第486話 スネークホイホイpart 2(5)

 そう、その影は3つ目の首であった。


 自らの腹の下からやっとのことで這いだした3つ目の首が、タカトに狙いをつけていたのである。


 そんなタカトは、背後に何かの気配を感じとった。

 ちらっと伺うタカトの目の端には緑の双眸がハッキリと見えた。


 ――おいおい! コイツの頭、まだあったのかぁ!


 だが、あと少しである。

 懸命に走るタカトの目にゴールラインがどんどんと近づいてくる。


「こんなところで死んでたまるかぁぁぁぁぁ!」

 瞬間、タカトは加速した!……つもりだった。


 こちらはちゃんと加速したグレストールの口。

 タカトめがけてよだれを引いて近づいてくる。


「やっぱりぃ! だめなのぉぉぉぉ!」

 スピードが全く変わらないタカト。

 だが、その必死の表情だけは大きく変わっていた。


 だが、次の瞬間、スタジアムから大きなどよめきがおきた。

 いや、どよめきと言うより悲鳴と言った方がいいのかもしれない。


 それに伴い、レース終了の鐘が鳴り響く。

 どうやら、ハヤテがゴールラインを超えたようである。


 その歓声とも悲鳴とも思える観客たちの反応を耳にしたタカトは思う。

 ――おっしゃぁぁぁぁ! ハヤテの奴、ゴールしよったな!


 このレースが終わればタカトは、ミーキアンの客人にもどるのだ。

 すなわち、背後に迫るグレストールも襲ってこれまい!


 ――やったぜ! 俺は、生き残ったぁァァァァ!


 うすら笑いを浮かべるタカト。

 おそらく残念がっているだろうグレストールをバカにしようと後方を伺ってみた。

 タカトの計算では、バトルが終了すればグレストールもあきらめてタカトを食らおうとするのをやめるはずなのだ。


 しかし、なんという事でしょう!


 そこには、大きく開け広がったグレストールの口。

 先ほどよりも距離が近づいているせいか、口の中のしわまでよく見える。


 止まるどころか、さらにスピードを上げていた。

 グレストールの口は、いまだタカトを食う気満々でったのだ。


「なんでや! なんでなんや! コイツは馬鹿なのか! 俺はミーキアンの客人だぞ! そんな俺を食らいでもしたらどうなるか分かるだろうが!」


 だが、そんなことを叫んでみても、蛇の頭は止まらない。

 焦ったタカトは、再び走り出す。

 ゴールラインめがけて走り出す。

 というか、走る以外に方法がなかったのである。


 ――せっかく、ハヤテが優勝したというのに、ココで俺が食われたら元も子もないではないか!

 というか、止まれよ! このボケ蛇!

 魔物バトルは終わったんだよ!


 そんな悲痛なタカトの願いが、蛇の脳みそに届くわけはなかった。

 だって、グレストールは三頭蛇!

 一つの頭は、通常の蛇の知能の三分の一!

 要は、かなりのおバカさんなのである。

 レースが終了したという事など、まったくもって理解できていないのだ。

 目の前の獲物を食う!

 ただ、それだけしか考えていなかったのである。


 そう、タカトはグレストールの知能を見誤っていたのだ。

 魔物は強き者には従うもの。

 そんな魔人国のルールを信じきっていた。

 しかし、どこの国にもルールを理解できないものはいる。

 仕方ない、それが社会と言うものだ。

 だが、そんなことを今、必死で逃げるタカトが理解したとしても後の祭り。

 なぜなら、もうタカトの頭の直上からグレストールの口が覆いかぶさろうとしていたのであるから。


 ドゴッォォォン!

 大きな音と共に、タカトの目の前は暗転した。


 真っ暗な闇。


 そして、走るタカトの体は、何か柔らかいものにぶつかった。

 ――あぁぁ、なにかヌルヌルして気持ちいい!


 そのヌルヌルに顔をこすりつけるタカトの表情は恍惚としていた。

 ――あぁ、女の人の中ってこんな感じなのかな?


 って、このボケは二度目や!


 どうやら、今度はカエルではなく、蛇の口に飲み込まれたようである。

 しかし、タカトの足は、今だ地面の上に立っていた。

 蛇の肉壁に体をこすりつけてはいるが、一向に飲み込まれる気配がない。


 そうこうしているうちに、ぬるぬるとした赤き肉が、タカトの頬ずりを嫌がるかのようにタカトから離れていきはじめた。

 徐々にタカトの足元から光が流れ込んでくる。

 すると、一気にタカトの視界を真っ白に変えた。


 その差し込む光から目を覆うタカト。


 徐々に光に慣れてきたタカトの目に映ったのは、開け広げられたグレストールの大きな口。

 タカトの真横でグレストールが口を開けたまま白目をむいているではないか。

 しかも、その皮膚の表面からプスプスと煙まで立てている。


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