第500話 男の子には男の子のすることがあるんです!(3)

 リンがミーキアンにアドバイスしたのも効いたようである。

「ミーキアン様、聖人世界では未婚の男女を別々に分けるのは普通の事だと思いますよ」

「そうなのか。リン。聖人世界では、そのように繁殖の量を調整をするのだな!」

 ミーキアンは、なんか納得したようであったが、少々困った顔に変わった。

「だがせっかく三人でも眠れるベッドを1つ用意したのに、今からもう一つ別のベッドを用意するのは大変だな……だれか、鳥の魔物を狩って来い!」


 だが、それを聞いたタカトがやっと反応したのだ。

「俺はベッドはいらん! そのベッドだけでいい!」

 と言いだしたのである。

 いまさらながら、エメラルダと一緒に添い寝ができるこの状況が惜しいと思ったのだろうか?

 大きなベッドにエメラルダとビン子に挟まれて川の字で寝る。

 両の手を伸ばせば、そこには女の柔肌が脈打っているのだ。

 これを拒否る男などいるはずもない。

 据え膳食わぬは男の恥!

 そう、これはミーキアンが用意してくれた善意なのである。

 それをむげに断ることなどできようか! いやできはしない!

 レッツ! エンジョイ! 繁殖行動!


 などと、考えていたのかと思ったのだが……


 タカトはその言葉の後に続けた。

「できれば、いろいろな道具がある物置小屋みたいなところを貸してくれ」と。

 意味が分からないミーキアン

 ――人間の男は、道具を使って処理するとは聞いてはいたが……女よりも道具の方がいいものなのか?

 不思議に思うように顔を傾げた。

 どこぞの世界線にある日本と言う国では、かチンコちんの状態をなんと9時間58分(2019年時点)も続けた猛者がいるそうである。ちなみに、コレ世界記録! そして、その時のお伴が、その猛者が代表を務める会社が作った選りすぐりの道具たちである。

 きっとタカトも日本と言う世界線に生まれていれば、この会社に就職したかったにちがいない……だが残念ながら、ココは聖人世界と、魔人世界……惜しい! 

 まぁ、そのような行為を好むのも、その人の性癖である。

 それを赤の他人が「生をつかさどる神への冒涜だ!」などとわめきたてても仕方のないことなのだ。

 ――きっとコイツは、孤高のソリストなのだろう……

 ため息をつくミーキアンは、リンに命じてタカトを物置小屋に案内させた。


 夜も更けていく。

 魔人世界は聖人世界と違い、寝静まるという事が無いようだ。

 城の外では夜行性の魔物や魔人たちが徘徊し始めていた。

 街の露店もまた、そのような客層に合わせて売るものを次から次へと取り換える。

 どうやら魔人世界では24時間営業のコンビニのように、何かが常にうごめいているようである。

 だが、それに対してミーキアンの城の中はシーンと静まり返っていた。

 今日は人間の客人が来ているのだ。

 人間は夜は寝るものとミーキアンから命令が下っている。

 いつもは騒がしい魔物たちも今日に限っては、城の中で息をひそめていた。

 城の中はうそのように静まり返り、ランプの光さえもしずかに消える。

 しかし、庭にある物置小屋の窓からは、煌々とした光が漏れていた。

 その光の中に映し出された影が忙しそうに何かをシコシコとこすり続けている。


 物置小屋の机の前では、タカトが一人、ゴソゴソと何かをしているようなのだ。

 タカトの手には、ティッシュが一枚握られていた。

 机の上に目を落しながら、ティッシュがゴシゴシと前後する。

「ふぅ~」

 タカトが大きく息を吐いた。

 天井を見上げるタカトは疲れ切って、だらんと腕を垂らした。

「満足! 満足!」

 何が満足なのやら……

 やっぱり……孤高のソリストのプレイだったのであろうか?


 そんなタカトの背後から女の声がした。

「何がそんなに満足なのだ?」

 ビクッとするタカトの体。

 誰も来ないと思っていたところに女の声がしたのだ。

 そりゃビックリするに決まっている。

 まるで、自分の部屋のドアをノックせずにいきなりお母さんに開けられた男の子ぐらいビックリする。

 引きつったタカトの表情がゆっくりと後ろを振り向いた。

 そこには、入り口の柱にもたれ中を伺うミーキアンの姿。

 そんなミーキアンが、いつからいたのか分からないが、じーっとタカトの様子を見ていたのだ。


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