第485話 スネークホイホイpart 2(4)

 だが、その口はタカトの体をかすめて落ちていく。

 グレストールの牙が、タカトが構える小剣の刃を滑り火花を引いていた。

 そう、タカトの体のすぐ側をグレストールの口が、滑っていくのだ。

 と言うのも、半べそをかいているタカトの体は、自然に反応した。

 グレストールの頭が落ちる瞬間、タカトの体は身をかわす。

 グレストールが発する生気の流れに従うかのように。

 それは、まるで川を流れる笹船。

 その勢いに逆らうことなく受け流す。

 これこそ、万命拳『至恭至順しきょうしじゅん』の極意!

 日々、ガンエンにしごかれていたタカトである。

 その修行のたびに、地面にこっぴどく叩きつけられていた。

 その痛い修行を嫌がるタカトにとって、今や攻撃をかわす技は骨の髄にまでしみこんでいたのだ。

 タカトの体が勢いよく回転すると、その回転に弾き飛ばされるかのようにグレストールの頭が地面に突っ込んだ。


 ――もしかして……俺って強い?

 一瞬、余裕を見せるタカトであったが、それもつかの間。

 先ほど競り合いに負けた別の首が、遅れて届く。

 しかし、今のタカトの体は先ほどの至恭至順しきょうしじゅんによって大きく崩れたままだった。

 なにせ、ガンエンは、ああ見えても優しいのだ。

 素人のタカト相手に繰り出す技は初撃の一つだけ。

 そのため連続の攻撃の受け流しなど、今のタカトにはムリなのだ。

 グレストールの首がタカトの迫ってくるのを頭が理解していても、軸足がしっかりと戻ってこない、技を出すにも踏ん張りがきかない。

 ――やっぱりダメェェェェぇぇ?

 おびえるタカトは、とっさに右腕で顔を覆い目を逸らす。


 ドコォォォォン!

 大きな衝撃音。

 目をつぶっていたタカトの耳にはっきりと聞こえた。


 あれ……?

 聞こえたってことは、タカトは食われていなかったってこと。


 右腕の影で覆われたタカトの目が恐る恐る開いていく。

「なんじゃこれぇぇえぇ!」

 タカトの目の前には、天にそそり立つ巨大なイチモツ!

 ――あれって俺のイチモツ……

 って、あんたのイチモツは、そんなに立派な物じゃありません!

 と、ビン子が聞いていたらすかさず突っ込んでいたことだろう。

 ――じゃないよね……

 イチモツに似たような青く透き通る巨大な柱がタカトの二の腕から一直線に伸びていたのだ。

 そして、その巨大な柱が迫りくるグレストールのアゴを弾き飛ばしていたのである。


 そう、その青きイチモツ! 違った、青き柱は、タカトの腕に巻き付いていたタマであった。

 タマが、その身を大きく変形させて巨大なイチモツ、いや、柱になってグレストールの頭を弾き飛ばしていたのだ。

 スルスルと戻っていく青き柱。

 タマは役目を果たしたと言わんばかりに、元の形に戻ると、また、タカトの二の腕に巻き付いて眠りだした。

 さきほどまで涙目であったタカトの表情はぱっと明るくなった

「タマ! サンキュゥ!」


 今やタカトを襲おうとしていたグレストールの首は二つとも地面に突っ伏している。

 タカトを食らおうとしていた口は今はない。

 ――よっしゃあ! 今がチャンス!

 タカトは、身をひるがえすとゴールに向かって必死に走りだした。

 早く走ろうと懸命に腕を振るが、焦るタカトのアゴは上がり体が反ってしまっている。

 ハッキリ言って、そのスピードは遅い……

 パタパタと走るタカトの後を何かの影が地を這うように追ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る