第631話 立花ハイクショップ(2)

 ダンボールの山の中に激しく突っ込んだタケシを見るなりルリ子は、

「よっしゃぁぁ! クソ野郎に直撃や! 今度こそ!死にしゃらせ!」と、絶叫とともにガッツポーズをとっていた。


 アンタ…… よっしゃぁぁぁって……

 その様子を外から見ていたタカトの表情は恐怖でひきつっていた。

 いや……逆に緩みきっていた。

 アンダー! よっしゃぁぁぁあぁ!

 というのも、回し蹴りをするために大きく開かれたルリ子の大腿部、その奥にあるショートパンツの隙間から白いレースがチラリと見えたような気がした。

 いや、はっきりと見えた。間違いない!

 あんなガングロギャルなのに、下着は純白のレースときたもんだ。

 このギャップにタカトは萌え~っと、顔が緩みきっていたのである。


 バラバラになったタイムレコーダーの破片をクロトは拾いながら、

鰐川わにがわさん、その石鹸、1個だけ置いて行ってもらえませんか?」

「なんでだよ! ルリがせっかくクロトのために白くなろうと頑張っているのがそんなに嫌か! クソっ!」

「さすがに漂白剤は……ヤバいんじゃwwwwというか……入口にいる二人にシャワーを貸そうと思っててね」

「入口のクソどもはクロトの知り合いか! それならそれと早く言えよ! クソ!」

 と、言うや否や、身をひるがえしたルリ子は手の持っている漂白剤とクエン酸洗剤、そして石鹸を外にいるタカトへとグイっと押し付けたのである。

「おい! クソども! これを貸してやるから、さっさとシャワーを浴びて、そのクソ臭い体を洗って来い! さっきから店の中がクソ臭くてたまんねぇんだよ! クソ! クソ! クソ!」

「あ……ありがとう……」

 びっくりしているタカトとビン子は石鹸だけを受け取ると、クロトに誘われながら店の奥のシャワー室へと入っていったのだが、その後を慌ててルリ子が追いかけた。

 そして、シャワー室のドアをいきなり開けると中にいた素っ裸のタカトめがけてクエン酸洗剤を大量にぶちまけたのである。

「糞の匂いにはこっちだろうが! このくそ野郎!」

 ちなみに、ビン子はタカトが出るまでシャワー室の外で待っていたたため、運よく洗剤まみれになることはなかった。

 ギリギリセーフwww

 だが、ビン子はこの後、驚くことになる……

「ビン子! ビン子! ちょっと俺を匂ってみてくれよwwww」

 というのも、シャワーから出てきたタカトが素っ裸のままビン子に迫ってくる。

「ちょっとやめてよ! ウンコの匂いはなかなか取れないんだから!」

 だが、辞めてと言われてタカトが辞めるわけはない。

 嫌よ嫌よスキの内!

 ということで、ビン子の鼻にハイ!タッチ!

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 くせぇ!

 ……と思ったのだが……

 すっかりとウ〇コの匂いが取れていたのである。

 ――あれ? 石鹸だけでこんなにきれいに落ちるものかしら?

 不思議そうにしているビン子にルリ子は照れるように説明するのだ。

「糞尿はアルカリ性だからクエン酸を使うと、その匂いがよく落ちるんだよ! 逆に生ごみの匂いは酸性だから重曹が効果的なんだ! フン!」

 このガングロ少女……意外と家庭的かもしれない……

 ということで、ビン子もまたクエン酸洗剤と石鹸をもってシャワー室の中に入っていた。

 ちなみにここでちょっとした豆知識!

 髪などを石鹸で洗うと弱アルカリになって髪のキューティクルが開きキシキシするんですが、ここでクエン酸でサッとすすぐと本来の弱酸性に戻って手触りがよくなるんです。


 しばらくして、シャワーから出てきたビン子がサラサラと流れる黒髪をタオルで乾かしながら嬉しそうな表情を浮かべていた。

「ああ、サッパリした。やっと、あの嫌な匂いから解放されたわ」

 あれほど強烈だったウ〇コの香りはすっかりと消え、今は爽やかな石鹸の香りが漂っていた。

 そんな石鹸の香りが一瞬、ふわっと流れたのだ。


 そう、ビン子の横を一陣の風が吹き抜けたのである。

「シャワー室!空いたのなら! 今度は!この俺が使わせてもらおう! トウっ!」

 と、ビン子の横を本郷田ほんごうだタケシが勢いよく駆け抜けながらジャージを脱いでいく。

 そして、スッポンポンになると同時にシャワー室に飛び込んだのであった。


 アンタ…… トウって……

 その様子を傍から見ていたビン子の表情は羞恥でひきつっていた。

 いや……さらに恐怖で引きつっていた。

 アンタ…… トウトウ……頭……狂った……?

 というのも、スッポンポンで飛び込んでいくタケシの大腿部、その奥にあるパンチパーマの隙間から白いホースがチラリと見えたような気がした。

 いや、はっきりと見えた。間違いない!

 あんなガングロオヤジなのに、下は白のホースときたもんだ。

 というか、それより……ハツラツとした満面の笑顔で飛び込んでいくタケシの顔面。だがその顔は今や血まみれで真っ赤っ赤。それどころか、裂けたおでこの傷からは、白い頭蓋の骨が見えていたのである。

 このギャップにビン子はヒェ~っと、顔が引きつっていたのである。


 だが、そんなことはまだ序の口だった……

 そう、タケシが飛び込んだシャワー室のドアをルリ子が勢いよく開けると、

「糞野郎にはこっちだろうが! このくそ野郎!」 

 怒声とともに、漂白剤を投げ込んだのだ!

(注意! 良い子のみんなは分かっていると思うけど、漂白剤を人に向けて投げつけたら絶対にダメだよ! もし、皮膚についた場合には大量の水で十分に洗い流すんだ! それでも炎症が残る場合には、すぐさま皮膚科へGO!)

 なので……当然シャワー室からは、

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 と、タケシの悲鳴!

「たすけてくれぇ」

 必死でもがくタケシはシャワー室から飛び出そうとするが、そんなドアをルリ子が体全体を使って押さえつけて動かさない。

「お父さんの仇! 本郷田ほんごうだタケシ! 今度こそ!くたばりやがれ! このクソ野郎!」


 その突然の出来事に、当然ビン子もタカトもびっくり仰天。

 ビン子など、手に持っているタオルすら落としてしまうほど。

 そんな二人にクロトが笑いながら声をかけた。

「大丈夫だよwwwいつものことだからwwww」

「いつものことって、漂白剤をぶちまけるのは尋常じゃないだろう」

 タカトは、シャワー室とクロトの顔を交互に見ながらまくしたてた。

「タケシさんは、鰐川わにがわさんの気が済むように、わざとやらせてるんだ」

「って、おでこ裂けてたわよ……本当に大丈夫なの?」

「ああwwwだって、タケシさん、第三世代だから、少々のことでは死なないんだってwww」

「「なんだぁ~」」

 って、なんだじゃないよ!


 そう、それはこの時代から数年前の事だった……

 当時、本郷田ほんごうだタケシはツョッカーの手術台の上に拘束されていたのであった。

 というのも、エアバイク、いわゆる……バイクに乗ったふりをしながら「ブンブンブン!」と奇声を上げ一般街の町中をグルグルと走り回っていた時、いきなりツョッカーの手の者たちによって拉致されてしまったのである。


「こ……ここはどこだ!」

 手術台の上で気づいたタケシ。

 なぜかその体は裸であった。

「俺を自由にしろ!」

 懸命に足掻くも四肢を鎖で拘束され動くことが能わない。

 そんな彼の顔に突然、強烈な白光が浴びせられた。

「うっ!」……何も見えない!

 その光から逃れるかのようにタケシは顔をそむけた。

 

 そんな光の奥から低い声が流れてきたではないか。

「ウァハハハアハ 本郷田ほんごうだタケシ! ようこそ我がツョッカー病院に来てくれた!」

「なに! 俺はツョッカー病院などに入った覚えなどない!」

「おそいのだ本郷田ほんごうだタケシ! 君が意識を失って既に一週間。その間にツョッカー病院の医療グループは君の肉体に改造手術を施したwww今や君は改造人間なのだwww」

「改造人間⁉ そんなもの信じるものか!」

「信じざるを得ない様に見せてやるがよいwww」

 タケシの目の前に置かれた風車が甲高い音とともに勢い良く回った!

 キュィィィィィン!

 そして、低い声は高らかに笑いつづけるのである。

「お前に今から500万のドンペリボトル相当の費用を請求す! 並みの人間なら一瞬にして丸裸のオケラの体になることだろうwwww」

 言い終わるや否や、回っていた風車がピタリと止まった。

 そして、その羽に書かれた文字がはっきりと読めたのである。

『請求書! 盲腸の手術代として大金貨5枚(500万円)を今すぐ持ってこい!』と。

 そう、町中を走っていたタケシは、急性盲腸炎でぶっ倒れていたのである。

 そして、救急搬送されたツョッカー病院で緊急手術。

 だが、医療保険に加入していないタケシは、その手術代を全額自己負担しなければいけなかったのであるwww

「なんだとぉぉぉぉ!」

 だが、ハイクショップでアルバイトをしているタケシにとって大金貨5枚(500万円)などという大金はとても用意できるわけはなかった。

 バイクを買うことすらできないタケシ。

 だからこそ、エアバイクに乗って町中を走っていたのである。

 それどころか、ボロボロのジャージ姿は、どこからどう見ても浮浪者そのものであった。

 だから、病院に搬送された時点で金のないことは予想できていた。

 だが、医療従事者の悲しい性かな……

 目の前に苦しむ者がいれば助けずにいられない……

 ということは、ツョッカー病院の中にもいいやつがいるのかもしれない。


 などと、説明している間にも低い声は続いていた。

「ワハハハ! 本郷田ほんごうだタケシ!安心しろ! 改造されたお前は『プアーエネルギー』を蓄えた」

「銅貨ひとつ!君の体には残らない! 今、感じているその苦痛は脳改造が行われていないためだ! 脳改造が済み指令のままに動く様になれば君は完璧になる。ツョッカーの改造人間の一員になれるのだwww」

「死んでも貴様の思い通りになるものか!」

「誰しもが初めはそう思う。だが!貧乏は苦しいぞwww そのため、すぐにツョッカーの一員である事を感謝する様になるのだ。さあ!本郷田ほんごうだタケシの脳改造を開始するのだ!」

 だが、その瞬間! バンっ!と手術室の明かりがいきなり落ちて真っ暗になった。

 暗い部屋の中で研究員たちの悲鳴に近い叫び声が響いていた。

「デスラー副院長! どうやら、発電室がやられたようですらぁ~」

「なんだとぉぉぉぉ! それでは本郷田ほんごうだタケシの脳改造ができないではないか! 今すぐ修理に向え!」

「「「ハイル! デスラー!」」」

 いくつかの足音がドアから慌ただしく飛び出していくと、手術室の中はシーンと静まり返っていた。

 そんな中、うっすらと床を照らす非常灯のなか、入れ替わるように手術室に入ってくる影が一つあった。

 しかも、その影は手術台の本郷田ほんごうだタケシに近づくと、その手足についた鎖を外し始めたではないか。

 タケシはその影の男の顔を見ると驚いた。

「あなたは鰐川わにがわ先生! 先生は確か行方不明になっていたのでは⁉」

 そう、この男、名前を鰐川わにがわヒロシ。医者である。そして、言うまでもなく鰐川わにがわルリ子の父親である。

 だが、父親であるにもかかわらず……ヒロシは、大のバクチ好きwww

 だからこそ、立花ハイクショップのオーナーである立花どん兵衛と妙に馬が合ったのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る