第604話 定め
どうやら勤造の報告によると、一部の第三世代の中にアダムの従者の遺伝子を持つものが存在しているとのことだった。
それが偶然なのか、作為的なのかは分からない。
その遺伝子が、約5年ほど前……何らかの原因で目覚めたのである。
たしかこの時代で5年ほど前といえば、ちょうどタカトが生まれた頃か……
だが、アダム因子が仮に目覚めたとしてもDNAレベルで一因子しか覚醒していないのだ。
そんなアダム因子が体内に発生したとして一体何ができようか……普通はできない。できる訳がないのだ。
遺伝子に残っていた力……いや、記憶は恐ろしく小さいのである。
だが、アダム因子は自分の失われた記憶を取り戻そうとするかのように、まるでウィルスのように増殖し始めるのだ。
だが、その増殖するためのエネルギーは殺戮……
かつてアダムの従者であったときに、そうであったように、殺戮をすればするほど自分を取り戻していくのであった。
殺せば殺すほど、過去の自分を取り戻す。
殺せば殺すほど、以前の力が戻ってくる。
殺せば殺すほど、アダムに対する憎しみが募っていく。
アダム因子を持つ者たちは第三世代として前線に配備されていた。
そんな彼らは、当然に魔物を殺しまくった。
そのたびに記憶が戻ってくる。
そのたびに力が戻ってくる。
そして、アダムに対する憎しみも……
――なんで私たちをこんな姿にした……
――なぜ苦しめる……
――アイツさえいなければ……
――殺す……殺す……殺す……
アダムの従者でありながら、その憎しみは主であるアダムに向けられる。
一体、アダムと従者の関係はいかようなものだったのだろう。
しかし、今では誰も知る由もない
記憶が戻り始めたアダム因子はさらに力を取り戻そうとしはじめ、ついには魔物だけでなく人間までも手当たり次第に襲いだしたのである。
その時に気づく。
魔物よりも人を殺すほうが記憶が戻る!
そう、人は創造神エウアが作りしモノ。
アダムが作りし魔物とは対極に位置するものなのだ。
だが、当然に聖人世界で人を襲えば警戒されて、今後、人を狩ることは難しくなっていく。
だが、アダム因子の狡猾なところは第三世代に融合されたがゆえに人間の知能を有していたのである。
そんな魔人以上の知恵を使って、まるで自分たちが被害者のようにふるまうのである。
そして、疑惑の目を逸らしながら、また、多くの人間を狩れる場所へと移動していくのであった。
タカトが閉じこもる部屋の前で権蔵は考えを巡らせていた。
というのも、タカトがアイナを好きだったことは十分にわかった。
だが、アイナは勤造によって殺された。
そして、神払いの塩によって浄化されたのだ。
しばらくは、この世界に戻ってくることはないだろう。
しばらく……?
しばらくというのはどれぐらいだ?
そんな権蔵は、ドア越しにタカトに声をかけた。
「タカト、よく考えてみるんじゃ! お前は確か未来から来たといってただろうが!」
そう確か……タカトたちは未来から来たという。
そんなタカトは当然のようにアイナの事を知っていた。
死んだはずのアイナのことを。
おかしいではないか!
時間軸が違う?
パラレル世界?
確かにそんな考えもあるかもしれない。
「お前がいた未来の世界にはアイナがおったんじゃろうが!」
権蔵自身、この自分の考えに自信があるわけではなかった。
だが、タカトたちがこの時間に来たことも定めであるとするならば、これから先の未来もまた決まっているのだ。
ならば、タカトたちがいた未来の世界ではアイナが「いる」ということなのだ。
「ここに来たのがお前の定めであるならば、未来にアイナがいるのもまた定め! 違うのか? タカト」
そんな権蔵の声に答えるかのように、部屋の中でゴトリという物音がした。
そして、権蔵の目の前のドアが静かに空いていく。
「爺ちゃん……アイナちゃん……生きているよね……」
そこには両目を真っ赤に泣きはらしたタカトが立っていた。
「ああ……それが定めであれば、必ずな……」
権蔵はタカトを見ながら優しく頭を撫でた。
――そう、これが定めというのなら……タカトとビン子はワシの子らじゃ……
いつしか権蔵の目にも大粒の涙がこぼれ出していた。
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