第539話 派遣計画!
その声に飛び起きたのか、家中からあわただしい足音が、金蔵家の玄関へと集まっていった。
どうやら昼間にどつきあっていた二人の女たちの声も混ざっているようである。
「ペンハーン! こんな夜更けになんの用や! 時間を考えんか! このボケ!」
大きな金づちで打ち破られた木製の戸が無残な姿で穴をあけ、広い土間に無数の破片を散らしていた。
そんな玄関先にある一段高い上がり
まさに、一触即発!
「
「もしかして、そのためにわざわざ来よったんか?」
「こちとら三途の川に労働者派遣を約束しとんや! もし、それができへんかったら、ウチが……ウチが……もう一度、あの地獄で……」
ワナワナと震えだすペンハーン。
「それはどういう事や?」
「ええい!
玄関先で両家の使用人達がくんずほぐれつの大喧嘩。
周りでは女たちのけしかける声が甲高い。
一応言っておくが、ここは神民街。
城壁に分けられた身分の高い神民たちが住む街なのだ。
そんな夜更けの神民街で、急にお祭りかと思うぐらいの騒ぎがおこったのだ。
当然、金蔵家の周りの住民たちも、一体何事が起ったのかと野次馬根性丸出しで次第に集まりだしてきた。
観念せいや!
ひデブっ!!
ボコっ! 往生せいや!
あベシ!!
ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! ボコっ! 聖闘士せいや!
アシベぇぇぇぇぇぇぇ!!
正念がたらん! 少年が! ゴマちゃん連れてきたろか! コラ!
そんな男達を足蹴にする
――しかし、解せぬ……
たかが昼間の小競り合いの腹いせに、これほどの使用人たちを連れてわざわざ殴り込みに来るだろうか?
けが人が多くなれば、ルイデキワ家が担う第一駐屯地への輸送業務にすら支障が出かねない。
いくら、輸送業務を指揮している息子のモンガがバカとはいえ、こんな愚かな行為を黙って見過ごすわけがないのだ。
――と言うか……息子のモンガはどこにおるんや?
「
ペンハーンが次々と金蔵家の使用人たちに
だが、三人を超えたところでちっとも効かない。
「あれ……?」
首をかしげるペンハーン
それを見る
「もしかして、ペンハーン、お前……。3人以上は誘惑できへんとか……」
「
顔を見合わせる二人。
ペンハーンは
そんなペンハーンをうっとおしそうに引きはがそうとする
こんな必死のペンハーンも珍しい。
何度もペンハーンをどついてきた
いつものペンハーンなら、すでに白目をむいてぶっ倒れているところ。
だが、今回のペンハーンはかたくなに
というか、意地でも
それはまるで、
――これには何かある……
しかも、息子のモンガが見えないのも気になる……
――何をしに来たんや、こいつら……
――今の金蔵家にあるものは、なんだ……
……
…
――そうか!
ヒマモロフの種か!
なるほど、大方、こいつらの目的はヒマモロフの種をどさくさに紛れて盗みに来たと言ったところだろう。
医療の国へ輸出するヒマモロフの種を失えば、この融合国で使われている人魔抑制剤の支給も止まる。
その責任を取らされて、金蔵家、いや、主である騎士一之祐の立場も悪くなる。
そしてその後の事は、宰相であるアルダインとの間にルイデキワ家がヒマモロフの商いの権利を引き継ぐという算段が出来上がっているのだろう。
しかもそのうえ、今回奪ったヒマモロフの種を闇ルートでさばけば、ルイデキワ家は一攫千金! アルダインに納められる上納金も格段にアップする。
そう考えると、悪役二人のいやらしいほどの満面の笑みが目に浮かぶようであった。
そのほうも悪よの!
いえいえ! お代官様ほどでは!
ワハハのは!
笑いごととちゃうわ!
しかも、今日に限って言えば、主である金蔵
もし
かつての勤造は、情報国の忍者マスター
だが、忍者マスターの地位に
うわさでは
今では
そんな
ペンハーンたちが、チャンス到来と考えても不思議ではない。
――なるほど……ペンハーンが必死になるのはこのためか!
「イサク!」
紙袋の男が、ルイデキワ家の使用人をどつきまくりながら顔を上げた。
「なんスカ!
「奥のネズミども掃除して来い!」
「奥の?」
「あぁ、ゴミクズにたかるネズミどもや! すぐ行け!」
「ゴミクズ? ……あっ! なるほど!」
何かに気付いたイサクはポンと手をたたく。
「イエッサー! 直ちにネズミ退治に向かいます!」
今だ
「どないしよう……
「ああ、うっとおしい!」
「このままやったら、うち……また、あのブラックな現場で働かにゃならんなる……」
「そうか……そうやったんか……」
「どうしたらいい……
「なら簡単な事や!」
「えっ!
それを聞くペンハーンの顔が明るくなった。
と思ったら、
ボコ!
ペンハーンの顔面がつぶれた肉まんのようにへこんだ。
天空から突き落とされた
その拳が槍のようにまっすぐに肉まんの中心を貫いていたのだった。
いや、違った……
肉まんかと思ったらピザまんでした……
目と鼻から赤きピザソースをまき散らしながらペンハーンの体がゆっくりと崩れ落ちていく。
もはやそのピザまんは、消費期限切れ……
ついに白目をむいて地面に落ちた。
「なら、お前が、もういっぺん、その現場とやらに行ってこいや!」
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