第550話 乳揺れは二つ!俺は一つ!

 だが、タカトとビン子の間には真音子が座っていた。

 第一駐屯地でカマキガルに襲われたときよりも二人の距離は真音子一人分だけ遠い。

 そんなタカトの身体の下で真音子が嬉しそうな悲鳴を上げていた。


 きゃぁ❤


 それを見るビン子は思う。

 何で真音子やねん!

 お前はロリコンか!


 ビン子の肩プルプルと怒りで震えていた。

 ココは、あの時のように私をかばいに来るのがセオリーやろ!

 怒髪天を衝くビン子は、手に持つハリセンを振り上げた。


 だが、忘れてもらっては困る。

 この瞬間、この時間!

 荷台に乗るカマキガルから、勢いよく鎌が振り下ろされているところなのだ。


 そんなカマキガルの鎌が、怒りに逆立つビン子の髪先に触れた。

 その鋭き刃先によって、黒髪の一本がひらりと切れ落ちる。


 ビシっ!

 

 瞬間、ビン子の目がきらりと光ったかと思うと、ハリセンの行き先がU字を描いて変わっていた。

「邪魔よっ!」

 そう、ハリセンの一撃がカマキガルの鎌をはね上げていたのだ。


 そして、そのハリセンの勢いはそのままにカマキガルの顎へクリーンヒット!

 

 青筋を浮き立たせたビン子の両の手。

 その両手でしっかりと握りしめられたハリセンが力任せに一気に振りぬかれていた。


 フンがぁぁぁぁぁ!


 キョぇぇぇぇぇぇ!


 奇声を上げながら天空へと舞い飛ぶカマキガル。

 それを見たコウテンが一言。

「女って……怖いっす……」


 だが、ハリセンは所詮ハリセン!

 残念ながらカマキガルに致命傷を与えるには至っていなかった。

 まぁ、当然である。

 ハリセンでカマキガルを倒せるのなら、いつもハリセンでシバかれているタカトは何度も死んでいることになるではないか。

 さすがに、タカト君に万死一生スキルがあると言っても、一万回以上たたかれれば一回は死ぬ可能性があるのだから、このお話は既に最終回を迎えていることになる。

 まぁ、それぐらいの回数はすでに叩かれていますからね……タカト君なら。


 空に吹き飛ばされたカマキガルが頭を振りながら羽を広げ、再びビン子たちに狙いを定めた。


 荷馬車の運転席では、ビン子が厳しい視線でにらみをつける。


 だがその視線の先はカマキガルでなく、横のタカトたち。


「そんなここでだなんて♥ まだ、真音子、お嫁さんになってもないのに♥」

「そんなわけないだろ!」

「だって、お兄ちゃん固くなってるよ♥」

「こ……これは、さっき使った女医にょい棒だよ」

「もう、ウソばっかり♥」

「う……うそじゃねぇ!」

 タカトは、ズボンのポケットからその固い棒を取り出そうとした。

 あれ……やわらかい……

 女医にょい棒はどこだ? どこに行った?

 ポッケの中を探るも女医にょい棒は見当たらない。

 あるのはちょっとふにゃけた工具のみ。

 おかしいなぁ?

 ゴソゴソとあさるたびに、タカトの手に握られたやわらかい工具が固くなっていくような気がした。


「そんなに自分で触らんでも真音子がしてあげるよ♥ だって、真音子、お兄ちゃんのお嫁さんなんだから♥」

「えっ? そんなぁ~♥ いいのかなぁ♥」

 そんな二人の頬は真っ赤に火照り、とろけるような視線で見つめあっていた。


「そんなに熱いのなら冷やしてあげるわよ! このロリコン!」

 大声を上げるビン子がカバンの中から一枚の団扇を取り出した。


 こっ! この団扇は、あの『スカートまくりま扇』ではないか!

 第一の騎士の門内でカマキガルを粉々に吹き飛ばしたという、あの伝説の団扇!

 えっ? さっきも城壁のところで使っただろうって?

 別にイイじゃない!

 という事で、ビン子は、その『スカートまくりま扇』をタカトと真音子めがけて振り下ろした。


 ちょっと待てぇぇぇ!


 その団扇の一振りはカマキガルをも粉々に吹き飛ばす威力なんだぞ!

 そんなものをタカトと真音子めがけて振り下ろせば、二人の体はその風圧で思いっきり吹き飛んでいってしまうではないか!

 いくら第七駐屯地が砂漠のフィールドと言っても、石や岩だって転がっているのだ。

 吹き飛んだ先でそんなものにでもぶつかれば、即死と言わんでもたんこぶができることは間違いない。

 まぁ、そんな事、頭に血がのぼっているビン子に言っても分からんでしょうけど……


 ぷスン!


 団扇から屁のような音がした。


 あれ?

 頭をかしげるビン子。


 もう一度、自分の親指を押し当てて一滴の血を絞り出す。

「開血解放ぉぉぉぉぉ!」

 再度、『スカートまくりま扇』を振りぬいた。


 ぷスン!

 また、屁のような風しか出なかった。


「どうしてなのよぉ!!!!!」

 頭に血が上ったビン子は、団扇をぶんぶんと振り回す。

 ぷっ! ぷっ! ぷっ! ぷっ! ぷっ! ぷっ! ぷっ!

 そのたびに、団扇から屁が飛び出した。


 ブビビビビビビビイ!


 ついに『スカートまくりま扇』から断末魔のような音が響いた。 

 それは腹を下した際にオナラをさんざん我慢しつくした後にくる、漏れる直前の最後っ屁。

 ケツの栓が破れたかのように団扇もまた破れていた。


 それを見たタカトがプププと笑う。

「解説しよう! その団扇はすでにエネルギー切れだ!」


 城壁から落っこちる真音子を救うために、フルパワーを出し尽くした『スカートまくりま扇』。

 女子学生のスカート程度であれば824回ほどはめくれる設計であるが、タカトを飛ばすとなるとさすがに全エネルギーを使い切らなければならなかったようである。

 ということで再度使うためには、団扇の地紙を張り直す必要があったのだ。

 まぁ、紙よりも耐久力の強い素材を使えばいいだけなのですけど、そこはタカト君のこだわり! 突っ込まないように!


 という事で今回も始まりましたタカト君の言い訳コーナー!

 ハイ! 拍手! パチパチパチ!

 それでは、さっそくタカト君に言い訳してもらいましょう!


 あのな! 俺が金属の団扇など持っていたとすれば、鉄扇使いの不知●舞さんと被ってしまうだろ!

 なにせ舞さんの乳揺れは二つ!

 それに対して俺が揺らせるぺ●●は一つしかないのだ!

 どう考えても勝負にならない……

 だからこそ、ここはあえて勝負をせず、紙にこだわらないとダメなのだよ。

 分かるか?

 男なら分かるだろ!

 だって、あの乳揺れを見るために、何度となく……おっと、話がそれてしまったではないか……


 全然、意味が分かんねぇ!

 ハイ、死刑!


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