第531話 カレーとマシュマロとはんぺん女
森の木々の間から差し込む光が、タカトの顔を優しく照らす。
その光を遮るかのように手を額にかざすタカト。
だが、残念ながらその指先は、まだティッシュでは拭かれてはいなかった。
白き光で色を失ったタカトの視界が、徐々に徐々にと森の緑を映し出す。
だが、タカトの目の前にいたはずのティアラの姿がなくなっているではないか。
「ねぇ……タカト……ティアラはどこに行ったの……」
傍らに立つビン子もまたキョトンとしながら尋ねた。
「さぁ……」
一体何がおこったのか分からないタカト。
タカトは周りを見渡すも、木々の緑が生い茂るばかり。
「ウ●コでも行ったかな……」
「そんなわけないじゃない……」
チュンチュンチュン
鳥の鳴き声が静かな森の中に響いていた。
「本当にティアラ……どこに行ったのかしら……」
「また……消えたんじゃないのか……」
そう言うとタカトは、下げたズボンをよいコラショと上げた。
だがその時、タカトは何かに気づいた。
ここは先ほどまでいた森の中。
確かに森の中なのだ……
しかし、本当に先ほどまで自分たちがいた森なのか?
というのも、ないのである。
タカトの足元にないといけないものが、ないのである。
これはもしかして、夢?
タカトは、念のため指先を匂った。
ぷぅ~んと漂う茶色い香り。
う~ん! マ●ダム!
夢じゃない!
これは夢じゃない!
なら、あれはどこに行ったんだ。
俺のウ●コはどこに行ったんだ!
そう、タカトの足元に広がっていたはずのカレーのルーが消えていたのだ。
そんな疑念を抱きながら、いまだ信じられないタカトは森から出て街へと歩く。
それについて行くビン子も、辺りをきょろきょろとうかがっていた。
どうも、自分たちが知っている道と少し何かが違うのだ。
だが、街の喧騒はいつもの通り。
城壁が取り囲む神民街から遠く離れた一般街は、相も変わらず柄が悪かった。
そんな道の上で二人の女が言い争っていた。
この二人の女、
「
「何言うてんのかしらんが! どついたら勝手になついてきたんや!」
「普通、いきなりどつくか?」
「いや、なに、目がトローンとしてたもんで、目、覚ましたろうと思ってな」
「それは、ウチがマリアナ様からもろた神の恩恵のせいや!」
「なにが神の恩恵や! 寝ぼけとるのもたいがいせい!」
「いつもかっつも、ウチの邪魔ばかりしよって」
「何も邪魔しとらせん。あんたが勝手にワテの前でこけとるだけや」
「くーーーーー! 忌々しい!
「勝負⁉ お前、今、勝負って言うたんか?」
「ひぃぃぃぃ!」
「ペンハーン! 勝負って言うたからには、覚悟決めて
――あんたはヤクザか!
「ねぇタカト……ヨークさん、一体どこに行ったのかしら……」
「ヨークの兄ちゃんも、ウ●コじゃね」
「もう! タカト! あんたと一緒にしないの!」
「なら、俺と違って、かなり硬いウ●コだな! という事は、店に来るまでに結構、時間かかるぞ!」
グイ!
道を歩いていたタカトの腕が急に掴まれた。
「えっ?」
突然のことで分からないタカトは、ふらつきながらその掴む腕に引き寄せられる。
ペンハーンに首を羽交い絞めにされる無関係のタカト。
――キモチイイ……
タカトは恍惚な表情を浮かべていた。
これもきっとヨークと一緒に作ったレリゴー乱奴のおかげだろう。
新たなMという世界線に到達したタカトならではの新感覚。
いやいや、ちゃうちゃう!
実はそうではなかったのだ。
羽交い絞めにされたタカトの背中には、ペンハーンの豊満な胸が押し付けられていただけだったのだ。
このペンハーン、実は第一の門の輸送隊を指揮するモンガの母ちゃん。
年のころはアラサー、いやアラフォーぐらい?
だが、その容姿は三段マシュマロ。
ふんわり揺れるその肉が、触れる者すべてを安らぎに誘う。
ペンハーンはタカトを抱きながら、
「今からこの男を、ウチの虜にしてみせる! 悔しかったらお前のモノにしてみい!」
急に白けた様子の
「なんでや……その男、ワテらになんか関係あるんか?」
「なんや!
薄ら笑いを浮かべるマシュマロ女。
「コラ! なんやて! もういっぺん言ってみい!」
「臆病者の
「殺す! 今日という今日は殺す! 確実にボコり殺したる!」
――ヒィィィぃぃ!
生きた心地がしないペンハーン。
タカトもまたその目におびえた。
まるで、やわらかい雲の上の天国から、鋭い針のような地獄へと突き落とされたような感覚。
――なんで俺まで……
「ああ分かった! その勝負受けたるわ! 神の恩恵だろうが、何だろうが使ってみい!」
「よ……よっし……いくでぇぇぇ」
ペンハーンはタカトの目を見つめた。
あれ? この感覚は……
そう思った瞬間、タカトの意識はピンクに染まった。
「マシュマロさまぁ~♥ 大好きぃぃぃぃ」
「誰がマシュマロやねん! うちはペンハーンや! ペンハーンさまとお呼び!」
まぁ、マシュマロもはんぺんも似たようなモノ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます