第445話 ちょっと待て(3)

 だがしかし!


 それは、絶対にありえない!


 なぜなら、ディシウスは父の頭を食らった張本人なのだ。

 そんな親の仇と一緒に、姉が行動しているわけはないのだ。

 そんなことは考えにくい。

 そんな訳はないはずなのだ。

 いや、百歩譲って、一緒に行動しなければならない理由があるのかもしれない。

 例えば、仇討のチャンスをひそかに伺っているのかもしれない。

 そう考えれば敵であるディシウスと行動を共にしているということに納得はできる。


 だが!


 だがである!

 あのウニ女、ディシウスの名を誇らしげに語っていた。

 いや! それどころか愛情すらもちえていそうな目の輝きだったのだ。

 とても、親の仇と思っている雰囲気ではない。


 となると、考えられるのはただ一つ。

 アイツは、赤の他人! 

 ハイ! 決定!

 アイツは、ただの他人の空似である。

 これならすべて合点は行く。

 タカトは自分を無理やり納得させた。


 ちょっと待て!


 そして、タカトはある重要なことに気づいた。

 長々とミーキアンの話を聞いてはいたが、よくよく考えれば、まだこの城に入ってからそんなに時間は経ってはいない。

 ならば、今からすぐさま街に戻って探しに出れば、あのウニ女の首根っこを押さえらるかもしれないのだ。

 タカトの口はうすら笑いを浮かべた。

 あのウニ女をエサにしてディシウスをおびき出す。

 そして、現れたディシウスとあのウニ女をフルボッコ!

 俺の完璧な計画!

 さすが俺!

 ……うーん

 ……フルボッコのされるのはタカト君のほうだと思うのですが、そんなことはないのでしょうかね……

 ……ミーキアンの話聞いてました?

 ……ディシウス、魔人騎士ともやり合う命知らずの奴ですよ

 ……それに比べてタカト君

 ……君、普通のカエルの魔物にも勝てないでしょうが……


 いきなりタカトは、ミーキアンの城の入り口に向かってきびすを返した。

 そんなタカトを見るミーキアンは、思わず頭を起こした。

「おい、お前、どこに行く気だ!」

「いまから街に戻って、あのウニ女を捕まえる!」

 そう言い終わると、タカトは駆け出していた。

 タカトの体が一目散に細い通路へと突っ込んでいく。


「待ってよぉぉぉ!」

 そんなタカトをビン子が追った。

 その後を心配そうにハヤテがついていく。


 エメラルダもまた、ため息をつきながら立ちあがるとミーキアンに一礼をする。

「私も後を追います。それでは失礼いたします」

 エメラルダもトコトコと細道へと駆け出した。

「待ってよぉぉぉ! タカトくーーーーん!」


 はぁと大きくため息をつくミーキアン。

 アイツらはアホなのか?

 一体、ココをどこだと思っているのだ。

 ここは魔の融合国、魔人世界なのだぞ。


 そう、ここは魔人たちの住む世界。

 このミーキアンの城をひとたび出れば、ミーキアンのにらみは効かない。

 まさに城を出たら、タカトはただの餌。

 ココに来るときは、ディシウスの加護があった。

 今度は何もないのである。

 城から出た瞬間に捕食されること間違いないだろう。


 ミーキアンは呆れた顔で、側に使えるリンに命じた。

「あいつらについて行ってやれ……」

「御意」

 リンは静かに一礼とともにメイド服のフリルのスカートを広げた。

 そして、しずしずと細道の方へと歩き出す。

 だが、リンの表情は少々険しい。

 ミーキアンの命令が納得できないのか、少々不機嫌な様子だった。

 リンの表情の陰りが見えたのは、ミーアがタカトにミーキアンのおっぱいをもませてもらえと伝え聞いた辺りからであった。

 といのも、ミーアが冗談を言ったのが気に食わないのである。

 それは、主人であるミーキアンに対して不敬を働いたからであろうか。

 いや違う。

 ミーアが、ミーキアンの前で見せなかった姿をタカトに見せたからである。

 それどころか自分の前ですらそんな姿を見せたことが無い。

 冗談を言いながら笑う姿。

 それを想像するだけでも腹が立つ。

 ミーアと長い付き合いである自分を差し置いて、あの男はミーアの信頼を勝ち得ているような気がしたのだ。

 ――ミーア姉さま……

 リンの中にミーアに会えない寂しさと、タカトに対する嫉妬が少々入り混じる。

 ―――なんで私が……


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