第632話 本郷田タケシ改造計画(1)

 そんな二人はよくつるんで地下闘技場に通っていた。

 そして、当然のように賭けに負けたヒロシとどん兵衛は、夜な夜な酒を飲んでは千鳥足で店に帰ってくるのが常であった。

「ヒロシです……今日一番の大勝負……娘の給食費を使い込んでしましました。明日、空になった封筒を持っていくルリ子のことを思うと不憫でたまりません……ヒロシです……ヒロシです……ヒロシです」

 そんな鰐川わにがわヒロシの肩を立花どん兵衛が笑いながらバンバンと叩くのだ。

「わははははwww ヒロッチ! 大丈夫! 大丈夫! ルリ子ちゃんだったらまたクソ!クソ!言いながら盗難騒ぎをでっちあげて逃げ切るってwww」

 だが、ヒロシは大きくため息をつくと黒縁の眼鏡を押し上げて、目に溜まった涙をゴシゴシと手でこするのである。

「ヒロシです……ルリ子が盗難騒ぎをでっちあげた回数……すでに40回……もう……クラスの生徒の数よりも多くなってしまいました……ヒロシです……ヒロシです……ヒロシです……」

 というか……お前……そんな回数を盗んでいたのかwww

 さすがにこれは無いわwww親、失格だろうwww

 だが、類は友を呼ぶということわざの通り、もっとだらしない男がヒロシの横を歩いているのだ。

「わははははwww ヒロッチ! 大丈夫! 泥棒はな同じ奴が何度も何度も繰り返すんだwww俺が保証する!」

 って、お前ら! 盗んだ金でバクチしてんのかよ!


 だが、その日を境にして、ヒロシは立花ハイクショップに姿を見せなくなったのである。


 よく晴れた青い空。

 ハイクショップの入り口に出された長椅子に立花どん兵衛が腰を掛けて味の薄い緑茶をすすっていた。

 ズズズズ……

「オイ! タケシ! 出がらしを使うなって、いつも言っているだろうが!」

 店の奥に積まれたダンボールの中からアルバイトのタケシが顔を出すと大声で返した。 

「仕方ないじゃないですか! おやっさんがいつも地下闘技場で負けてくるから金がないんですよ!」

「なに! このうっすい茶は!俺のせいだとでもいうのか!」

「そうですよ!」


 そんな時、店前のあぜ道を息を切らしたルリ子が駆けてきて、その勢いのまま店の入り口に飛び込んできたのである。

 よほど急いでいたのであろうか、膝に手をつき肩で息をしている。

「ハァ! ハァ! ハァ! おい! クソ野郎ども! ルリのクソ親父を知らないか! ハァ! ハァ! ハァ!  クソ!」

 その尋常ならざる剣幕に、入り口で茶を飲んでいる立花どん兵衛などは他人のふりを決め込んだ。

「ああ~空は広いな~大きいな~♪ チチがチンチラ~♪ちらりズム~♪」

 そう、横目で見る立花どん兵衛の視界には、うつむくルリ子のテイシャツの隙間から垂れるチチがチラリと見えていたのである。

 エロい!

 コレはエロい!

 だが……どん兵衛の年はすでに齢70を超えている……

 その老体は既に若かりし栄光を失って久しいのだ……

 伸びしろなんて存在しない……

「久しぶりに息子と戯れたいと思ったら~♪ 息子も俺も年でした~♪ チクショウォォォォ!」

 そう……こんなおいしい状況を見ても……もう腰の曲がった息子は、二度と起き上がることがなかったのである。 

 まさに老老介護www

 ちなみに、立花どん兵衛は今まで一度も結婚をしたことがない独身男であるため、老後を見てくれる息子など存在しない。


 一方、ダンボールの山の中で悪戦苦闘をしていたタケシは、モッコリ!もといムックリと起き上がると驚いた様子で声をかけた。

「どうしたんだ! ルリ子さん!」

 顔を上げたルリ子の目には涙がいっぱい。

 泣きだしそうになるのを必死にこらえながら大声でまくし立てはじめた。

「ルリのクソ親父! ルリの校納金を使い込んでいやがったんだ! そのせいで……ルリは……ルリは……今まで……友達のことを……泥棒だと思って責め続けてたんだ……それが……それが……くそ……」


 それを聞くやいなや立花どん兵衛は、口に含んでいた茶を吹き出してしまった。

 ぶはっ!

 ――えっ? もしかして……この娘、マジで、今まで、校納金がなくなったのは泥棒に盗まれていたと思っていた訳?


「それが……それが……全て、あのクソ親父が盗んでいやがたんだ! クソ!」

 ――おいおいwww ヒロッチの奴、なんで見つかったんだよwww


「ルリの財布をいじっているから、どういうことだよ!って、クソ親父を問い詰めたら、あのクソ親父! 校納金の袋を投げだして急いで窓から逃げ出しやがった! 今まで、校納金を盗んでやがったのはクソオヤジだったんだ! あのクソ!」

 ――ヒロッチwww 娘の財布からも金を盗もうとしていたのかwww 完全に親失格だなwww


「クソ親父! 見つけ出してみんなの前で土下座させてやる! 盗んだのは私でしたって謝らせるんだ! くそ野郎が!」

 ――この娘www 今まで友達にぬれぎぬ着せたこと後悔してるんだwww 意外といい娘かもwww


「おい! ルリのクソ親父がここに来たらルリに教えろよ! 絶対だぞ! いいな! クソ!」

「OK! 了解した!」

 と、タケシが答えるよりも早く店から飛び出していくルリ子。

 その後ろ姿を見ながら立花どん兵衛は思った。

 ――ヒロッチwww これでは当分家に帰れないなwww

 

 そう、家に帰ることができなくなっていた鰐川わにがわヒロシは職場であるツョッカー病院で寝泊まりしていたのである。

 だが、その事実を知っていたのは立花どん兵衛、ただ一人。

 地下闘技場に通うことがないタケシやルリ子は知る由もなかったのである。

 

「すまない……タケシ君……」

 手術台につながれた鎖を外しながらヒロシは涙を流しながら謝り続けていた。

「町中で倒れた君をどうしても、私は……見捨てることができなかった……」

「もしかして! 俺の命を! 助けてくれたのは! 先生なのですか!」

「ああ……だが……そのせいで……そのせいで……タケシ君……君の体は……」

「俺の身になにが?」

「君の体は盲腸の手術をすると同時に、第三世代の融合加工がデスラー副院長によって施されてしまったのだ……」

「なんだって! どうしてそんなことに!」

「いや……だって……ツョッカー病院で寝泊まりしていることがバレてしまってね……そしたら、宿泊代として大金貨5枚をデスラー副院長から請求されてしまったんだよ……」

「もしかして……鰐川わにがわ先生……」

「だって……融合手術の実験体を持ってきたら借金はチャラにしてくれると言われたから……つい……」

「それで……俺を売ったんですか?」

「だから、今、謝っているではないか!」

「えっ⁉ ここで逆切れですか!」

「しかも、こうして君を逃がそうとしているのが分からないのか!」

「ルリ子さんがキレるだけのことはある!」

「えっ⁉ ルリ子は元気なのか?」

「当たり前だろうが! 貴様のせいでどれだけルリ子さんが苦労したと思っているのだ!」

「そうか……そうか……ルリ子はちゃんと大きくなってくれたのだな……」

 ヒロシは黒縁の眼鏡を押し上げると涙がたまった眼をゴシゴシとこすった。

 ガチャリ……

 スッポンポンのタケシは鎖が外れると同時に手術台から転がり下りると、すぐさま立ち上がり、目の前のヒロシを鬼のような形相で睨みつけていた。

「貴様ぁぁぁぁ! ちゃんと人の話を聞いているのかぁぁぁぁ!」

 ついにタケシの怒髪が天をつく!

 その瞬間! ぷうっ! あっ!

 力んだせいか、タケシのお尻から大きな風がプウっと吹き出した。

 それとともに、尾てい骨に融合加工されたタケコプターが勢いよく回転し始めたではないか!

 そう、これこそ! 『ぷうっ! あっ! エネルギー』!

 えっ? 『あ』はどこに行ったんだって?

 もう、そんなこと言わせないでくださいwww

 そして、今! タケコプターに『ぷうっ! あっ! エネルギー』を蓄えたタケシは大きく手を回しながら、お決まりの文句を唱えるのである!

 それでは! 皆さん! ご一緒に!

「へ~ん~し~ん! トウっ!」

 と、勢いよく手術台の上に飛び乗るタケシ!

 なんと! そこには!


 そこには……


 ……


 黒いナマコ怪人が……

 手術台の上に飛び乗ったタケシの右足に踏まれてペッチャンコになっていた。

 だが……このグニャリとした感覚……覚えがある……

 よく道の傍に落ちていた犬のウ〇コ……アイツを踏んだ時の感覚にそっくりなのだ。

 瞬時にタケシは裸足の足裏をつかみ上げると、違和感の正体を確かめるかのように鼻を近づけた。

 鼻孔に飛び込むマンダムな香りwww

 間違いなく奴である!

「なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」

 なんじゃこりゃぁじゃなくて、それはウ〇コだってwwww

 そう! それは先ほど、デスラー副院長がタケシに請求書を見せる際、『ぷうっ! あっ! エネルギー』を蓄積することによって生まれ出た副産物であった。

 そして、タケシは仰向けで手術台に固定されていたために、お尻の下に具現化したナマコはそのまま手術台に残されていたのであるwww


 えっ?

 そんなことはどうでもいい?

 タケシはどうなったんだって?

 もう……手術台に飛び乗ったタケシの足が裸足なんだから、もう、分かるよねw


 その瞬間、手術室の明かりがパッとついた。

 まぶしい光を遮るように手で目を覆うタケシの姿はスッポンポン!

 そう、スッポンポンのままだったのだwww

 どこをどう見ても、変身などした形跡は全く見られない。

 これにはタケシ自身も驚いた。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁあ!」

 ここまで無駄に話を引っ張ってきたのだから、きっと!必ず!仮面ライダーのように格好よく変身すると思っていた。

 だが……しかし……どこをどう見ても、変身した形跡など見られない。

 いや! 違う!

 よくよく見ると……いや……見ることはできないので、実際は手で触った感触だけなのだが……ケツのところだけが硬い甲羅に覆われていたのだ。


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