第467話 二週目(1)


「一気にゴリラどもぶっちぎるぞ!」

 第二週目に突入したタカトは叫んだ。

 第一コーナ―を回るタカトの目に前にはゴリラの魔物しかいなかったのだ。

 このゴリラをぶち抜けば、タカトは一位なれるのである。

 一位になれば、エメラルダの黄金弓は取り戻すことができる。

 そうなれば、感極まったエメラルダが、その豊満な胸でタカトをギューッと抱きしめてくれることは間違いない。

 その後は……お楽しみ……エヘヘヘヘヘ

 すでに、タカトの頭の中では、優勝後の妄想が暴走していた。

 しかしまぁ、この時点のタカト君、スタート地点にグレストールが待ち受けているということをすっかり失念しているんでしょうね。

 ゴリラを抜いて一位になったとしても、生きて帰らなければ意味がないわけですよ。


 しかし、そんな事お構いなしのタカト君。

 気勢をはいて、ハヤテを急かす。

 四本足のハヤテの方が、二本脚のゴリラよりも速度は速い。

 見る見るうちに、その距離を詰めていく。

「おっしゃあ! 一気に行くぞ!」

 調子に乗ったタカトは、まるで馬に乗る騎士の如く腰にあった短剣を抜いて、頭上に掲げようとした。

 ハイヤー! ロシナンテ! いや、ハヤテンテ!

 タカトの小剣が左腰からハヤテの顔の横を通って頭上に上がろうとしたその時であった。

 タカトの小剣の刀身がパンと何かの弾ける音共に、ハヤテの横顔にぶつかったのだ。

 一瞬、ハヤテは顔を背ける。

 だが、さほどの威力があったわけではない。

 ちょっと剣の腹が、あたったという感じなのだ。

 だが、ハヤテは、背に乗るタカトを横目でにらむ。

「お前……ワザとか……」

 タカトのつけた犬耳には、ハヤテがそう言っているように聞こえた。

 タカトは愛想笑いで誤魔化す。

「あはははは、そんな訳……何かがぶつかったような気がしたんだよ……」

 確かに何かがぶつかる音共に、剣が弾かれたのだ。

 だがしかし、今は魔物バトルのレース中。

 しかも、他の魔物たちは、スタートラインでグレストールと乱戦中なのである。

 まさか、その激しい戦闘の衝撃で何かが飛んできたのだろうか。

 まぁ、それが一番可能性があるかもしれない。

 だが、運がいいことに、その飛んできた何かの物体は、ハヤテの目に当たる直前にタカトの小剣によって弾かれたのだ。

 もし、目にあたっていれば、失明まではいかずとも、しばらくは目が開けられなかったかもしれない。

 しかし、ハヤテはそんなタカトを信じない。

 だが、今はレース中。

 とにかく、目の前のゴリラどもをぶっ飛ばすことが先決なのである。

 タカトについては、レースが終わった後に、ションベンでもかけてやればいいことだ。

 などと、ハヤテが思っていた矢先。

 一瞬、ハヤテの耳が何かの風切り音を捕らえた。

 ハヤテの本能が反射的によける。

 咄嗟に飛びのくハヤテの体。

 その勢いで背中に乗るタカトは逆立ち状態になっていた。

 しかし、それは一発ではない。

 矢継ぎ早に数発、何かが飛んでくる。

 ハヤテはステップを踏むかのように、その何かを避けていく。

 その何かは、ハヤテをかすめ地面に小さな穴を穿ち、泥水を散らした。


 明らかにその何かは、ハヤテを狙っている。

 それも、ハヤテの眼球を正確にだ。

 グレストールとの混戦状態である魔物たちが、そんな正確な狙撃をできるとは思えない。

 ならば、観客席からか。

 だが、トラックを走るハヤテの眼球など、スタジアムからみれば、針の穴よりも小さいのだ。

 そんな小さな目標に、正確に打ち込むことなんてできるのだろうか。

 ハヤテは、そんなことを考えながら、次々飛んでくる未知の弾から、体をそらす。


 そのハヤテの様子は、まるで、狂ったように踊るロデオの雄牛。

 その上のタカトは、まるでビニール人形のようにガックんガックんと頭が揺れていた。

 その激しい様子、すでにタカトの舌がビロンと垂れて、ぶらついている。

 あの様子……脳震とうでも起こしていなければいいのだが。


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