第457話 SSRなんて、たいしたことありません(1)

 そんなバカをやりながら一行は大きな建物の傍に近づいていた。

 それはスタジアムとおぼしき大きな建物である。

 その中から、大きな歓声が沸き上がっていた。

 もうそれは、お祭りかと思うほどにぎやかだ。

 そのスタジアムに誘うかのように、入り口に連なる道のわきには露店がいくつも軒を並べる。

 大小さまざまな魔人たちが、その露天に寄り道しながら、一方向へと流れていた。

 タカトたちの前を歩く魔人たちもまた、楽し気にそのスタジアムの中へと入っていく。

「本日はハトネン様主催のレースだ! 商品もかなりい物が出そろっているぞ! 我こそはと言うものはいないか! 飛び入り参加も大丈夫だ!」

 大きな台の上に立つ魔人が、スタジアムの入り口の前でひときわ大声を上げていた。


 レースとは一体何なんだ?


 タカトは気になってリンに尋ねた。

「なんのレースなの? というか、これはなんの騒ぎ?」

 リンは興味なさそうに、建物をちらっと伺った。

「ああこれですか。魔物バトルと言う賭けレースですよ。この建物中で魔人たちの数少ない楽しみの一つのレースをやっているんです。まぁ、ガラはかなり悪いですけどね」

 賭けレースとな!

 少々、その言葉に興味がわいたタカト。

 スタジアムの方向をきょろきょろと見渡す。

「賭けと言うことは、観客がお金を賭けるんだよね……」

 だが、残念ながら今のタカトには魔人国の金がない。

 いや、人間の世界である聖人国の金すらないのであるが……

 したがって、賭けようにも賭ける金がない。

 だが、だがである、ココで一発あてれば、貧乏な生活とはおさらばできるチャンスがあるかもしれないのだ。

 一発逆転! ビギナーズラックと言う言葉があるではないか。

 ならば、やってみるのもありかな……

 というか、やりたい……

 だから、お金ちょうだい。

 タカトは、無言でそれとなくリンに両手を突き出した。

 リンは、嫌そうにタカトの手を押し返す。

 それは絶対にお前にはお金は恵まんと言わんばかりの表情だ。

「当然、観客は賭けますよ……ただ、出場者も賭けることができるんですよ」

 リンは思い出す。

 そういえば、ミーア姉さまも、この魔物バトルが好きだった。

 ミーキアン様の城で姿が見えないと思えば、このスタジアムを探せば大体、見つかったのだ。

 だがリンは、この魔物バトルはあまり好きではなかった。

 命を遊び道具にしている感じがして嫌だったのだ。

 しかし、食うか食われるかの魔人たちにとって、自分の身を絶対安全圏に置いたスリリングが見世物ショーである魔物バトルは、興奮を誘った。

 だから、魔人であるミーアが熱中することもリンは否定するわけではない。

 要は、気に入らない自分が、このバトルを見なければいいだけの事なのだ。

 ただ、ミーキアンの命によりミーアを探しにスタジアムに足を頻繁に運ぶ。

 そうすれば、否が応でも、魔物バトルの音が聞こえ、姿が見えた。

 そのため、リンは自然と魔物バトルの事に詳しくなっていたのである。

「出場者も?」

「出場者の場合には、お金でなくてモノを賭ける場合が多いですね。例えば、奴隷とかアイテムとか地位とかですか……」

「と言うことは、お金がなくても出られるの!」

「まぁ、それ相応の賭けるものがあれば可能ですよ」

 タカトは、自分の身の回りをきょろきょろと確認する。

 だが、持っているものと言えば、権蔵が融合加工で鍛えてくれた短剣ぐらいだ。

 タカトは、その短剣を抜いた。

「これなんかどうかな?」

「価値無しですね……」

 リンは即答した。



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