第538話 知らん……
とっさに立ち上がる
一糸まとわぬ素っ裸である!
水中のウ●コから見上げる光景は、まさにローアングル!
天空の女神の神秘が、どストライクでよく見えたはず!
だが、残念ながら顔までぐるぐる巻きにされていたタカト君にはそれが見えなかった!
実に惜しい! 実に!
「この痴れ者があぁぁぁぁぁぁ!」
間欠泉のように吹き上がった水柱の先に、茶色いウ●コが宙を舞う。
キラキラと水滴をまとうウ●コ。
ある意味、芸術的で美しい……
もしかして、これはウ●コではなくて蝶のサナギではなかったのだろうか。
クルクルと回転する茶色いサナギの表面から、無数の帯の輪が広がった。
それは次々とほどけていく茶色いロープ。
そして、巻き付いていたロープの端が空中に舞った瞬間、タカトはついに蝶になったのだ!
天に舞う蝶!
その羽を大きく広げる。
……いやフルチンのタカトが大の字になって羽ばたいているのだ。
「スイカっぷのお姉さまぁっぁァァァ!」
そんなタカトが、よだれを垂らしながら天空から一直線に
「イサクッ!!!!」
岩の影から飛び出すイサク!
「イエッサー!」
ごついショルダーアタックがタカトの顔面にクリーンヒットした。
タカトの視界に一瞬映っていた、たわわなスイカ。
その先っぽに引っ付くサクランボ。
だが、そのサクランボが長期記憶として焼き付く前に、タカトの視界は完全にブラックアウトしていた。
ガッシャーん!
勢いそのままにタカトの裸体は露天風呂の柵を突き破って飛んでいく。
「分かっとるやろな! ワレ! その柵は弁償してもらうからな!」
だが、そんな
風呂から出たタカトとビン子には、大広間で食事が用意されていた。
そこでは金蔵の使用人たちも集まってきては、タカトたちと一緒に食事を始めた。
仕事が終わり一息ついた皆に酒が振る舞われるのは金蔵家ではいつもの事。
そして、いつしか広間は賑やかになり、
ついには、恒例の大宴会!
飲めや歌えの大騒ぎ!
タカトとビン子も大はしゃぎ。
「不肖! タカト! 一発芸いきます!」
ズボンを脱いだタカト君!
広間の真ん中でいきなりブリッジ!
「潜水艦!」
もっこり!
弧を描いたタカトの下半身から潜望鏡が伸びてきた。
「きゃぁぁぁぁ! 変態!」
女たちの悲鳴がおきる。
「ひっこめ! 短小!」
だが、男達は大笑い。
「お前! それ小さいぞ!」
「小僧! 皮をかぶっていては、女体の神秘は覗けんぞ!!」
そんなタカトにおひねりさながら、本日のメインディッシュのエビフライが乱れ飛んでいた。
タカトの横で飛び散らかるエビフライを必死にひろい集めては口にほおばるビン子ちゃん。
「おいしい! このエビフライ! おいしい!」
その動きは猫のように素早い!
宙を舞うエビフライを口でパクり!
落ちる直前のエビフライをスライディングキャッチしてはパクり!
次から次へと食いまくる。
すでにヨークや一之祐のことなど忘れたようで、懸命にエビフライを食いまくる!
そんなビン子の食いっぷりに、金蔵家の使用人たちは驚いた。
「嬢ちゃん! イイ食いっぷりだな!」
「俺のも食え! 食え! もっと食え!」
「おーい! エビフライあるだけ持ってこ~い!」
いつしかビン子の前にエビフライが300本!
それを尻尾の先まで全部食べ切ったビン子はエビス顔。
爪楊枝で歯をシーシーする姿は、まるで腹を突き出す中年オッサン……
「ワタシ……もう……エビちゃんになっちゃっいそう……」
いやいやそれは、モデルではなくて漫画家のオッサンの方や!
さわがしい広間の中心では、裸のタカトが今だエビぞりをし続けていた。
誰にも相手にされなくなったタカトはワビシ顔。
再び注目を集めようとプルプルする姿は、まるで腰を突き出す変態オッサン……
「わたし……もう……エビごしになっちゃっいそう……」
いやいやエビごしは、腹を突き出すのではなくて背中を丸める方や!
だが、天へと突き出されていたタカトの潜望鏡は、今や寂しさでエビ腰のようにぐにゃりと頭を垂れていた。
宴たけなわで終わった大宴会。
タカトとビン子は、金蔵家の客間で床に就いていた。
時刻は、もう夜更け。
「ちぇっ! なんで俺が第七の駐屯地に物資を運ばにゃならんのだ!」
客間に引かれた布団の上でタカトは天井を見上げながらぶつくさ呟いていた。
どうやら
その横で並んで寝るビン子がタカトに背を向けていた。
「仕方ないじゃない……タカトが、おフロ場の柵を壊したんだから……」
「大体、あれは俺じゃないし、紙袋のオッサンのせいだし!」
ヨークとの買い物の約束を今頃思い出したビン子は、少々、困った様子で布団を鼻先まで上げた
「でも……タカトいいのかな? こんなところで寝ていて、ヨークさん怒っているよね……」
ビン子の横で仰向けに寝るタカトは、頭の後ろに手を回し小さく呟いた。
「大丈夫だ……ビン子……心配するな……ここは俺たちがいた時間じゃない……」
その言葉にビックリしたビン子は飛び起きて、タカトの顔を見下ろした。
「えっ! タカト! それどういう事!」
「気づいてないのか……ビン子……」
「いや、私もうすうすは感じていたけど……と言うか大丈夫ってどういう事? 元に時間に戻る方法を知っているって事」
相変わらず仰向けで天井を見上げているタカトは、ぼそり。
「知らん……」
「知らんって……タカト……どうするのよ……」
「そんな事、俺に言われても……知らん……」
そんな夜更けの静かな廊下にいきなり使用人たちの叫び声が響き渡った。
「カチコミや!」
「ルイデキワ家のカチコミやぁ!」
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