第465話 全然集中の呼吸

 タカトを食い損ねたグレストールであったが、まだまだ、ご機嫌だった。

 なぜなら、スタートラインには、タカトたち以外に、いまだその場所にとどまっている参加者がいたのである。

 そう、ハトネンの三ツ木マウスである。

 必死に呼吸を整えて集中しているようであるが、いかんせん、騎乗する人間が重い。

「全然集中!」

 などと叫んでみても、デブの人間が軽くなるわけではない。

「……できへんわい!」

 遂に、一歩も歩くことなく三ツ木マウスの膝が砕けた。

「俺は三ツ木家の20人兄弟のお兄ちゃんなんだぞ!」

 三ツ木マウスは、三ツ木一家の兄弟ネズミたちの顔を思い浮かべる。

「これが次男たちだったら我慢できないだろうけど、俺はお兄ちゃんだ!」

 必死に膝に力を込めようと踏ん張った。

「アホか! こんな巨体! 我慢できるわけないだろうが!」

 やっぱり、つぶれた。

 三ツ木マウスは、背中に乗せた横綱級の奴隷にペッちゃんこに押しつぶされたのだった。

「無理……お前は存在してはいけないデブだ!」

 そうつぶやく三ツ木マウスの上から、グレストールの大きく空いた口がゆっくりと降りてきた。

 そして、ハトネンのレースはここで終わった。


 この魔物バトル、ルールは簡単。

 目の前のトラックにある通過ゲートをくぐりぬけ、先に三周、回ったものが勝ちと言うものである。


 ライオン型の魔物であるライオガルが先頭。それに続くのはイノシシの魔物ダンクロールである。

 これらの魔物たちはスピードと攻撃力を兼ね備えているため、魔物バトルには重宝されていた。

 そして、このライオガルを好んで使役するのが、シウボマの妹であるスルボマであった。

 スルボマは第八の門の騎士である。

 その姿は、まさに姉そっくり。

 まさに脂肪のウ●コである。

 ただ、違うのが、姉のシウボマが紫のウ●コであれば、スルボマは緑のウ●コなのだ。

 そして、この姉妹、ことあるごとに張り合うのである。

 シウボマが魔物バトルに出れば、すかさずスルボマも出場する。

 シウボマが『羽風の首飾り』を狙っているとしれば、スルボマもそれを狙った。

 もう、仲がいいのか悪いのか……

 そんなこんなで、シウボマが魔物バトルに出ると聞いたスルボマは、またもやライオガルを投入するのだった。

 ライオガルは強い。確かに強いのだ。

 シウボマがレースに参加していなければ、スルボマのライオガルが優勝をさらっていたのがほとんどだ。

 だが、シウボマの三頭蛇のグレストールと張り合うと、必ず負けたのである。

 今回、出場させるライオガルも、すでに何頭目だろうか。

 だが、スルボマは考えた。

 いつもいつもシウボマに負けっぱなしは、ムカつく!

 それで、ある秘策を思いついたのだ。


 スルボマは、ライオガルの背にカマキガルを乗せたのだ。

 そう、騎乗する奴隷人間の代わりに、魔物であるカマキガルを乗せた。

 これにより、ライオガルの攻撃力にカマキガルの斬撃と飛翔能力がプラスできるのだ。

 別に騎手は人間と決まっていない。

 というか、騎手は飾りなのであるから、何でもいいのだ。

 なら、魔物でもいいのではないか。

 その発想を、どうして今まで誰も思いつかなかったのだろう。



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