第569話 こいつらマジすげぇ!


 暗く静まり返った広場。

 そんな広場に突然、ギターの音が鳴り響いた。

 ガイヤの指先がギターの弦の上で高速で踊る。


 ジャン!

 ジャッジャァアジャ! ジャン!

 ジャッジャァアジャ! ジャン!

 ジャジャァジャ!

 ジャン! ジャ! ジャジャァジャ!


 超絶技巧の音色がかがり火の炎を激しく揺らし、聞くものの背筋を騒がせていく。


 それに続く高速ドラム。

 激しくゆれるマッシュの頭

 タッ!タァタァタ!タン!

 タァタァタ!タン!

 タァタァタ!タ

 タァン!タァ!タァタ!タ!

 力強いハイテンポドラムが魂を揺さぶっていく!


 派手なコスチュームに身を包むアイナが手に持つマイクに力を込めた。

「消え去ぁった~ワタシ! どぉこにいるの!

 く~ら闇の 中から探しだっせ!」

 このコスチューム、幼き真音子がせっせと作ったものだったのだ。

 コレでも真音子は糸使いにかけては長けていた。

 というのも、金蔵家に逗留していたファンション界の巨匠ジャンボポール・ゴルチン13サーティーンさんに、糸使いをつきっきりで指導してもらっていたのだった。


 今度はそんな真音子が愛なの横で叫んだ。

「わたしの~心は気づかれない!

 消えゆく~私は、操れない!」


 ジャ!ジャ!!ジャーんっ!


 それ合わせるようにステージの横からいくつもの光の柱が立ち昇る。

 おぉぉぉ!

 どよめく歓声!

 いつしか広場は駐屯地内の兵士たちによって埋め尽くされていた。


「あれは何?」

 天へと伸びる光の柱を見ながらビン子は不思議そうにタカトに尋ねた。


 タカトは鼻をこすりながら、自信満々に答える。

「へへ~ん! 聞いて驚け! あれは、筒の後方から『スカートまくりま扇』によって圧縮された超高圧粒子を打ち上げたものだ! 名付けて『アイナの光』」


 いつもはタカトの発明を小バカにするビン子であったが、今回は戸惑った。

「ア……アイナの光……」

 その道具にこともあろうかアイナの名前がついていたのである。


 ――なんか……いや……

 ビン子は思う。

 タカトは今まで自分の名前の付いた道具なんて作ってくれたことはなかった。

 それが、最近会ったばかりのアイナのために、こんなきれいな光を放つ道具を作り出していたのだ。


 ――どうして……どうして……私にはないの……

 ビン子はそれとなく、地面に置かれたアイナの光へと手を伸ばした。


 それを見たタカトは突然叫んだ!

「ビン子! 触るな!」


 それを聞いたビン子は、驚き手を引っ込める。

 半べそをかいたビン子の顔がタカトを睨みつけていた。


「ど……どうしてよ!」

 自然にビン子の口から言葉がもれていた。

 それは触るなと言われたことに対する言葉なのか、それとも、自分の名前の道具がなかったことに対することからの言葉なのか、ビン子自身にも分からなかった。


 その顔を見たタカトは一瞬たじろいだ。

 だが、すぐさま言葉をつづけた。

「その超高圧粒子は、お前の手ぐらい簡単に吹き飛ばすぞ!」


「私は! 神だから死なないわよ!」

「馬鹿か! 神だろうが何だろうが! お前はビン子だろうが! ずっと……ずっと……ビン子だろ……」


 ビン子の目からいつしか涙がこぼれおちていた。

 うぅぅぅ

 タカトの胸に顔をうずめたビン子。

 それを優しく抱きしめるタカト。

 超高圧粒子が発する光に照らし出された二人の影が重なっていた。


 ステージの上ではオルテガのベースがしっかりとしたリズムを刻みつづけていた。

 アイナと真音子の姿が光り輝く夜空へと昇っていく。

 そう、二人の足元の丸い円盤のような床がゆっくりとせり上がっていったのだ。

 しかも、次第に円盤の周囲が回転を始めたではないか!

 周りにつけられた歯車のような12個の発射道具から絶頂に達したかのような火花が吹きだし始めた。


 アイナと真音子のまわりを炎の渦が取り囲む。

 えっ? このステージは木製だろうって?

 ふっ! そんなことは承知の上よ!

 これを作ったのは誰だと思っているのだ!

 権蔵とタカトだぞ!

 延焼対策もばっちり整えていいる。

 そう、この発射道具の内部にはメンテナンス用の高分子ポリマーであるポリアクリル酸ナトリウムがたっぷりと仕込まれているのだ。

 この高分子ポリマーはその構造内に大量の水分子を抱持している。

 例えるならそれはもう、びちょびちょに濡れたパンツのようなもの!

 そんな濡れたパンツに火をつけようと思っても、その中のお汁が邪魔して火などつかないのだ。

 しかしまぁ、そんなびちょびちょパンツに火などつけるのはもったいない。

 頭にかぶってクンカ!クンカ! 俺の下半身が火を噴くぜぇぇ!って、変態か!

 いやいや、頭を冷やしていただけです……

 頭が冷えたところで思い出した! この小道具、どこかで見たことがあるような気がするんですよ!

 確か、蘭華と蘭菊がアルバイトしていたコンビニで18禁のエウア像の足元に有ったものにそっくり……

 それもそのはず、だってあれは第七の駐屯地の払い下げ品なのだから。


 そんな派手な演出に観客のボルテージはいやが上にも盛り上がりを見せた。

 そんな炎が渦巻くステージの上で、アイナと真音子が自分の手に巻かれた腕輪に触れたその瞬間!

 「「開血解放!」」

 腕輪から噴き出した光の粒子が二人の体を包み込む!

 その光に合わせるかのように渦巻く炎が吹き散った。

 そのあとに残る二人の姿はがらりと衣装を変えていた。


 只今、ビン子を抱きしているタカトに代わって説明しよう!

 この腕輪は、タカトが作った物質格納道具『エロ本カクーセル巻』である。


 男性諸君は、今までの人生で思ったことはないだろうか?

 ベッドの下に隠したムフフな本が、母親に見つかってしまうのではないだろうか?

 または、

 トイレの中で、しまった、別の本を持ってきてしまった!

 などということを……


 ハイ! そんなお悩みを解決するのが今回ご紹介する『エロ本カクーセル巻』。


 この道具は、物質を粒子状に変換し、巨大エイの胃袋から作り出した異次元空間に格納できる代物なのです。

 この腕輪を身に着けることによって、いつでもどこでもムフフな本を読むことができるのだ。

 その格納量は魔装装甲など一揃いは余裕よヨッチャン!

 あれ……これはまるでエメラルダの黄金弓が使っていた2.5世代の魔装装甲をしまっていたのと同じ仕組みじゃないか!

 ねぇ! タカト君!

 って、今、それどころじゃない……あっそう……


 タカト君、抱きしめたビン子に口づけをすべきかどうか悩んでいる最中なんだって……

 もう、ぶちゅーって行けよ!

 すでにオレテガと口づけしたんだから、できるだろ!


「「私は‼悪夢をさっまよぅ‼」」

 光の柱にどよめく会場をアイナと真音子のツインシャウトが切り裂いた!

「「頭に響く叫びでぇ~」」

 いまや周囲の観衆たちのテンションは最高潮に達していた。

「「私の心! 壊れていく!」」


 その最前列でコウテンの腕が大声とともに天へと突きあげられた。

「X!」

 アイナがシャウトで応える。

「奪ってみろッ!」


 観客たちも大声で叫ぶ。

「X!」

 真音子が応える。

「選んでみろッ!」


「X! 全て捨てさあってぇぇぇぇ!」」


「X!」

「消えてやる!」

「X!」

「殺してやる!」


「X! 私は誰だぁぁぁ!」」


 わぁぁぁぁぁ!

 大歓声とともにコンサートは成功に終わった。


 ……かと思われた。










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