第537話 堪忍な……
人を廃人にするこのタネが、ムカつくほど大っ嫌いだった。
そのため、その種を見るたびにゴミクズ! ゴミクズと蔑んでいた。
だが、このヒマモロフの種には強い催淫作用と興奮作用があるため、聖人世界の色街ではずいぶんと重宝され、裏の世界では驚くような高値で取引されていたのだ。
そんな種が、今の金蔵家には150L相当の大袋で10個も持ち込まれていた。
金に換算すると末端価格で大金貨3千枚。
年末ジャンボ前後賞合わせて10億円の当たり券が3セット分必要となる計算だ。
だが、この種には副作用として強い中毒性があり、使用し続けると無気力によだれを垂らしニタニタと笑い続けるだけの廃人になってしまうのである。
こうなるとヒマモロフの種を絶つことなど、ほぼ不可能。
脳みそ自体が種の油を欲しがって、種以外の事を考えることができなくなるのだ。
そのため、聖人世界のどの国でもヒマモロフの種の流通が制限され、簡単に手に入れることができなかった。
しかし、こんなご禁制の品がなぜ、金蔵家に10袋も?
もしかして、金蔵家はヤクザではなくて、マフィアか何かなのだろうか?
いや違う。
金蔵家は、この融合国で唯一ヒマモロフの種を取り扱うことが許された商家なのである。
この融合国では種が取れる魔物ヒマモロフの生息域は限られており、第六の門内の森の中でしか確認されていなかった。
魔人世界のようにいつでも簡単に手に入るという品ではないのである。
その門内でかき集められた種が、今、金蔵家に運び込まれ納められていたのだ。
というのもヒマモロフの種には、人魔症抑制する効果もあった。
魔人世界で魔血をかぶったタカトが人魔症予防として飲まされたのも、このヒマモロフの油。
魔人世界でとれたヒマモロフの種から抽出したものである。
当然、聖人世界でも、このヒマモロフの種を使って人魔症の抑制、または治療薬の研究開発が行われていた。
その結果生まれたのが、人魔症にかかりにくくすための人魔抑制剤である。
しかし、今のところこの薬は医療国でしか作ることができない。
タカトたちが住む融合国が手に入れられる数は、おのずと限られた。
そのため、手に入った人魔抑制剤は、神民や守備兵など国にとって必要な人間たちに優先的に配布され、一般国民や奴隷などにはほとんど支給されることがなかったのである。
このように人魔症の研究開発が行われているのは、聖人世界においては医療国だけなのだ。
だがしかし、ヒマモロフの種は魔人世界と異なり、聖人世界では貴重品。
医療国、一国だけの採集量では、到底、数が足りない。
そこで、他国で採取されたヒマモロフの種を医療国は人魔抑制剤の配給権をちらつかせながら買い入れていたのである。
そして、金蔵家ではちょうど明日の朝、医療国に向けて運ぶ予定のヒマモロフの種が大量に運び込まれていたところだったのだ。
「真音子ちゃん……何ともないな……何ともないな……」
目をこすりながら、うなずく真音子
そう言う
「真音子ちゃん……叩いて堪忍な……でも、もう、二度と、あの種には触ったらイカンよ……約束やよ……」
真音子は、
体を洗い終わった
ふー落ち着く。
湯煙に頬を赤く染めるビン子だったが、隣に座る
――どうやったらあんなに大きく育つのよ。やっぱり、肥料がいいのかしら?
そんな横で元気になった真音子が、ばちゃばちゃと泳いでいた。
だが、一人遊びに飽きたのか、スーッとビン子に近づいて、
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの? もしかしてお姉ちゃんは権蔵に会いたいの?」
水面から河童のように顔を出した真音子がビン子をじーっと見つめていた。
そのキラキラの視線が妙に眩しい!
ドキッとするビン子はとりあえず、愛想笑いを浮かべた。
「大丈夫……大丈夫よ」
さっきまでオッパイの事を考えていましたなんて、小さい子には言えないよね。
「ねえ、家族なのに、どうして一緒にいないの?」
その真音子の言葉を
「それはな、真音子ちゃん。権蔵には駐屯地でやらんといかんお仕事っちゅうものがあってやな……」
「でも、お姉ちゃん……会いたいよね……」
うーん
頭を傾げるビン子。
会いたいと言われても、ほんの数時間前に権蔵と別れてきたところなのだ。
そして、今、権蔵は一之祐の白竜の剣を磨くために工房にこもっている。
そんな権蔵の仕事を邪魔しようものなら、いくらビン子でも怒られることは間違いない。
ビン子は静かに首を振った。
それを見る
「……会えへんこと……我慢しとんやな……アンタはいい子や……本当にいい子や……そやけど、権蔵には権蔵の仕事があって今は駐屯地から帰せへん……堪忍な……本当に堪忍な……」
そんな
⁉
湯船の底に、何か得体のしれないものがうごめいていた。
それは茶色いナマコのようなモノ。
まるでウ●コのようなナマコが
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