第488話 スキル発動(2)

 今にして思うとハヤテの半身は、おそらく、電気を宿す魔物だったのかもしれない。

 だが、この魔の融合国でも、強力な放電を放つような魔物はめったに見ない。

 もしかして、電気ウナギの類いなのであろうか?

 いやいや、電気ウナギには角はないでしょう。

 というか、そもそも犬とウナギでは交尾できないでしよ……いや、人間ならそんなプレイも無いことはないか……

 まあ、かなりレアな種の魔物なのだろう。

 その昔、ココとは違った別の世界、滅んだとされるその世界には、竜が空をかけ、天馬が羽ばたき、オオカミが雷を操っていたそうである。

 まぁ、そんな伝説みたいな話、嘘か本当かは、だれも知りませんけどね。


 地に足をつけたハヤテは、タカトを探す。

「タカト! 大丈夫か!」

 そこには、先ほどまでグレストールの口の中にとらわれていたタカトが恍惚とした表情を浮かべて立っていた。

 その様子を見たハヤテは、少々バカらしくなった。

 必死に駆けつけた自分の行動が一体なんであったのかと一瞬思ったのであった。

 だが、なぜか胸の奥底からなにか熱いモノが込み上げる。

「お前は……バカか……」

 鼻で笑うかのように、ハヤテはつぶやく。

 だが、その目には安どの笑みを浮かべていた。


 だが、その瞬間の事であった。

 ガサッと言う大きな音がする。

 タカトの背後で大きな影が盛り上がるかのように起き上がった。

 そう、感電から回復したグレストールが鎌首を持ち上げたのである。

 いまだ体中から白き煙を立ているが、三つの首はしっかりと獲物であるタカトを見下ろす。

 とっさにハヤテは叫んだ。

「タカト逃げろ!」

 しかし、恍惚の表情を浮かべていたタカトは、きょとんとハヤテを見るだけ。

 まさに、何言ってんのコイツ? というような、バカにした目である。

 というか、お前がバカなんだよ!

 ハヤテは、そう思うが、先に自分の体が自然に動いた。

 だが、怒り狂ったグレストールの口もタカトめがけて落ちてくる。

 対して、いまだ状況が把握できないタカトの体は全く動かない。

 ハヤテとタカトの間は荷馬車2台分ぐらいの距離である。

 ハヤテの跳躍であれば一瞬である。

 だが、その一瞬ですらグレストールのほうが早い。

 タカトの視界を黒い影が覆った。

 グレストールの口がタカト頭を呑み込んだのだ。

 ハヤテは消えゆくタカトに向かって跳ねる。

 だが、間に合わない!


 ドゴォォォン

 激しい音が鳴り響く。

 ハヤテは足を止めた。

 間に合わなかった……

 ハヤテの目の先では、土煙が舞い上がる。

 その遮られた視界が、徐々に徐々にと晴れていく。

 だが、そのかすむ世界に一つの影が見えたのだ。

 それは、タカト。

 タカトがきょとんとしながらへっぴり腰で立っていた。

 その様子は小ネズミ。

 野原に立つ小ネズミが前足をちょこんと出して天敵を伺う様子と瓜二つ。

 タカトはキョロキョロとあたりを見回しているだけ。

 その表情は、今だに何が起こったのか全く分かっていないようである。


 そんなタカトの背後には、大きなネズミが蹴り足を上げて立っていた。

 そう、魔獣回帰したハトネンである。

 グレストールの口がタカトを覆いつくそうとした瞬間の事であった

鼠牙雀角そがじゃっかく!」

 ハトネンのドロップキックが天から落ちると、グレストールの体を踏みつぶす。

 その衝撃にタカトを飲み込もうとしていたグレストールの頭は反りかえった。

 そして、返す刀でハトネンは、グレストールの体に回し蹴りを入れたのである。

 勢いでグレストールの巨体はスタジアムの壁にまで吹き飛びぶつかって、今や目をグルグルとまわしていたのだ。


 小ネズミタカトの背中の体毛が、何か命の危険を感じ取った。

 背後にある巨大な恐怖。

 恐る恐る後ろを振り向いた。

 背後にはグレストールよりも大きなネズミが緑の目でタカトを見下ろしていた。

 ひぃぃぃぃぃ! なに? このネズミ?

 小ネズミのタカトは大ネズミにおびえる。


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