第571話 ヤシマ作戦!(2)

 ――あのうなじからはミントシロップ入りレモネードのような香りがするかもしれないじゃないか……


 もう、これは童貞をこじらせた砲撃手が思いそうなことである……

 よく考えてみろ!

 そもそも女も男も同じ人間なのだ。

 常識的に、汗からレモネードのような香りがするわけなかろうが!

 もしそんな香りがすれば、そいつはきっと糖尿病にちがいない!


 すでにうんこ座りによってぴんと張りつめたズボンの中では、硬くなりすぎたスナイパーライフルがさらにズボンを押し上げていた。

 そんなズボンは、まるできっちり張られたテントのように足が自由に動く隙間がなくなっていた。

 足を自由に動かせないタカトの体は、徐々に徐々にアイナから遅れをとってしまったのだ。


 だが、タカトは止まらない!

 そしてタカトの妄想も止まらない!


 あぁ! 嗅いでみたい!

 なめてみたい!


 嗅いでみたい!

 なめてみたい!


 嗅いでみたい!

 なめてみたい!


 暴走?

「うがぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!」

 初号機! 暴走します!

 という事で!


「ビン子! あとの片づけはよろしく頼む!」

「ちょっと、タカト! どこに行くのよ!」


「これから俺は重要なヤシマ作戦を遂行しなければならない!」

「ヤシマ作戦ってなによ! というか早く片付けないと、誰かがケガしちゃうでしょ!」


「ヤシマ作戦とは、香川県屋島で美女の『丸亀のコーラ風ディアボロマント』を那須与一が己が竿先で舐めるという逸話にもとづく作戦だ!」


「意味が分からないわよ! でもたしかディアボロマントって、フランスのミントシロップ入りレモネードの事よね……丸亀のコーラ風レモネードって意味わかんないんですけど! というか、ここは屋島ではなくて駐屯地よ! 大体! 屋島と丸亀って離れすぎてるでしょうが! それどこどろか、那須与一は舐めたんじゃなくて、竿の先の扇を射抜いたんでしょ! ツッコミどころが多すぎてまとめられないわヨ!」


 ――っ! 馬鹿め! そんなことは俺でも分かっとるわい!

 鼻で笑うタカト君。


 そんなタカトの姿が、突然消えた。

 ツッコミに気を取られていたビン子の視界からタカトの姿が、電気が消えるかのようにぱっと消えたのだ。


 これはもしかして、時の女神ティアラの持つ神の恩恵、時間移動か?


 ――いや違う!

 何かを感じたビン子は瞬間、さっと目を閉じた。

 たちまち体中の細胞という細胞が鋭く研ぎ澄まされていく。

 集中されたビン子の肌がかすかかな空気の流れを感じ取る。

 それはまるでタカトのよどんだ気配を探すかのようでもあった。


 クン!

 ビン子の鼻がかすかに動いた。

 ――匂う!


「そこかぁぁぁぁぁぁ!」

 一刹那! 宙に舞い上がるビン子の体。


清浄寂滅扇しょうじょうじゃくめつせん!」

 何もない空間にビン子の鋭いハリセンの一撃が振り下ろされた。


 ビシっ!


 勢いよく地面に打ち付けられたハリセンが『く』の字の形に折れ曲がっていた。


 しかし……


 ――手ごたえがない……

 強く唇をかみしめるビン子。


 どうやら、そのハリセンは空振りだったようである。

「どこに行ったのよ! タカとぉぉぉ! なんで私ばっかり片付けしないといけないのよぉぉぉ!」

 夜空に向かって吠えるビン子。

 もう! 活動限界!

 ……零号機……停止します。


 ――あっぶねぇぇぇえ!

 すんでのところでビン子のハリセンをかわしたタカトの額からは冷や汗がドバドバとふき出していた。

 あと、ほんの数センチ前にいたら、確実にハリセンで強打されていたに違いない。


 ――なんでアイツ俺の居場所が分かるんだよ! なんでも見通す神様か? あっ! そういわれればアイツ神様だったヨ! 忘れてた! っていうか、大体、今の俺の姿は見えてないはずだろ!


 そう、タカト君の姿は今、消えていたのである。

 消えていたというより、見えていないといった方が適当かもしれない。


 はい!ということで、今回ご紹介するタカト君の道具はコレだぁぁぁぁ!


『丸亀のコーラ風ディアボロマント!』


 ではなくて

『出歯亀の甲羅風ディアボロマント!』


 今、タカトが身にまとっているのは亀の甲羅模様の一枚の大きな布である。

 そう、すなわちマントであった!


 これこそディアボロマント! すなわち悪魔のマントなのである!


 説明しよう! 仕組みは超簡単!

 このマントの前方から届いた光波、音波などのあらゆる波をカメの甲羅上のマスでキャッチし、そのまま対角線上の背後のマスから放出するのである。

 これを全方向、全ベクトルで応用。

 するとあら不思議!

 たちまち周囲の風景と同化し、このマントで身を包んだ者の姿が見えなくなるのである。


 しかも、ありがたいことに、ちゃんとした生活防水機能までついている!

 だから当然、お風呂場でも使用可能なのだ。


 今まで、スナイパーのように超遠距離から望遠レンズで覗いていた、そこのアナタ!

 これさえあれば、肌のぬくもりすら伝わりそうな絶対不可侵領域(Absolute Terror Field)内からも覗くことも可能です!


 うなじの匂いを嗅ぐのも自由!

 2つのピンクのチェリーを凝視するのも自由!

 仰向けのローアングルから乙女の秘密を見上げるのもアナタの自由です!


 ただし、物体そのものが消えるわけではないので、何も知らない乙女の足で踏みつけられないように気を付けてくださいね。

 って、そういうプレーがお好みの方は止めはしませんが……


 どうやら、「アイナの光」を作る傍ら、やっぱり覗き道具も作っていたタカト君。

 そんなタカト君は今、アイナのあとを追ってお風呂場めがけて猛然とダッシュをしていたのであった。


 乙女の肌は、っぱり! っかり! じまじと!


 という事で、ヤシマ作戦ただいまスタート!

 って、那須与一、全く関係ないじゃん!


「まっててねぇ! アイナちゅわぁぁぁぁぁぁん!」

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