第468話 二週目(2)
今まで、何事もなくトラックを走っていたハヤテ。
それがいきなり狂ったように飛び跳ねだしたのだ。
それを見ていた観客たちは、訳が分からない。
ついにあの半魔は気でも狂ったのに違いないと大笑いしているのだ。
魔人国でも半分魔物の半魔は嫌われものなのだ。
「ハヤテ……どうしたのよ……」
ビン子は、心配そうな声を上げた。
その横でリンは、半魔のハヤテを少々かわいそうな様子でながめていた。
「やっぱり半魔ごときでは、魔物バトルのプレッシャーに耐えきれなかったのでしょう」
だが、ハヤテを見つめるエメラルダの目には何か違和感を感じた。
そのハヤテの動きが少々気にるのだ。
――何かおかしい……
先ほどからのハヤテの動きは、飛び跳ねるごとにトラックの外側へと押し出されているようだ。
まるで何かを避けようとしているかのように見える。
ということは、ハヤテが離れていく方向とは逆の方向から、何かが飛んできているのだろうか。
ハヤテの体の向きから考えると、それは、まさにエメラルダ達がいる観客席の方向から打ち出されているようにも見えるのだ。
そんな、エメラルダの視界に何かが瞬間、横切った。
何かは分からない。
だが、何かが飛んだのだ。
小さな虫と言われれば確かのそう思わないでもない。
ここは野外なのである、虫など先ほどから多くの数が飛んでいる。
だが、そのまっすぐに飛ぶスピード、そして、その直後のハヤテの回避行動を見ると、確かに何かが飛んだのだ。
――まさか……何者かが、レースを妨害しているの?
咄嗟にエメラルダは、背後を振り向いた。
観客席の上段には、ゴリラの魔物の主である、三兄弟のゴリラ魔人たちが立っていた。
それも、体をぴったりと寄せ合って、まるで一つの塊になるかのようにである。
ただでさえ筋肉マッチョで毛の生えているのゴリラ魔人である。
見ているだけでも暑苦しいのに、それが三匹も肩を寄せ合あって密着して立っていれば、もう、その空間だけサウナ風呂のようにムンムンとしている。
この三兄弟、体を寄せ合うほど仲がいいのだろう。
いやいや、そんなことはありえない。
エメラルダは、小門から出た際にゴリラ魔人たちに襲われたことを思い出す。
ウニ女に助けられた後、ゴリラ魔人たちはエメラルダの黄金弓を片手にすごすごと帰っていった。
だが、密着する様子などかけらもなかった。
普通の間隔を取って歩き去っていったのだ。
確かにあの時のエメラルダは喉をつぶされせき込んでいた。
地面に這いつくばって立つこともままならない。
しかし、あたりを状況ぐらいは、しっかりと確認できていた。
これでも、もと第六の門の騎士なのだ。
だが、その時のエメラルダには、なんの違和感も感じなかったのである。
だから、特に気にも留めなかった。
しかし、今は、明らかに異様だ。
まさに、その様子は何かを隠すかのようである。
そんな時、ゴリラの魔人の腰と腰の間から、ゆっくりと細長い筒が伸びてきた。
――まさか!
エメラルダは、その筒を見つけると、とっさに立ち上がった。
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