第630話 立花ハイクショップ(1)

「じゃーん! コレは女医にょい棒!」

女医にょい棒?」

「そう! かつて俺が女医のスカートをめくるために作った道具」

「女医のスカートめくりってwww君って、面白いねwwww」

「そうか? この女医にょい棒をエロ本カク―セル巻きの中に組み込んでおくの。すると、伸びた女医にょい棒が異次元空間の中で壁を作って区切られた空間を作り出すってわけ、しかも、この女医にょい棒は無限に伸びるから、格納するものが増えたとしても、それに応じて広がっていくしね」

「なにそれ……その発想はなかったというか、マジですごいね……というか……その設定はアリなのwwww……でも、それでも、その空間はある程度の容量を持っているわけだよね……ならば、その空間内から、どうやって対象物を取り出すというんだい?」

「それも、この女医にょい棒が役に立つのさ! 女医にょい棒は本来、スカートをめくるための道具、要はモノをつかむことが本来の用途なわけよ! それがたとえ微細な粒子であってもつかむことができるの。その女医にょい棒で目的物をつかみ取って再構築した後、外の世界にポイって放り出すの」

「粒子の再構築って……そんな力任せな作業wwwwでも、よくよく考えるとエイの胃袋の中の異次元空間内では時間が止まっているから、その作業を何億回と繰り返したとしても外の世界では一瞬の出来事なのか……」

「ザッツ!ライト! でも……一回の開血解放で取り出せるのが一個ってところが問題点なんだよね」

「それだったら、その女医にょい棒の数を増やせばいいんじゃない?」

「クロト……お前……頭いいなwwww」

 などと話す二人がビン子のことなど忘れているのは当然であった。

 だが、そんな二人を見るビン子は嬉しそう。

 というのも、道具の話に熱中するタカトが本当に心から笑っているのである。

 アイナが死んで以来、心から笑うことを忘れていたタカトがである。


 だが、どうにもおケツが臭い……

 そう、ビン子のお尻についたカレー砲の跡がどうにも臭いのだ……

 そんなビン子はしびれを切らしたかのようにタカトに声をかけた。

「ねぇ……タカト、早く川に洗いに行こうよ……」

 その言葉を聞いた途端、クロトもようやく立ち込める異様な匂いに気づいたようで、苦笑いしながら鼻を覆うのである。

「いったい何の匂いだいwwwコレwww」

「ウ〇コだよ! ウ〇コ!」

「ちょっと!タカト! ストレートすぎ!」

 とっさに止めるビン子。

 そう、今、知り合ったばかりとは言えクロトは他人。

 そんな他人にいきなりウ〇コってwww

 だが、クロトはそんなことに気にする様子はなく、

「だったら、ウチに来て洗っていく?」

 とタカトとビン子をすぐさま誘ったのである。

 

 タカトはクロトの後をついて歩きながら考える。

 クロト……

 クロト……

 はて? どこかで聞いたことがあるような名前だな……

 ――あっ! 思い出した!

 そういえば、10年後の世界、いわゆるタカト達がいた世界の第二の門の騎士がクロト様。そして、その御方は、なんと融合加工院の主任技術者でもあらせられるのだ! 

 それは融合加工を極めんとするタカトにとっては憧れの存在!

 もしかしたら、目の前を歩く青年が、あの憧れのクロト様なのであろうか?

 そう考えるとタカトの胸は張り裂けんばかりにドキン!ドキン!と激しく音を立て始めていた。


 だが……

 何かおかしい……


 というのも、クロトが歩いていく方向がおかしいのである。

 第七駐屯地に向かう時、エメラルダからこの時代のクロトは神民学校の生徒会長を務めていると聞いた。

 ということは、向かうべき方向は城壁の向こう側、すなわち神民街のはずなのだ。

 だが、目の目のクロトは一向に城壁の門をくぐろうとしない。

 それどころか、神民街を取り囲んでいる城壁からどんどんと離れていくのである。

 街の中心から外れれば外れるほどガラは悪くなる。

 今やむき出しの土の上には、酔いつぶれた男がゲロを吐きながらゴミの山に顔を突っ込み眠っている。

 今にも崩れそうなボロボロの居酒屋からは男と女の喧嘩する声とともに大きな笑い声。

 そんな道のいたるところにはゲロと生ごみと小便の香りが立ち込めていた。

「お兄さん……アタイと遊ばないかい?」

 さっきから煙草をくわえたケバい女たちが近づいてきては発情した雌犬のような香りを残して去っていく。

 どう見ても……神民が住んでいるような街には見えない……

 というか、ここ……貧民街じゃん!


 それも、スラムの一歩手前の超ド貧民街!

 こんなところに神民なんて来るのか?

 来るわけないよな……普通……

 だが、目の前のクロトはそんな状況に慣れているようで、うっとおしい女たちの誘いを手で払いながら何事もなかったかのように歩いていくのだ。

 ということは、目の前のクロトは、神民のクロト様とは別物なのだろうか?

 そんなタカトの悩みを知ってか知らずか、クロトは一つのボロイ店の正面に大きく開け広げられた入り口の敷居をまたいだ。

「こんばんは! 立花のオヤッサンはいる?」


 タカトが見上げる先には傾く錆びた看板……

 も!もしかして!

 これは!

 初代仮面ライダーにおいて本郷猛や滝和也とともにライダー達が愛用するサイクロンを開発したというあの伝説の立花藤兵衛の店なのだろうか?

 もう、字すら消えかかってハッキリと読むことができないが、おそらくそれは……

 『立花ハイクショップ』


 タカトはそっと入口のそばから中をのぞいた。

 広々とした土間には無造作に融合加工の工具が散らばっている。

 しかも、壁や机などいたるところが黒ずんだオイルで汚れているのだ。

 ――あれ……なんか見たことがあるような……

 タカトが何やら懐かしい気持ちに浸っていると、さらにその後ろから覗きこんだビン子が一言。

「汚いわね……まるで、タカトの部屋じゃない!」

 そう、タカトが懐かしいと思ったのは、自分の部屋に雰囲気が似ていたからなのだろう。

 ということは、ココで融合加工の道具作りをしているのは間違いないようだ。


「おかえり! クロちゃん!」

 部屋の奥にゴミのように積みあがった段ボールの山の影からジャージ姿の男が一人、ヒョコッリと顔を出すとクロトに笑いかけてきた。

 その顔は日に焼けて真っ黒、しかも、さらにススや油で黒ずんでいるものだから、松崎しげるよりも黒々しかった。

「ねえ! ちょっと!見てみてよ! 俺の作った! サイクロン!」

 ダンボールの山からダンボールで作ったゴミのような塊を担ぎ上げてに屈託なく笑う顔は、まるで少年のようなオッサン。

 そのにこやかにはにかむ笑顔から見える白い歯はまるで太陽のようにひかり輝いていた。

 キラン! シャインビーム!

 ま! まぶしいwww

「タケシさんwwwそのサイクロン、融合加工じゃなくて、ダンボールをただガムテープでつないだだけだからwww」

 そう、先ほどから社員シャインビームをまき散らしているこの男、ハイクショップの社員である本郷田ほんごうだタケシという男であった。

 だが、そんな飛び散る光をクロトはそこらへんに落ちていた鏡で適当に反射させながらあたりをキョロキョロと見まわしていた。

「ところで、タケシさん、さっきから立花のオヤッサンの姿が見えないんだけど……」

「オヤッサンなら! トウっ!」

 タケシはダンボールの山からジャンプして飛び出すとクルリ一回転!

 そして、着地とともに無駄にオーバーアクションでポーズを決めると、サッと店の外のとある方向を指さしたのであった。

「当然! あそこだ!」

 ああwwwもう、見ているだけで暑苦しいwww

 その様子を外から見ていたタカトなどは、ついついその熱気に押し切られ、無意識のうちにその指さす方向へと振り返ってしまったほどだった。

 やはり!恐るべし! 仮面ダレダー48の必殺技うちの一つ『あっ!ちむいてホイ』!

 だが、その指先にあるのは汚い街並み。

 いったい何があるのやらタカトには、さっぱり分からない。

 しかし、クロトはその言葉で理解したようで、半ば呆れたような笑みを浮かべているではないか。

「また、立花のオヤッサン。地下闘技場ですかwww」

「そうだ! オヤッサン! 今日は必ず勝ってくるって言ってたぞ!」

 なに? 勝ってくるということは、クロトが言っているオヤッサンとは地下闘技場に参加するファイターか何かなのだろうか?

 タカトとビン子は二人そろって、入り口の影で頭を悩ませていた。


「だいたい、オヤッサン、勝ったためしないでしょうwwww」

「そうなんだ! オヤッサン! 大穴狙いでチャンピオンのゴンカレエの対戦相手にばかりかけるからな! 今まで全敗だ! ワハハハハハ!」

 って、オヤッサンは博打うちの方かよwwww


 そんな時であった……

 一人の老人がブツブツと何やら呟きながら店の中にフラフラと入ってきたではないか。

「夜が更けて 債鬼さいきからフケて 余がヨガファイヤー」

 そう、この老人、この立花ハイクショップのオーナーである立花どん兵衛その人であった。

 そして、いきなり店の中心で気が狂ったかのように踊り始めたではないかw

「ファイヤァァァァぁ! ファイヤァァァァぁ! 火の車じゃぁぁあっぁ!」


 飽きれた様子のクロトが、仕方なさそうに声をかけた。

「オヤッサン……その様子だと、今日も負けたんですね……」

「ファイヤァァァァぁ! ファイヤァァァァぁ! ファイヤーフライ! ワシの人生! 蛍の光! ほ~た~るのぉ~ひ~か~ぁり~♪」

「で……いくら負けたんですか?」

 ニヤリwww

「クロト君! ワシは別に君に恵んでもらおうと思っているわけではないのだよ!」

「はいはい……」

「だが、君が今、ワシが詠んだこの俳句を買いたいというのであれば、金貨1枚でどうだろうか?」

「オヤッサン……それ、季語がないので川柳ですって……」

「馬鹿もーーーーん! 川柳も俳句も歌を詠む心は同じじゃ! これじゃから道具作りしかできん無粋もんはつまらんのよ!」

 クロトが仕方なそうに財布から金貨一枚とりだした。

 おそらく、それは先ほどもらった融合加工の道具コンテストの優勝賞金。

 そんな金貨一枚を惜しげもなく突き出したのだ。

 もしかして、クロトって金持ち?

 一方、どん兵衛は恥ずかし気もなく、クロトの手からその金貨をパッと取り上げると、今度は喜びの舞を舞い始めた。

「クロトから! 金貨一枚! ゲットだぜ! これで明日も 地下闘技場!」

「だから……オヤッサン……季語が無いですって」

「馬鹿もーーーーん! これは5・7・5・7・7じゃから短歌じゃ! だから季語は必要ないんだよ~ん!」


 店の中でそんなバカ騒ぎが繰り広げられている時であった、入り口の影に隠れていたタカトとビン子の後ろから一人の女の怒鳴る声が近づいてきた。

「なんだこのクセエ匂いは! 糞か! クソっ!」

 タケシ同様にこの女もかなり黒いwwwだが、黒髪のタケシと違って金髪ツインテールにはウサちゃんのリボン。

 一見するとガキっぽいのだが、その胸はかなり大きく成長しているようで、タカトとビン子などはその胸にくぎ付けになっていた。

 というのも、彼女が身に着けているのはダボダボのテイシャツと下着かと思うほど短いショートパンツだったのだ。

 これは!かなりエロイ! byタカト

 というか、このガキ! ダボダボのティシャツの上からでもはっきりとわかるほどのかなりの巨乳! 巨乳は敵だ! 敵なのよ! byビン子

「なんで店の前にあんなクセエ奴らがいやがんだよ! おかげでせっかくいい気分で出社してきてやったのに台無しじゃねえかよ! クソっ!」

 そして、匂いの元凶たるタカトとビン子を睨みつけながらズカズカとハイクショップの中へと入っていったのである。

 店の中にいたクロトと立花は、このクソクソいう女を見るなり明るい声をかけた。

「今ごろ出社ですかwww鰐川わにがわさんwwww」

「今日も遅刻だぞ! ルリ子!」

 そして、なぜかタケシはアゴを突き出し猪木顔で大きな声をかける。

「今日も元気ですかぁぁぁぁぁ! ルリ子さん! 元気が一番!」 

 そう、この女の名は鰐川わにがわルリ子、このハイクショップの事務員である。

「うるせえよ! 糞タケシっ!」

 ちなみに、今の時刻は夜の8時59分。

 そして、ハイクショップの営業時間は一応、夜の9時までとなっているwwww

 ギリギリセーフ!


 でもって9時1分、すでに帰り支度を整えたルリ子は仕事終了のタイムカードを押そうとしていた。

「で、あの入り口のクソどもは何なんだよ! クソ! クソ! クソ!」

 だが、漂白剤5箱とクエン酸洗剤5袋、そして、石鹸5個を両手に抱えているせいで、どうにもタイムカードがレコーダーの口にうまく入らないのだ。

 というか、出社した理由は、これらのモノを職場からガメて持って帰ることだったらしい。

「クソ! クソ! クソ!」

 ついに、ルリ子のイライラはついに頂点に達したようで、

「このクソ野郎が!」

 ガシャン!

 回し蹴りで思いっきりタイムレコーダーを蹴り飛ばした。

 そのタイムレコーダーはまっすぐに本郷田ほんごうだタケシに!

「元気があれば何でもできる! いくぞー! 1! 2! 3! だぁーーー!!」

 ばきっ!

 大きく手を突き上げているタケシの顔面にクリーンヒット!

 タケシの顔面は粉々に砕け散るタイムレコーダーとともにも砕け散っていたwww

 吹き飛ぶ黒い巨体!

 大きくさけるタケシの額!

 飛び散る鮮血が店の中を赤く染めていく!

 


 


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