第603話 勤造の帰還

 ということは、アイナと黒い三年生『キメれン組』にもアダム因子があったという事なのか。

 そう……あったのだ。


 というか、それはアイナたちに限らず、すべての第三世代の融合手術を受けていたものたちに存在していたのである。

 そのため、その事実を知ったアルダインは第三世代の回収命令を出し、その体ごと廃棄しようとしていたのだ。


 だが、アダム因子そのものが危険であるならば、第三世代の融合手術をしたものたちは常に暴走をしていなければならない。

 しかし、そのような事実はほとんどなかった。

 確認されるのは、今回のアイナたちのように一部の第三世代が暴走するという事件のみだけだったのである。

 すなわち、現時点では第三世代すべてが危険というわけではないのだが、一部、暴走するものが存在するという状態だったのである。


 では、その一部とはいったい何なのか……

 その事実を一之祐は部下である金蔵勤造に探らせていた。

 そう、すでに世は第五世代、融合加工は魔装騎兵の製造に向かおうとしている。

 だが、暴走の原因が分からなければ新たな魔装騎兵など危なっかしくて使えないのである。


 そして、ちょうどこの晩、その勤造が村の調査を終えて駐屯地への帰路についていたのだ。

 だが、もうすぐで駐屯地に着こうかと思う頃、いきなり夜空が金色に光ったのである。

 そして、次の瞬間、金色の矢が雷雨のごとく降り注いできたのだ!


 ――なにっ! これはエメラルダ様の星河一天せいがいってん

 瞬間、勤造は自分が乗るラクダの手綱を引いて向きを変えた。

 だが、その矢の勢いはかなり早い!

 ドドド! と激しい音と共に砂漠を打ち付けられる光の矢

 光の草原があっという間に走るラクダのすぐ後ろにまで迫っていた。

 ――まずい! このままでは!


 まぁ、仕方ない……城壁の上で黄金弓をぶっ放したエメラルダは、この砂漠に勤造がいることを知らなかったのである。

 それどころかマッシュという名のエロゴキブリを叩き潰すために、今、己が持つ全精力を使って解決開放を行っていたのだ。

 その力は日ごろ魔物に向けるものの180%増し!

 おそらく砂漠に生息する生きとし生けるものが串刺しになることは間違いなかった。

 もうね……夜行性の生き物だっているというのに……

 だが、ここは第七の門外フィールド!

 そう、生き物のほとんどは魔物である。

 ならば、構うことはない!

 存分に、エロゴキブリともどもその全てを駆逐してやる!

 などと、エメラルダはマッシュと野良の魔物たち以外、目の前の砂漠には存在しないと高をくくっていたのである。……たぶん

 ……いや、もしかしたら、頭に血が上りすぎて何も考えてないだけかもしれないけれど……


 迫りくる光の矢を避け、先ほどからジグザグに走る勤造のラクダ。

 だが、やはり矢の勢いは早かった。

 光の矢がラクダの太ももを貫いた瞬間、大きく崩れるその体。

 勤造はとっさにラクダから飛び降りると、迫りくる光の雨に視線を向けた。


 瞬間、勤造の視界が光に奪われた。

 ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! ダッ! 

 光の雨が勤造を襲う。


 だが、勤造はそれに慌てることもなく目を閉じると、まるで舞でも踊るかのようにその場で円を描き始めたのだ。

 さきほどからクルリクルリと回る勤造の肌を光の矢がかすめていく。

 大人の体ひとつ分もない矢と矢の間隔。

 地面に到達するわずかな時間差を縫うかのように勤造の体が舞っていた。


 勤造が駐屯地の城壁の上にたどり着いたころには、目の前の砂漠は光の草原に変わっていた。

 ――ふぅ……やれやれ……こんな時に、情報の国で培った忍者マスターの技が役に立つとはな……

 ため息をつく勤造は、まるで何事もなかったかのように肩に着いたほこりを払った。

 だが、いまや勤造の服はボロボロ。

 払ったモノのが砂埃なのか、服の切れ端なのかすでに分からない状態だった。


 そんな時である。

 ビシっ!

 勤造のいる城壁の下からハリセンのシバク音がしたのだ。


「いてぇぇぇぇぇぇぇえ!」

「何! アイナのオッパイ! 触ってんのよッ!」

 タカトの叫び声に続きビン子の怒鳴り声が響いていた。


 だが、次の瞬間、勤造の体は硬直した。

 そう、自分の愛娘である真音子がアイナによって首をつるし上げられていたのだ。

 ――なぜ真音子が……家にいるはずでは?

 先ほどまであれほど冷静であった勤造の表情が、たちまち驚きの色へと変わっていた。

 だが、いくらその事実を否定しようとも、城壁の下にいるのは間違いなく真音子。

 瞬間、勤造は自分がなすべきことを判断する。

 ――なんとしても真音子を助け出す!


 しかし、今、アイナの手が真音子の首を絞め続けているのだ。

 ここで勤造がアイナを打ち取ったとしても、その瞬間に真音子の首も折れかねない。

 せめて、少しでも真音子がアイナの体から離れてくれれば……その瞬間に

 奥歯をかみしめながらそのチャンスを勤造はうかがっていた。


 そんな時、一条の光線が闇夜を貫く。

 そう、タカトがアイナの光を放ったのだ。


 アイナの体から真音子の体が離れた。

 真音子の小さき体が放物線を描きながら落ちていく。


「でかした! 小僧!」

 すでに勤造の姿は城壁の上にはなかった。







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