しにしていた。

 だが、なにかTバックのような艶やかなエロさがないのである。

 ぐっと力の込められた尻の両肉には、まるでえくぼの様なくぼみができていた。

 その太もものたくましいことと言ったら、この上ない。

 しかも、よくよく見ると太ももには無数の毛が生えているではないか。


「何すんのよ!(怒)」

 いきなり目の前のケツがクルリと半回転すると、タカトの横顔をビタンと平手打った。

 キーン!

 耳の奥で何か甲高い音が響いた。

 そして、一瞬、気が遠くなりそうになるタカト。

 だが、その瞬間、先ほどまで感じていた違和感の正体に気が付いたのだ。

 ――なんだと!

 そう、このケツ……Tバックというより……お祭りわっしょい!

 180度回転した先には六尺フンドシさながらの前掛けがたれていたのである。

 しかも、その前掛けの中心には左曲がりの小高い山脈が一つハッキリと認識できた。

 ――でかい! というか! こいつ!オッサンやないかい!

 というのも、タカトとこのオッサンの距離は握りこぶし二つ分ほど。

 背後に立つタカトの眼からは目の前の人間がオッサンか美女かなどは判断がつかなかったのである。

 分かるのは目の前にあるスカートが色とりどりの花柄で一杯だったこと。

 そんなスカートである。当然にそれを履いているのは、きっと可愛い女に違いない!

 ……と思ったのだ!

 だが、今にして思えば、スカートを履くのが女だという先入観がまずかった……

 そう……ここにきて、タカトの仮説が外れたのである。

 男だってスカートを履いていいじゃない!

 オッサンだからといってスカートを履いて何が悪いのだ!

 今の世の中!ジェンダーレス!

「僕はザフトではありません! そしてもう!地球軍でもないんです!」

 だったらなんやねん! お前という存在は!

 えっ! それは!ただのオカマです!(キリっ!)

 そう!人類みなフリーダムガンダムなのだぁぁぁぁぁぁ!


 だが、そのスカートがめくれていく様子を見ていた立花どん兵衛は思ったのだ……

 ――俺はこいつが天才だと思っていたのだが……そんなレベルではないのかもしれない……もしかしたら!これがニュータイプというやつなのか!

 というのも、立花はタカトの背後にピタリとついて歩いていた。

 そんな立花の眼にタカトの奇異な行動が飛び込んできたのである。

 というのも、何を思ったのか知らないが、目の前の少年は自らの足をスカートの下にすっと滑り込ませたのだ。

 すると、何ということでしょう! 足先の上にあるスカートが手も触れてもいないのに自然とめくりあがり始めたではあ~りませんか!

 アンビリーバボォ!

 などと、普通の人間であれば手品かまじないの類かと驚いてしまうことだろう。

 だが、これでも立花どん兵衛は融合加工のリサイクル屋を営んでいる。

 日頃からクロトをはじめとした天才たちの作る融合加工の道具を目にしているのだ。

 だから、当然、それぐらいの事では驚かない。

 ――おおかた、この少年、空魔の素材でも融合加工したのだろう。

 などと、その道具の本質を簡単に見破った。

 だが、驚くべきことはそんな事ではなかったのだ。

 少し離れる立花どん兵衛からはタカトの様子がよく見えた。

 そして、タカトがめくろうとしているスカートの主の姿も当然に。

 それはゴッツい背中。服の上からでも筋肉の盛り上がりがよく見えた。

 そして、細長く角ばった頭のてっぺんは禿げあがり、細長い弁髪を垂らしているではないか。

 それはどこからどう見ても……ただのオッサン。

 百歩譲ったとしても、スカートを履いた少々おかしなラーメンマンなのである。

 だが、目の前の少年は、そんなオッサンが履いているスカートを必死にめくろうとしているのである。

 立花は思考を巡らせる。

 というのも、普通の感性なら美女の履くスカートをめくりたいと思うのが男というものなのだ。

 実際、立花自身もそうだった。

 誰が好き好んでオッサンのスカートをめくりたいと思うだろうか……否!思う奴などいやしない。

 だが、それでも目の前の少年は「はぁ♡はぁ♡」と鼻息を荒くしながらスカートをめくろうとしているのである。

 ――もしかして、こいつは女ではなくてオッサンに興味があるのかもしれない!

 その真実に気づいた立花の脳裏で、今まさに新たな人類の可能性が生まれたのである!

 ぴきーん! という音ともに種が弾ける!

 それは、seedと言ってもいいほどの小さい種!

 その種がついに芽吹いたのだ!

 ――そうか!これがニュータイプという奴か!

 だが、そんな立花の目の前でビタン!という大きな音。

 タカトの頬がオッサンの平手打ちをモロに食らって吹っ飛んでいたのである。

 ――って! ニュータイプ!よえぇぇぇぇぇえ!

 だが、次の瞬間!seedが覚醒した立花の本能が警告音を発したのだ!

 そう!立花は何か鬼気迫るプレッシャーを感じ急に足を止めたのである。

 ――まずい!

 目の前のオッサンが怒りに肩を震わせながらハンカチをかみしめていた。

 しかも、涙ぐんだその目が、先ほどから立花をジッとにらみつけているではないか。

 もしかしたら、このオッサン……タカトの背後に立っていた立花をニュータイプの仲間だと勘違いしたのかもしれない。

 ――やばい!

 一歩踏み出すオカマのオッサン!

 それと同時に一歩あとずさる立花どん兵衛!

 だが、オッサンと立花とでは足の長さが違っていた。

 ――やばい! やばい! このままでは間に合わない!


 そんな立花の様子に気づいたクロトは何事かと振り返った。

 そんなクロトの目に映ったのは真剣な面持ちの立花どん兵衛の姿だった。

 クロト自身、ここまでシリアスな表情は見たことがなかった。

 ――もしかして、今更ながら、ルリ子をさらったサンド・イィィッ!チコウ爵との戦いに緊張でもしているのだろうか?

 心配したクロトは、後ずさる立花に声をかけた。

「オヤッサン……どこに行こうとしているのですか……鰐川さんがいるのは逆ですよ……」

 そう、立花は、真顔のまま、しかも、クロトから目をそらさずにそれとなくゆっくりと後ずさり離れていこうとしていたのである。

 しかも、その方向はクロトの手の上にいる『美女の香りにむせカエル』が指し示す方向とは真逆。

「……わしはチョット……そうだ! あっち側も念のために探しておこうと思ってなwww 決して、一勝負しようだなんて思ってないからなwwww」

 一見すると、迫りくるオッサンから逃げているかのようにもみえた……

 だが、すでに立花の視線は別のほかの所を意識している。

 その視線の先にあったのは、ファイナルマッチのオッズが映る掲示板。

 しかも、その掲示板の上部では投票の締め切り時間が刻一刻と削られていたのである。

 ――ははぁん……

 クロトは一瞬で理解した。

 おそらく、この立花の態度からして、先ほどクロトから貰った金貨をこのファイナルマッチにかけようという気なのだ。

 しかも、投票の締め切り時間はあとわずかときている……

 そんなものだから、立花はそわそわして居ても立っても居られない様子なのだ。

 それが分かったクロトは大きくため息をついた。

「はぁ……」

 おそらく、こんな状態の立花がいたとしても役に立たないだろう……

 もしかしたら、クロトはそう判断したのかもしれない……

「いいですよ……鰐川さんは私たちだけで探しますから……」

 と、そんな言葉が終わらないうち、すでにクルリと向きを変えた立花の姿は投票場に向かって走りだしていた。

 そして、そんな立花の後ろ姿を追うかのようにオカマのオッサンも長く伸びる弁髪をなびかせながら疾駆していく。

「きゃぁぁぁぁ! 間に合わないわ! このファイナルマッチにフンドシのクリーニング代を賭けるつもりだったのよ! もう三週間も洗ってないのよwwww匂って匂って仕方ないのよ!」

 どうやら、このオッサンも立花同様にファイナルマッチの締め切り時間を失念していたようであった。

 でもって、なぜかその二人の後を追って本郷田タケシも走り出す。

「待ってください! オヤッサン! 俺もやってみたい!」

 ――って、お前は賭ける金もないだろうが! この貧乏人!

 などと思っているタカトをしり目に、クロトは再び人ごみをかき分け始めていたた。


 どうやら、カエルはルリ子の存在をこの闘技場の奥、いわゆる選手控室から感じ取ってるようであった。

 だが、そこに行きつくのが、これまた大変! 超大変!

 というのも、観客席は芋を洗うかのように込み合っているのだ。

 しかも、ファイナルマッチが今にも始まろうとしているため、その興奮はマックス状態。

 そして興奮のるつぼの中、今!試合開始のゴングなったのである!

 カーン! 

「お前ら! 邪魔なんだよ!」

「ガキどもが来るところじゃねぇ!」

「うろちょろ動くなよ! 見えねえだろうが!」

「あ~あ! オオカミ野郎がぁぁぁぁぁぁ!」

 などと、絶叫に近いクレームがタカトとクロトを遮るのである。

 ――というか……オオカミの魔人がどうしたっていうんだ? さっきから耳の奥がキーンとしてよく聞こえねえだよ!

 さすがにその様子が気になるのか、右頬を赤く腫らしたタカトは目をリングに移した。


 すると!

 なんという事でしょう!


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