第446話 スカートの中は乙女の秘密(1)

「ウニおんなぁぁぁぁぁぁあ!」

 タカトは勢いよくミーキアンの城門を飛び出した。

 そこは、一般街とミーキアンの城の境界線。

 目の前は一般魔人たちが暮らす一般街が広がっていた。


 辺りをきょろきょろと見回すタカト。

 あのウニ女どこ行きやがった!

 見つけたら、あの厚顔無恥の顔のカラを叩き割ってやる!


 きょろきょろとするタカトが珍しいのか、ぞろぞろと人が集まってきた。

 タカトは押し寄せる人の影を押しのける

 ――邪魔だどけ! あの女の姿が見えないだろうが!

 だが、その押しのけようとした体はモフモフしていた。

 ――きもちいぃぃ!

 タカトはさらに、モフモフした。

 魔人の頬が赤く染まった。

 ――きもちぃぃぃ!

 タカトの顔は引きつった。

 ――そうだった……ここは魔人国、魔人世界だったんだ。

 もしかして、タカトさん、今の今まで忘れていらっしゃたのでしょうか?

 取り囲む魔人たちがタカトを見下ろす。

「こいつ奴隷の刻印を表示してないんだけど……奴隷じゃないのかな?」

「でも、ミーキアンの城から出てきたぞ、もしかしたら、ミーキアンの新しい奴隷かも知れないぞ」

「オイ誰か、ちょっとコイツの服めくってみろよ」

 後ずさるタカト。

 ――まずい……

 今、服をめくられたら一巻の終わりである。

 だって、タカトの体にはなんの刻印も入っていないきれいな体。

 あっ、お尻には蒙古斑があったかも。

 って、そんなボケかましとる場合かぁ!

 一人の魔人の指がタカトの服の裾をつまんだ。

「イヤァ! えっちぃぃ!」

 タカトは、その手を払いのける。

 ――ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!

 焦るタカトの背後から、元気な女の子の声が響いた。

「タカトォ~」

 振り向くタカト。

 ビン子が手を振りながら追いかけてきていた。


 そんな駆け寄ってくるビン子を魔人たちが一斉に見る。

「おっ、もう一人いたのか?」

 魔人たちの口からよだれが垂れ落ちていた。


 ビン子が城門を潜り抜けようとした瞬間、その体が後ろに引っ張られた。

 尻もちをつくビン子。

「いたあぁぁぁぁい!」

 尻をさすりながら、後ろを睨むビン子。

 ――どこのどいつヨ! 後ろから引っ張るなんて!

 そこには、ビン子の肩を掴むエメラルダの姿があった。

 しかし、その顔は真顔。

 とても冗談で引っ張っているような顔ではなかった。

「ビン子ちゃん、今、この城から出たら、あなたも危ないわ!」

 とっさにタカトのほうへと視線を戻すビン子。

 タカトの泣き顔がこっちを見つめていた。

 今や、タカトは魔人たちに囲まれ、風前の灯火。

 ――タカト……


 ビン子はいま、ミーキアンの城門の内側にいる。

 すなわちミーキアンのテリトリーなのだ。

 そこに天然物の人間がいたとしても、さすがに一般の魔人たちが手を出せるわけがない。

 それに対してタカト君。

 なんで城門の外に出ちゃったかな……

 一般街の境界線上で震えるタカトは、エメラルダとビン子に乾いた笑顔を送っていた。

 ――ハハハハハ、どうしよう俺……

 その目から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 ――助けて……ビン子ちゃん……


 ビン子はその思いに気づいたのか、気づかなかったのか……

 タカトから視線をそらすビン子。

 ――無理……


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