第606話 真音子、父親に叱られるwww

「タカトお兄ちゃん、なんかさっきから嬉しそうだね」

 不意にタカトの背後で幼女の明るい声がした。

 そう、荷台にはチビ真音子も乗っていたのだ。


 というのも、アイナによって首を吊り上げられたあの夜、あの後、当然ながら、救い出してくれた父、勤造によってこっぴどく叱られたのだった。

「どうして、真音子ちゃんがここにいるのかなぁ~ もう、パパ! ビックリだよぉ~」

「父様……ごめんなさい……シクシク……」

「あ! 真音子ちゃん泣かないで! 真音子ちゃんが泣いちゃうとパパも悲しくなっちゃうよぉ~というか、なんで真音子ちゃんが、この第七駐屯地にいるのかなぁ~」

「だって……タカトお兄ちゃんが母様のお仕事でココに行くって聞いたから……一緒に行こうと思って……」

「タカトお兄ちゃんって、あの真音子ちゃんを救い出すときに助けてくれたお兄ちゃんのことかな?」

「真音子、これで2回もお兄ちゃんに命を助けられたの!」

「ということは、ココに来る前にも助けられたってことなのかなぁ~」 

「ウン! だから、真音子はお兄ちゃんのお嫁さんになったの!」

「なんやとぉぉぉぉおおをを! そんなの許すかぁ! ぼけぇぇぇぇ!」

 親バカの勤造の顔は真音子のその言葉を聞いて鬼のような形相になった。


 仕方ないのだ。勤造にとって真音子は年を取ってできたカワイイ愛娘。

 しかも、一人娘なのだ。

 もう、目に入れても痛くもないほどの可愛がりよう。

 そんな娘が、いきなり嫁に行くというのだ。

 しかも、その年、5歳ほど……あまりにも早い! 早すぎる!


 当然、そんな勤造は……というと、

 ――あのガキ! もう、うちに娘に手を付けよったんか!

 ロリコン野郎!

 殺す!

 殺す!

 絶対に殺す!

 生きて帰れると思うなよ! この害虫! ゴキブリ野郎が!


 この勤造の想いも、またまた仕方ないのである。

 騎士の門をくぐる前の出来事は座久夜さくやによって書状にしたためられコウケン達に持たせられていたのであるが、この時点の勤造は第三世代の村の調査から駐屯地に戻ったばかりで、その書状をまだ見ていなかったのだ。

 でもって、いきなり愛娘の結婚宣言!

 お父様……お世話になりました。

 真音子はお嫁に行きます……

 そりゃ……当然、こうなりますわwww


 そんな勤造に慌てたコウテンが座久夜さくやから預かった書状を手渡した。

 さっと宙に広げられた書状の上を鬼のよう勤造の目が行き来する。

 どうやら一通り読み終わったのか勤造は大きく息をついた。

 ふー

 先ほどまでとは違って力の抜けた顔で天井を仰ぎ見ていた。

 ――あの少年のおかげで、無事に真音子がココにおられる、いや、生きていられたということか……


「父様! 『受けた恩は10倍返し、受けた仇は30倍返し』が金蔵のお約束でしょ」

 真音子はニコニコとしながら、すでに怒りが消えさっていた勤造を見上げる。

 そんな真音子の頭を勤造のごつごつとした手がポンと置かれた。

「真音子ちゃん、そうだね。でもね……真音子ちゃんがお嫁に行くとパパ寂しいから、あのお兄ちゃんに養子に入ってもらうってのはどうだろう?」

「養子?」

「うん! あのお兄ちゃんに金蔵家の家族になってもらうんだよ」

「いいね! それ!」

「よし! じゃぁ! 善は急げということで」

「ダメだよ! 父様! まだ、真音子はトップアイドルになってないんだから! 真音子がトップアイドルにならないと、トップアイドルのタカトお兄ちゃんとは結婚できないの!」

「うん? あのお兄ちゃん、トップアイドルなのかな? うそだぁ~」

 あのタカトと言う少年はトップアイドルと言うよりも、どう見てもタダのさえないオタクにしか見えない。

「父様! 本当だよ! だって、アイナお姉ちゃんとのコンサートだって……アイナお姉ちゃん……ウェーん」

 と、言いかけた真音子は下を向きうなだれ、ついに泣き出してしまった。

「どうして、父様……アイナお姉ちゃんを殺しちゃったんだよ……どうして……どうして……」

 だが勤造は、そんな真音子の頭を黙って優しく撫でることしかできなかった。



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