第464話 用意! ぎゃぁぁぁぁぁぁ!

 タカトの横に、全身黒ずくめのタイツで身を包み、頭に大きなネズミの耳をつけている変態男が立っていた。

 その変態の顔の真ん中にはネズミの鼻がついているではないか。

 しかも、緑と黒のパンツのみ。

 こいつアホや……ぜったい、アホや……

 タカトは、その変態を見るとプッと笑った。

 そんなタカトを見ながら、この全身黒ずくめのねずみ男もプッと笑った。

 そう、タカトもまた、犬の耳を頭につけ、鼻のてっぺんには犬の黒い鼻をつけていたのである。

 スタートラインには変態が今並び立っていたのである。


 スタジアムにファンファーレが鳴り響く。

 そのファンファーレと共にひときわ歓声が大きくなるとともに、手拍子が沸き起こった。

「騎乗!」

 スターターの魔人がスタートラインに立つと声を上げた。

 そのスターターの後ろには、張りつけにされ奴隷の人間が震えていた。

 その合図と共に、騎手役の奴隷の人間たちが、魔物の背に乗り始めた。

 まぁ、この魔物バトル、主役は魔物である。

 その騎手の人間は、特に必要ではなく、ただ単に飾りの役割であった。

 と言うのも、この魔物バトルは聖人世界の魔物バトルを模して伝えられたものである。

 そのため、レースをするには、何か背に乗せないといけないと言った、よく分からない情報が信じられていたのだ。

 タカトもまた、ハヤテの背に乗る。

 隣の黒い変態ネズミも、その背に人間を背負った。

 と言うことは、この変態ネズミが魔物なのだろう。

 そう、このネズミこそ、ハトネンが参加させた三ツ木マウスなのである。

 だが、よくよく見ると、背に乗る人間の方が魔物に見える。

 と言うか、がりがりの三ツ木マウスの背に横綱級のデブがのっているのである。

 魔人世界では、こんなデブの奴隷人間となれば、もう、完全に食用と思われる。

 フォアグラ? 霜降り? 中とろ? 大トロ?

 そんな超高級食材らしき奴隷人間を惜しげもなく魔物バトルへと投入できるハトネンは、さすがにイキである。

 まぁ、何をもってイキと言うのかは、よく分からないが。

 だが既に、三ツ木マウスの足は、その重さに耐えかねてプルプルと震えているのだった。


「用意!」

 スターターの魔人が声を上げると、背後の人間のわき腹に歯を立てた。

 そして、一気にガブリ!

 ぎゃぁぁぁぁぁぁ!

 張りつけにされた奴隷人間が悲鳴を上げた。

 それを合図にするかのように、一気にレースは動き出す。


 タカトは意味が分からない。

 スタートの合図が人間の悲鳴だと……

 もうすでに、そこから理解不能だった。

 ハヤテの上でスターターを呆然と見つめるタカト。

 その目の先で、スターターの魔人が、張りつけの奴隷人間を食べていた。

 おぇええええ。

 タカトは吐きそうになるのをとっさに堪えた。

 鼻にツンとつきあがる胃酸の酸っぱさ……

 何とかそれを抑え込み、口をぬぐおうとした。

 そんな時、何かがぽたりと垂れてきた。

 生臭い匂いを伴った、生暖かい液体だ。

 ふと上を見上げるタカト。

 そこには、大きな蛇の頭が三つ、よだれと共に舌をピロピロと出しながら、タカトを見つめていた。

 へっ?

 意味が分からないタカト。

 そんなタカトに向かって、一つの蛇の頭が口を開け落ちてくる。

 ガブ!

 蛇の口が、タカトの足元の地面をえぐって閉じていた。

 まさかタカト君、スタートの合図と共に脱落か……

 いや脱落じゃなくて、食われたのか……

 さすが、オッズ1万倍の男……瞬殺である。

 だが、三頭蛇のグレストールの頭は、ぺっぺっと土を吐き出した。

 そのグレストールの背後には、絶叫を上げて泣き叫ぶタカトを背に、ハヤテが第一コーナめがけて疾走しているではないか。

 どうやら、グレストールの口には、足元の土しか入っていなかったようである。

 ちっ!

 なぜだか隣に座るリンの舌打つ音が聞こえたような気がしたビン子であった。


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