第552話 やっぱり……

 第七駐屯地の城門をくぐりながらタカトはエメラルダに尋ねた。

「エメラルダの姉ちゃんは、駐屯地に何の用があるんだ?」


 荷馬車の横について進むエメラルダはニコニコと答える。

「第八の騎士モーブ様からの直々の呼び出しよ」

「モーブ? あれ、第八の騎士はセレスティーノじゃなかったっけ?」


 意味が分からないエメラルダは首をかしげる。

「セレスティーノって……だれ? 第八の騎士は数百年も前からモーブ様よ」

「セレスティーノを知らないの! あのきざな女ったらしと巷で有名な男だよ」


 人差し指を唇に当てたエメラルダは、上目遣いで空を見て考えた。

「知らないなぁ……」


 困った様子のタカトは頭をかく。

「まぁ、そういう俺もよくは知らないけど……というか、この後、もしかして第八の騎士はセレスティーに変更になるのか……」


「うーん、今回の変更の話は第八の話じゃなくて、第二の話なんだけどね」

「第二⁉ 第二の騎士って言ったらクロト様じゃないか!」


「もう! 第二の騎士は東城とうじょう史内しない様よ! でも史内しない様もモーブ様同様に長年騎士を務められていたから、ついに神民数が限度に達しちゃってね。それで今回騎士を交代することになったのよ。というか、その後継者候補であるクロト君のこと知ってるの⁉」

「知ってるも何も、融合加工の職人の中では伝説だよ!」


「やっぱり、第二の後継者はケテレツよりもクロト君一択ね!」

「エメラルダ様! それは内密のこと!」

 カルロスが慌ててエメラルダを制止する。


「えっ! まぁいいじゃない。ここは第七のフィールドだからアルダインの神民だってそうそう入って来ないわよ」

「そうですが……その小僧たちが、アルダインの密偵かもしれませんぞ!」


「カルロスがこう言っているけど、本当はそうなの?……君たち?」

 エメラルダは意地悪そうな笑みを浮かべてタカトとビン子を見た。

 勢いよく首を振るタカトとビン子。


 それを見るエメラルダは、カルロスを見る。

「やっぱり違うじゃない」

「だから、エメラルダ様、そう簡単に人を信じては、そのうち、痛い目にあいますぞ!」

「カルロス……大体、金蔵の娘である真音子ちゃんが一緒にいるのよ。アルダインの手の者の訳ないじゃない」


 笑うエメラルダは、再びタカトへと顔を向けるとクロトの話をつづけた。

「しかし、クロト君ってすごいね。まだ神民学校の学生なのに、もうそんな才覚を表しているんだ」

「え……神民学校? あれ、融合加工院ゆうごうかこういんの主任技術者じゃなかったっけ……」


「違うわよ。クロト君は神民学校の生徒会長よ」

「コウスケから聞いたけど生徒会長はセレスティーノでしょうが」


「だから、そのセレスティーノって誰の事ヨ! なんか、だんだんその名前を聞くだけで腹が立ってきたわ!」

「そうか……クロト様、神民学校の生徒なんだ……会ってみたいなぁ」


 無駄話を続けるタカトたちは、いつの間にか駐屯地の中の広場についていた。

 開放的な広場では、武術の訓練をする兵士たちの声が騒がしい。

 そんな人混みの中から、鎧をまとった男がドタドタと慌ただしい様子で走り寄ってきたではないか。


「エメラルダちゃん! よく来てくれたね」

 走り寄ってくる男は焦げた肌に白い口髭を蓄えていたが、頭の方は気持ちいほどつるっぱげだった。

 だが、ハゲているからと言って年寄りというわけではない、その体つきはとても大柄で身長が高いのだ。

 ここの兵士たちと比べても、頭一つ二つ分ほど飛びぬけている。

 そんな大柄な男がエメラルダ達を出迎えにきたのであった。


 エメラルダは、その男を見るや否や馬からさっと降りると膝をつく。

「これはモーブ様直々に、お出迎えいただき恐縮です」


「いいよww いいよwwww エメラルダちゃんを迎えに行くのに理由なんていらないよwww」

「しかし、モーブ様……なぜ、第七なのですか、ご命令とあれば、第八の駐屯地にお伺いしましたものに」


「だって、あの一之祐くん、ボクの呼び出し完全に無視するんだもん! だったら、こっちから行くしかないじゃん!」

「ご命令とあれば、わたくしが一之祐の首に縄をつけてでも連れてまいりますのに……」


「誰の首に縄をつけるというのだ……」

 いつのまにか、エメラルダの前では腕を組んだ一之祐がにらみをつけていた。

 そしてその後ろにはしかめっ面をしたガンエンも立っている。


「また、お前たち……バイトをしておるのか……」

 ガンエンはタカトとともに駐屯地に入ってきたコウケンたちに声をかけた。


 コウケンは、その言葉を予想していたかのように、笑顔ですぐさま答えた。

「お師匠様、これはバイトではございません」


「バイトではないと言うのか……輸送隊の護衛をしていたのではないのか?」

「駐屯地に伺う方法を考えていましたところ、偶然にも輸送隊が歩いておりまして、これ幸いと」


「だから、それをバイトというのではないのか」

「何をおっしゃいます! 私たちの目的は、駐屯地から帰ってこない師匠に、わざわざコチラか出向いて稽古をつけてもらうためであって、決して金もうけではございません!」


 コウセンも大きな声を上げた。

「そうだぜ! 師匠! 『奉身炎舞』を極めるまでは何度も何度も通い続けるからな!」


 末弟のコウテンも同調する。

「そうっすよ! これならスラムのみんなにもご飯が買えて一石二鳥なんすよ!」

「コラ! コウテン! いらぬことを言うな!」

 慌ててコウケンはコウテンの口を押えた。

 コウテンはしまったという顔をするが、時すでに遅し。


「やっぱり、バイトではないか……」

 ガンエンは、あきれた顔で三人を見ていた。


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