第517話 ココ掘れワンワン

 だが、なぜかその魂が勢いよく戻ってきた。

 壁からビュンと飛び出してきたかと思うと、スポッとタカトの体の中に入り込む。


 その途端、パッと上半身を起こしたタカト。

「今! 一瞬、金色の光が見えた!」

「何言っているの! タカト! あんたが極楽なんかに行けるわけないでしょ!」


「いや本当だって! その壁の向こうに何かあるんだって!」

 そのタカトの言葉に、皆が一斉に壁を見つめた。


 その壁は先ほどから『ガールズ! アン・ドゥ パンツ、ぁー!』が指さす場所!

 もしかして……お宝?

 見合わせる4人の顔がいやらしいうすら笑いを浮かべていた。


「よし! ここ掘れ! ビン子!」

「なんで私が掘らないといけないのよ!」


「タカト君! ココは私に任せて!」

 エメラルダがこれでもかというぐらいにガツガツと壁に音を立てはじめた。

 えっ? 壁を掘る物があったのかって?

 いや……まあ……

 手に持つ黄金弓を使って……

 というか……エメラルダさん……

 その黄金弓、ウルトラレア級の武具ですよ……

 穴掘りの道具に使うなんて……アンタ……


 だが、黄金弓と言っても所詮は弓である。

 エメラルダが懸命に本弭もとはず(弓の一番下のところだヨ!)を壁に打ち付けるものの、その大腰おおごし(握りの下のあたりの曲がったところだヨ!)が単にしなるだけ。


 それを見かねたリンが叫んだ。

「タカトさん! そこをどいてください!」


 その声にハット振り向くタカト君。

 タカトの背後には腰を低く、拳を下段に構えるリンが静かに息を吐いていた。


 ハァぁぁああ!

 トウ!

 バキ!

 いたぁぁぁぁぁい!


 拳を振りながら泣きわめくリン。

 どうやら壁は崩れなかったようである。


 ビン子がそんなリンを介抱する。

「リンちゃん、無理しちゃダメだヨ!」

 涙目のリンは、静かに何度もうなずいていた。


 そんなおバカな4人組の後ろで、ため息が一つこぼれた。

 はぁ~


 四人が振り向くとそこにはハヤテが座っているではないか。


 タカトは、やっと思い出したようである。

 ――そう言えば、コイツもついてきていたんだっけ……

 ハヤテは尻尾をビュンビュン振りながら、ハッハ! ハッハ!と息を切らしている。

 さも、ご主人様の命令を待っているかのようにうずうずしているようなのだ。


 にやりと笑うタカトは一言!

「よし! ココ掘れ! ハヤテ!」

 プイ!

 ハヤテは、フンと言わんばかりに横を向く。


 ならばと、ビン子がハヤテに声をかけた。

「ハヤテ! ここを掘って!」

 ワン! 

 ハヤテは待ってましたと言わんばかりにタカトの横をダッシュして通り抜けると、目の前の壁にガツンと爪をかけた。

 その瞬間、タカトの視界は飛んでくる土によって全く見えなくなってしまった。


 うぉぉぉぉぉ!

 ハヤテの唸り声とともに飛び散る土!

 そして、土に交じって巻き散る大小さまざまな石。

 前足で掻かれた土砂が、ハヤテの腹の下を通ってケツの後ろへと高速のベルトコンベアーで運ばれるがごとく次々とかき出されていった。


 そして、その飛び出していく先には、タカトの顔面。

 今や、タカトの顔は泥パック、いや、小さな山のように土が盛り上がっていた。

 タカトは口の中に入る泥をぺっぺッと吐きながら、ハヤテを制止する。

「ちょっと待て! ハヤテ!」

 だが、興奮状態のハヤテにはタカトの声は届かない。


 うぉぉぉぉぉ!

 ココ掘れワン! ワン!

 ココ掘れワン!


 嬉しそうにハヤテの尻尾がビュンビュンと回っている。

 もう犬の本能が制御できないのだろう。

 先ほどから狂喜しながら穴を掘り進めている。


 うぉぉぉぉぉ!


 どんどんとハヤテの前に穴があく。

 そして、こちらも……

 どんどんとタカトの顔に土がのっていた。


 ガキン!

 大きな音ともにハヤテの爪が何かに当たって止まった。

 その掘り進められた土の隙間から、金色の光がわずかに見えた。


 どけ!

 タカトは、ハヤテを押しのけると、その塊を掘り出した。

 それは、鍵のような形をした石。

 しかも、何やら真ん中には、名前を書くようなくぼみまであった。


「なんだこれ?」

 一見すると、ちょっと大きなタダの鍵?


 だが、それを見たエメラルダは驚いた。

「タカト君、それ、もしかして、この小門のキーストーンじゃない!」


 意味が分からないのかキョトンとするタカト。

「へっ! キーストーン?」


 確かキーストーンと言えば、オオボラと探していたものではないか。

 売れば大金貨500枚はくだらないと言われていたお宝だ。


 エメラルダは続ける。

「そうよ! それはきっとキーストーン! そのくぼんだ所に神様の名前を書き込めば、その神様は門内から出られなくなる代わりに、門の空間はその神様の所有物になるの!」

「で?」


「この洞窟が物理的に広がって、広大なフィールドになるのよ!」

「何それ?」


「要は、この洞窟が、その神様の国になるって事!」

 ……

 やっぱり、今一よく分からないタカト君。


 ――まぁ、いいや……とりあえず試せば分かるか。

 

 び

 ん

 こ


 スラスラスラと!


 それを見たビン子が怒鳴り声をあげた。

「ちょっと! タカト! なんで私の名前書いてるのよ!」

「だって、お前、神様だろwww」


「だからって、私の名前書かなくてもいいでしょ! この洞窟の中から出られなくなるのよ! 聞いてた!」

「いいじゃん! お前、国の所有者になれるんだぞ!」


「それじゃ、もうタカトと一緒にいられなくなるじゃない!」

 えっ!?


 タカトは、慌てて服の裾でキーストーンに書いたビン子の名をこすった。

 こするたびに、にじんで消えていくビン子の名前。

 あれ?


「意外に簡単に消えるじゃん! お前! 実は神様じゃないとか!」

「うぅぅぅ……」


 見かねたエメラルダがビン子の事をフォローする。

「ビン子ちゃん、それ、真名……本当の名前じゃないんでしょ?」

「……」

 黙ったままのビン子。


 そんなビン子に気を使ったのかエメラルダが続けた。

「キーストーンに書き込むのは神様の真名。だから、神様はおいそれと人には真名を明かさないのよ」

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