第638話 ハイクショップの濁点(2)

 確かにそうである。

 Wikipediaによると、ハイレグとは「ハイ レッグ カット(High leg cut)の略称で、主に女性用(男性用もある)の下着(パンティー)や水着、レオタード類のデザインの一種」とある。

 そんなハイレグをこんな小汚い店で女性たちが買うだろうか?

 もし、試着などしようものなら……フィッティングルームの上部の隙間からどん兵衛タケシとがよだれを垂らしながら覗きだすに違いない。

 ハイ レッド カード!(Hi red card)

 それだとwwwハイレドwwww

 というか、そもそも、ハイレグというものは奇麗でこじゃれたショップで買いたいと思うものである。

 それが例え男であったとしても、とてもじゃないがこんな店で買いたいとは思わない。

 だって……なんかすでにカピカピに汚れてそうだもん……

 ということで、余計に混乱したタカトはクロトに対して怒鳴った。

「なら! この『ハイグ』ってなんなんだよ!」

 クロトは笑いながら店の外に出て看板を見上げる。

「ああ、それwwwこれのこと!」

 と、一つの融合加工の道具をクルクルと指で回すのだ。

 融合加工の道具の事であればタカトは少々うるさい。

 だからこそ、クロトが回している道具がすでに壊れていることは直ぐに分かった。

「それブッ壊れてるだろ!」

 というか、壊れたゼンマイ時計のように至る所からいろんなものがビローンと飛び出しているのだ。

 融合加工に疎いビン子にだって、それが壊れていることは一目瞭然。

 だが、クロトはニコニコとしながら、さも当然と言わんばかりに答える。

「そうだよwwwだって、ここはリサイクルショップ。国中の廃具ハイグが集まってくるところだからwww」


 立花は使われなくなったり壊れた融合加工の道具、すなわち廃具ハイグを集めてきては、それを直すことを仕事としていた。

 通常、融合加工された道具はリサイクルなんてされやしない。

 壊れた道具のほとんどが、そのままゴミ捨て場に直行するのである。

 だが、融合加工は唯一無二のもの。

 同じように見えても同じものは存在しない。

 だから、優れた道具であれば、それをリサイクルしてでも使いたいという思いは、誰にでもある。

 しかし、融合加工のリサイクルというのは簡単にできないのだ。

 なぜなら、融合加工というものは、どうしてもそれを作った職人の腕によって、その性能や能力が大きく左右されてしまうのである。

 例えば、盾の硬度強化の融合加工を施したとしても、その職人によって使用する血液量も違えば硬度も違う。はたまた、その重さ、輝きなども変わってくるのだ。

 そのため、元の状態に戻そうとすれば、その作った職人の癖を熟知しないといけなかったのである。

 確かに癖を熟知すればいいと言えば、それまでなのであるが、これが意外と難しい。

 というのも、職人の癖なんて言うものはどこにも説明書きなんてされていない。

 あるのは目の前の壊れた道具だけ。

 その道具を一つ一つ丁寧に分解していく過程で、その職人の心を理解していかなければならないのである。

 それは膨大な数の職人の癖を熟知することと同じこと。

 まるで、頭の中に職人の図鑑を作り上げることに等しいのだ。

 こういえば、その作業がいかに大変かが分かってもらえるだろう。

 だからこそ、リサイクルを行う職人なんて、ほとんどいないのが現実なのだ。 

 そう、立花どん兵衛はこう見えても、この国のありとあらゆる融合加工職人のクセや性格を熟知していた。

 だからこそ権蔵の性格も作られた道具から感じ取っていたのである。

 そういう意味でいえば、立花どん兵衛もまた一流の融合加工職人と言えるのであろう。


 そんな立花が指先についたマスタードをベロベロとなめながら外に出てきた。

「そんなもんだから、このクロトはこの店に入り浸っていやがるのよwww」

 それを聞いたクロトはきまりが悪そうな笑みを浮かべる。

「オヤッサンwww入り浸っているって、ちょっと酷いなぁwwwwちゃんと、さっきだって居候代を払ったでしょうwww」

 って、さっきの金貨一枚は俳句の代金じゃなかったのかwww

 その金貨を指先でクルクルと回しながら立花は大きなため息をついた。

「というかさ、クロト。お前だったら融合加工院に行けるだろうがよ。こんなところにいつまでもいるもんじゃないぞ」

「融合加工院か……確かに魅力的なんだけど……私にとって、それは今じゃないんだよね……」

 融合加工院、それは融合加工を目指す者なら一度は行ってみたいところである。

 タカトなんて融合加工院に行かせてやると言ったら、おそらく、ビン子を売ってでもその話に乗ることだろうwwww

 そんな融合加工院にクロトは行きたくないというのだ!

 だから、当然、タカトの反応は、

「なんでだよ! 融合加工院だぞ!」である。

 しかし、クロトは頭をボリボリと搔きながら、

「うーん。なんというか、融合加工院ってお上品なんだよ」

「お上品?」意味の分からないタカトは再度尋ねた。

「分かりやすく言えば、あそこで作られる融合加工には面白みがないんだよ。例えば、タカト君、君の作った道具なんか凄く面白い! めちゃめちゃウェットにとんだ発想だよ!」

「え! マジ!」テンションアゲアゲのタカト君www

「だけど、おそらく、今の君のままでは融合加工としては評価されることは絶対にないだろう」

「え…… マジ……」テンションダダ下がりのタカト君www

「在野にあふれた君のような発想を拾い上げるだけの度量が融合加工院にはないんだ」

「……」

「でも、私は、タカト君の作った道具のようにアグレッシブな発想を見てみたい。そして、それを自分の中にドンドンと取り込んでいきたいんだ」

「……」褒められているのかけなされているのか分からないタカトの表情はグニグニと動いていたwww

「だから、今は、そんな道具に触れていたいんだ。で、国中の壊れた道具、特に権蔵さんのような優れた融合加工の道具たちが集まってくるこのハイグショップは私にとっては一番と言う訳」

「「「なるほど……」」」

 と、タカトと立花とタケシは三人並んで腕を組みながら大きくうなずいていた。

 って、立花とタケシはクロトの気持ちを今、知ったのかよwww

 まぁいいじゃんwww

 そんなことをまったく気にしていないクロトは、

「しかも! オヤッサンは廃具ハイグの目利きについては超一流だから、私にとっては師匠みたいなもの。君にとっての権蔵さんみたいなものだよwww」

 と、三人に向かって軽くウィンク。

 なぜか妙に照れた様子のどん兵衛は話をそらそうと、ふと何かを思い出したようであった。

「権蔵といえば、たしか、今日、第七駐屯地から届いたゴミにの中に妙なものが入っていたなwwww」

「「「妙なもの?」」」

 今度はクロトを含めてタカトとタケシが腕を組んで首を傾げた。


 そのゴミはタカト達が内地に帰る直前、第七駐屯地から帰還する商隊が駐屯地内の壊れた道具やゴミを内地へと運んだものであった。

 で、その中で金目になりそうなものはとりあえずリサイクル

 商人とは1銅貨たりとも無駄にしない生き物なのである。


 立花廃具ハイグ店の前。

 日が高くのぼるあぜ道にはズラリと並んだ荷台の影が並んでいた。

 そんな荷台の上から立花どん兵衛は再利用できそうな道具をあれやこれやと見繕っていたのだ。

 だが、そんな時、妙な道具を目にしたのである。

 それには確かに権蔵の癖がはっきりと出ていた。

 ただ……絶対に権蔵が作ったものかと聞かれれば、そうだと言い切る自信がどん兵衛には持てなかった。

 というのも、その道具の形が少々変なののである。

 権蔵といえば堅物の職人である。

 作るものといえば盾や剣、鎧といった武具一般。

 まぁ、一般的な人が普通にイメージできる形である。

 それが……目の前のあるものは、まるで巨大なチ〇コなのであるwwww

 たしかしに、これもイメージできるといえばイメージできるww間違いないww

 だが、もしかしたらチ〇コに見えるだけで巨大な棍棒なのかもしれない。

 その証左として、ちゃんとチンコの付け根には握り手が付けられていたのだ。

 しかし、もう一度、よく見直してみても、やはりチ〇コなのだ……

 それも、細部に至るまで精巧に作りこまれたたチ〇コ。

 これを棍棒とチ〇コのどちらに見えると聞かれれば、おそらく10,000人中9,999人がチ〇コと答えることだろう。

 それぐらいチ〇コなのだ。

 しかも、そのチ〇コ……なぜか!金属で作られている。

 その重量といえば……その一本で、それを積んでいる荷馬車の車輪が地面に食い込んでいるほど。

 開血解放する前で、この重量である……

 ――こいつが開血解放したらどれだけの重量になるというんじゃ……こんな道具、魔装騎兵だって使えんぞ……

 おそらく、その瞬間、荷馬車は砕け散り、チ〇コの先端はオ〇ホに突っ込むかの如く地表に半分ほど埋まってしまうことだろう。

 イヤぁ~ん♡

 だが、この道具の開血解放の効果を見抜いた立花どん兵衛をしても、その巨大なチ〇コ型の棍棒の使い道が分からなかったのである。

 ということで、

「こんなもの!イラぁ~ん!」

 立花どん兵衛は巨大なチ〇コ型の棍棒の買取を拒否した。

 さてさて、これには商人たちも困った。

 巨大なチ〇コ型をしていても、金属の塊! 高い値で売れると思っていたのだが、まさかの買取拒否!

「なんでやねん!」

 納得のいかない商人たちは食って掛かった。

「だいたい!これを運んでくるのがどれだけ大変だったか分かってんのか!」

 それをギラっと怖い目でにらみつけるどん兵衛!

「お前ら! 分かってんのか! この先端につけられた穴! おそらく、開血解放した瞬間! 魚臭い液体がここから噴き出すかもしれないんだぞ!」

「なんだって!」

 これには商人たちも驚いた。

「コレだけの巨棍だ! 男だって妊娠するかもしれないんだぞ! やってみるか?」

「いや! 結構だ! というか……そんなに危ないものだったのか……」

「分かったら、それをさっさと人目の付かないところに捨ててこい!」

「分かったよ……人目の付かないところといえば……スラム街のゴミ捨て場ぐらいしか捨てるところはなさそうだな……はぁ……タダ働きかよ……マジで、これ作ったやつカスだな……」

 と、渋々、荷馬車を引きながらハイグショップを後にする商人たちを見送りながら、どん兵衛は思った。

 ――男が妊娠するわけないだろーが! バーーーーカ!

 だが、そうはいっても、どん兵衛もまた理解ができていなかった。

 ――というか、あの道具は……一体、何に使うんだ?


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