第639話 ニシン ラオウ!(1)
と、クロトたちに巨大なチ〇コ型の棍棒の話をしたどん兵衛であったが、なぜかタカトが下を向き妙にモジモジしはじめていた。
「それ……多分……俺が作ったやつ……」
「なに! あれはお前が作ったものなのか!」
どん兵衛は驚いた。
というか、何か腑に落ちたような表情をしていた。
「どおりで権蔵が作ったにしては、変なものだと思ったわい」
だが、権蔵の弟子であるこの小僧が作ったというのであれば納得ができる。
「で、あれは何をする道具なんだ?」
「ああwwwあれ!」
と、急に元気になったタカトは意気揚々と!
「聞いて驚け!仮面ダレダーのシーズン1に登場するツョッカーの怪人『イマラッチョ大佐』が使用する『チ〇コ型の棍棒』だぁぁぁぁぁ!」
「「イマラッチョ大佐!?」」
仮面ダレダーなど見たことのないクロトやどん兵衛は頭を悩ませた。
だが、タケシは興奮するように声を大きくする。
「おおお! イマラッチョ大佐! イマラッチョ大佐の必殺技といえば!『イマラッチョアタック!』 チ〇コ型の棍棒を激しくつきまくるあれだろ!」
それを聞くタカトは仲間ができたって感じでテンションマックス!
「そうそう! 仮面ダレダーに登場するヒロインたちの女性の尊厳というあらゆる場所を攻めまくり二度と普通の生活が送れないぐらいに精神崩壊させるというあの技だよwww」
「あれは!超ディープな技だよな!」
などと、拳を握り締め力説をするタカトとタケシであったが、それを聞く二人はキョトン。
「「……で?」」
「そんなイマラッチョ大佐のステージ用の棍棒を作ってくれって、第七駐屯地にいるじいちゃんに依頼が来たんだけど、じいちゃんが仮面ダレダー知らないって言うから、俺が代わりに作ったってわけ」
いや!違うだろ!
お前が泣いて「俺に作らせてくれって!」懇願したんだろうが!
と、サンドイッチを頬張りながらビン子が思ったのかどうかは知らないwww
「で、そのステージ道具がなんでゴミに?」
「いやぁぁぁwww ちょっと、凝りすぎちゃって想定よりも重量が大きくなっちゃってさwwwwしかも、使用する血液がバケツ一杯ほどいるようになっちゃってwwwでもって、使えねぇってことにwwww」
それを聞いたタケシが笑いながら突っ込んだ。
「確かにそれじゃ使えやしないな! わははははは!」
で、クロトも苦笑いしながら、フォローを入れる。
「タカト君らしいやwwww」
だが、立花どん兵衛だけは真顔で顔を引きつらせていた。
――こいつ……権蔵の血液一滴の技術を使ったうえで、バケツ一杯の血液が必要だというのか……いったいどれほどの開血解放のパワーが出るというんだ……
そして、今度は少々、悔しそうな表情に変わり唇をかみしめていた。
――わしは……もしかしたら、とんでもないお宝を見過ごしてしまったのかもしれん……
しかし、諦めるのはまだ早い。
というのも、それを作った本人が目の前にいるのだ。
それなら、その技術のすべてを見せてもらおうではないか。
「おい! タカト君! 外で立ち話もなんじゃ。中に入って、融合加工の道具作りでもしていかんか?」
どん兵衛はタカトを店の中にいざなった。
「えっ⁉ いいの?」
それを聞いたタカトは目を輝かせた。
「ああ。かまわんよ。しかも、店にある魔物素材は使い放題じゃwwww」
「マジ! あとでお金払えって言うのは無しだぜ」
「アホか! わしはそこまでせこくないわい!」
その後を追うクロトとタケシ。
「そしたら私たちも融合加工づくりをしましょうかwww」
「俺はまた!サイクロン制作の続きだ!」
と、夜にもかかわらずにぎわいだした立花ハイグショップ。
で、その店内に一人残されていたビン子ちゃんは、残ったサンドイッチを全部平らげておりましたとさwww
「シュールストレミングサンド! まじ!うめぇ! いや、まじ!くせぇ!」
え? ルリ子さん?
ルリ子さんならサンドイッチを買って戻ってきたら、すぐに帰ってしまいましたよwww
夜のとばりが下りた貧困街。
スラムとまではいえないまでも、この辺りは当然ガラが悪い。
そんな夜道をダボダボのテイシャツと下着かと思うほど短いショートパンツを履いた若い女の子が歩いているのだ。
まるで、飴玉をアリの群れの中に落とすがごとく、自然と酔った男たちが集まっきた。
ルリ子の肩に赤ら顔で腕を絡めてくる50過ぎのオッサンなどは、左手の人差し指と親指で作った丸の中に右手の人差し指を出し入れしながら、
「なぁ、姉ちゃんwww俺っちと一緒にズッコンバッコンシーソーごっこでもしていかないwwww」
などと、いやらしい笑みを浮かべる。
そんな、オッサンの顔に!
スパ――――――っん!
ルリ子の裏拳が肩ごしに見事に入った。
「なにしやがんだ! このアマ!」
鼻血が垂れ落ちる鼻はあらぬ方向にゆがんでいる。
だが、目の前の女はまだ少女!
男である自分が力にものを言わせれば、きっとヒーヒーと泣いて許しを請う事だろう。
ということで、よろけながら後ずさったオッサンは、今度は急にイキがりはじめた。
「ヒーヒー言わすぞ! コラァァ!」
その勢いはまるでレイプでもするかのよう。
「俺の高速シーソープレイを舐めるなよ! イキグルわせて昇天させてやるぞ!」
腰をフリフリ! ルリ子に迫ってくる!
スパ――――――っん!
そんなオッサンの股間にルリ子の回し蹴り!
声すらあげることができないオッサンの時はすでに止まっていた。
今や完全に白目をむいたオッサンは股間を押さえ立ったたまま昇天している。
って、立ったままってアソコの事じゃないからね!
そう! 我!死するとも膝をつかず!
まさに! この信念の立ち姿!
かの有名な拳帝ラオウを想起させる!
――我が生涯に一片の不純異性交遊すらなし!
それって、ただの童貞じゃんwww
いや、この年齢まで貫けば魔法使い!信念の賢者である!
だが、そんな信念の賢者は一人ではない。
いつの間にかルリ子の周りを何人かのむさくるしい男達がよだれを垂らしながら取り囲んでいた。
「エロエロえっさいむ~」
「エロエロえっさいむ~」
賢者たちはまるで催眠でもかけるかのように不思議な呪文を唱え始めていた。
「エロいおなごに天誅を!」
「われら童貞の贄となれぇ~」
それを、ダルそうな目で見つめるルリ子。
「毎日……毎日……うっとおしいんだよ! このクソ変態野郎どもが!」
と、次の瞬間には、目の前の賢者の腹に膝蹴りが入っていた。
「あべしぃぃぃい!」
「ひでぶぅぅぅぅ!」
「おやしらずぅぅ!」
次々と悲鳴を上げながら倒れていく賢者たち。
そう、ここまではルリ子にとっては、いつもの事だった。
だが、今日に限って言えば少々違っていたのだ。
というのも、ルリ子の細い足首が目の前の半裸のムキムキ男によってギュッと掴まれていたのである。
酔った男だと思っていた。
ヒマモロフの麻薬でラリった奴らだと思っていた。
だが、目の前の男は魔法使いでもなければ賢者でもなかった。
その肉体は、まさに!ラオウ!
「このクソ野郎が!」
そんな男がルリ子の回し蹴りをいとも簡単にキャッチしたのである。
今や、ルリ子がいかに足を動かそうがビクともしない。
それどころか、その男はいやらしい笑みを浮かべながらルリ子の引きずり上げていくではないか。
「何しやがんだ! このクソ野郎! 放しやがれ! このクソ! クソ! クソ!」
左足のつま先が地面から離れると、ついに、ルリ子の股が大きく開いた。
それと共に、吊り下げられたルリ子の頭が反転して真っ逆さまに地面を指したのである。
ツインテールの髪がまっすぐに地面へと垂れ落ちる。
そんな頭は徐々に徐々に引き上げられて、今や男の股間部分の高さにまでなっていた。
男はそれを確認すると、今度は空いた方の手でズボンのチャックをまさぐり開けはじめた。
「お前のせいで、お前のせいで! こんなになっちまったじゃないか!」
泣きわめく男はモゾモゾと片手でズボンの中からハイレグカットの汚れたパンツを引きずり出したではないか。
「お前のせいだ! お前が何とかしろよ!」
そして、その大きな手で宙にぶら下がるルリ子の後頭部をガッツリと掴み取ると、力任せに、そして、一気に股間へと押し付けたのである。
「おげぇぇぇぇぇぇえ!」
瞬間、ルリ子の鼻孔の奥に生臭い臭いが突き抜ける。
いや突き抜けるといった表現は生ぬるい。
鼻の奥から喉の奥に至るまで、ものすごく強烈な匂いが一気にドバッっと流れ込んできたのである。
「おげぇぇぇぇぇぇえ!」
それは、まさに耐えがたい匂い……
――臭い! 臭い! 臭い! 臭い!
一瞬、昇天しかけたルリ子はアへ顔になりながら嘔吐していた。
「ゆ……許して……もう、これ以上、舐められない……」
男はその反応がよほどうれしかったのだろうか、更にルリ子の頭を股間に押し付けて腰を振り出したのである。
「お前の舌できれいに掃除しろよ! このシュールストレミングの匂いを!」
シュールストレミング……それはスウェーデン産のニシンの塩漬けで、世界一臭い食べ物と言われている代物だ。
そして、ココで言うシュールストレミングは、男性特有の生臭い臭いを比喩表現したもの……ではない!
そう!本当に、シュールストレミングの匂いなのであるwww
というか、なんでこの男のパンツにシュールストレミングの液体がべっとりとついているんだよwww
一体、そんなものどこでついたというのだwww
……うん?
そういわれれば……
さっき、ビン子が美味しそうに頬張っていたのがシュールストレミングのサンドイッチ……だったような……
ということは、この男!
そう! この男の名前こそ!
ニシン ラオウ!
ちなみにキッチンラ王の店長である。
だが、キッチンラ王はパン屋ではなくラーメン屋である。
そんなラーメン屋が、夜の9時過ぎ、せっかく営業時間が終了して翌朝の仕込みのために気持ちよく寝ていたにもかかわらず、ルリ子によってシャッターをガンガンと蹴られて叩き起こされてしまい、ついには、サンドイッチを無理やり作らされたのである。
その恨みはいかほどか……
しかもその上、慣れない作業のため、何気に開けたシュールストレミングの缶から勢いよく噴き出した液体が男の股間をモロに直撃したのである。
キッチンに漂う異様なにおい。
その匂いの臭いこと臭いこと!
まさに地獄!
こんな状態で、あすの朝、ラーメン屋を営業することができるのであろうか?
いや! 無理に決まっている!
えっ? なに? さっきの話ではルリ子はパン屋のシャッターを蹴って起こしたって書いてあっただろうって? 確かに……その通りです……
もしかして、このラーメン屋のサイドメニューにアンパンが提供されるからパン屋と称していたとか?
確かに、このクソ作者……その線も考えた。だから、提供されたサンドイッチの中にわざわざアンパンを出したのだ……
出したのだが……それではあまりにも話が面白くなかろうが!
ということで、ルリ子はこの店がラーメン屋だと分かった上で、あえて!パン屋だとディスっていたのである。
ディスる?
そう! ディスりである!
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