第570話 ヤシマ作戦!(1)
夜も更けた駐屯地の広場を、いくつものかがり火の赤色光が揺れながら取り囲んでいた。
すでにコンサートが終わった時刻なのに、いまだ観客たちは帰るそぶりを見せていなかった。
興奮は、いまだもって冷めあらずといった所か。
そんな観客たちの最前列では、テンションMAXなコウテンが腕を天に突き上げながら叫んでいた。
「アンコール! アンコール!」
だが、そんな観客たちのアンコールにすでに3回も応えたアイナたちは、急遽、ステージの横に設けられたテントの中で脱力しきっていた。
キメれン組の三人などは、まるで魂が抜けた抜け殻のように椅子の背に無造作に体を投げ出して天を見上げている。
そんな三人組の目は、すでに真っ白しろの白目ちゃん。
ピクリとも動かぬその表情は完全に力尽き、先ほどからよだれが垂れ落ちそうな口すらも閉じる力も残っていなかった。
そんな中、アイナがそっと立ち上がった。
メインボーカルとしてステージの中央で懸命に歌い続けたアイナ。
他のメンバー同様、いやそれ以上に疲れはてているはずだった。
そのためか、その足取りはふらふらとおぼつかない。
そんな力ないアイナの手が、なんとかかんとかテントの入り口に手をかけた。
アイナたちのいるテントの外側では、タカトとビン子がコンサートで使った「アイナの光」を片付けている最中であった。
「アイナの光」は、美しい光の柱を打ち上げるために高濃度の粒子を射出する。
この噴出される高濃度粒子に、もし子供でも面白がって触りでもしたら、その幼き手など簡単に吹き飛んでしまうという、結構、危なっかしいものだったのだ。
という事で、タカトは子供が触る前にさっさと片づけてしまおうと、せっせと精を出していたところなのである。
いやぁ、さすがタカト君、結構マジメじゃん!
って、ここは駐屯地! 魔人国と戦う最前線!
そんな駐屯地に、普通、小さい子供なんていやしないだろ!
って……一人いたよ……
ちび真音子が……
しかし、当のちび真音子はアイナとのツインボーカルで頑張りすぎたために完全にバッテリー切れ!
テントの中でいくつか並べられた椅子の上に転がり、すでに寝息を立てていた。
スーピー……スーピー……お兄ちゃん……真音子はトップアイドルになるよ……だから、必ず結婚しようね……スーピー……スーピー
タカトはテントから出てきたアイナの姿をそれとなく横目で追いかけた。
いや目だけではない。
うんこ座りで座るタカトの足がイチ、ニィ、イチ、ニィと交互に動きだし、それとなくアイナの背後を追いかけはじめていたのだ。
まるでコサックダンスでも踊っているかのようなリズミカルなタカトの両足。
――アイナちゃん。もしかしてトイレかな? いやいや、ここはやっぱりお風呂でしょ!
コンサートで懸命に歌い続けたアイナの体は、当然ながら汗でびっしょり。
テントの中で汗を拭いたものの、その体のべたつきはやっぱり気になるはずだ。
だって、女の子なんだもの!
という事で、早くお風呂に入りたいと思っても、なんら不思議な事ではなかった。
タカトの前をフラフラと歩くアイナからは、そんな汗の混じった甘ずっぱい香りが漂ってくるようだった。
その匂いに導かれるかのように交互に足を出しながら犬のように付き従うタカトの体。
しかしなんという事でしょう!
あんなにタカトの近くにあったアイナの姿が、どんどんと離れていくではありませんか!
やっぱりウンコ座りでの歩行が遅すぎるのか?
確かにあの運動はきついよね。
オジサンになると、5歩も動いたら息がキレきれ!
だが今のタカト君にはそんなことは全く関係なかった。
こういう時のタカト君は、いつも以上に頑張れる子なのである!
だからこそ、普通の人間ならすぐに音を上げてしまうようなコサックの運動でも、今だ息切れをすることもなくキレキレの動きが続けられているのだ。
ならなぜ、タカトはアイナから遅れはじめているのだろうか?
それは仕方ないのだ。
だって、タカトが見上げる先には、アイナのうなじが見えていたのだ。
それも汗で髪がまとわりついたほんのり紅色の艶っぽいうなじ!
しかも、汗で引っ付いたシャツからは、ところどころアイナの背中の肌が透き通り、その背中の美しいラインをはっきりと描き出していたのだ。
ピコーン!
それを見た瞬間、タカトの下半身に何かが集中した。
それはまるで日本全国で使われている電気をタカトの下半身の一点に集約し、荷電粒子を打ち出すためにスナイパーライフルにフル充電するかのごとくである。
撃ち方! 用意!
はぁはぁはぁ!
極度の緊張で呼吸が早くなるタカト。
――ハァ! ハァ! ハァ! あぁ、あのうなじ……
そんなタカトの股間では、何か欲望のようなスナイパーライフルがもっこりと立ち上がりアイナに照準を合わせていたのである。
荷電粒子装填率80%! もう少しで発射できます!
そんな構えられたスナイパーライフルが先ほどまで流暢だったコサックの動きを妨げていた。
だが、さらにスナイパーライフルの銃身は熱を込めてく。
そう、タカトの体中から、飽くなき欲望がまだまだ集められていたのである。
――あのうなじ……クンクンと近くで嗅いでみたい!
お前はヘンタイか!
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