第447話 スカートの中は乙女の秘密(2)

 まぁ、タカトたちの状況なんかまったくお構いなしの魔人たち。

 タカトの服をゆっくりとめくり上げていく。

 ――終わった……

 タカトは観念した。


「おい! こいつ奴隷の刻印入ってないぞ!」

「マジか! なら、コイツ食ってもいいだよな!」

「何言ってるんだ! 最初に見つけたのは俺だろうが!」


 魔人たちは互いに言い争いを始めた。

 タカトは、そーっと後ずさる。

 ――どうぞどうぞケンカをなさってくださいな

 今のうちに城門の内側へ……


「オイ! どこに行く!」


 目の前の魔人が怒鳴った。

 それを合図に、一斉に魔人の口が大きく開いた。

 魔人たちは思う。

 俺たちは一体、何を考えていたんだ。

 俺たちは魔人。

 早い者勝ちじゃぁぁぁぁぁっぁ!


 一斉に襲い掛かる魔人の口。


 ――終わった! 俺の人生終わった!

 泣き顔のタカトは、あきらめ天を仰いだ。


 そんなタカトの顔の上を一陣の風が吹き抜けた。

 黒いメイド服がまるで黒鳥のよう翔けぬける。

 呆然としたタカトの目がそのメイド服のあとを追った。

 着水するかのようにタカトの体の前で落ち行くフリルのスカート。

 黒鳥の大きな羽のように、そのスカートが空気を包み込む。

 それは、まるでキノコの傘のように広がった。

 スカートの中は乙女の秘密

 スカートの中心から柄のように伸びる細い足。

 白いレースのガーターベルトがしっかりと見て取れた。

 ほっそりとした白い太もも。

 その二つの太ももにしっかりと巻かれる黒きベルト。

 その黒ベルトには無数の銀の輝きがきらめいていた。

 その輝きは乙女の危険な輝き。決して触れてはいけないモノ。

 細くしなやかな手が太ももにまかれた黒いベルトをこすった。

 その瞬間、スカートの傘は役目を終えたかのように、地面の上にしなびて落ちて広がった。

 そこには膝まづくリンの姿。

 片膝を立てうつむいていた。


 須臾しゅゆの後、天から赤き雨が降る。

 それは、まるで村雨むらさめのごとく……

 スカートを追っていたタカトの顔に、赤き水沫すいまつが降り注ぐ。

 ――えっ……

 タカトを髪をかすめ、魔人たちの体が力なく落ちていく。

 その様子を横目で伺うタカト。

 ――何……

 赤き魔血が、倒れいく魔人の体を追っていく。

 その首を無数の短剣が貫いていた。


 どさっ

 魔人の体が地面に倒れおちた。

 ひっぃ

 今だタカトの周りに群がる魔人たちは恐怖した。

 寸陰すんいんの間で、二人の魔人が倒れおちた。

 ――一体、何が起きた……

 分からぬ魔人たちは、呆然としていた。


 うつむくリンが顔を上げた。

 魔人たちの背筋に恐怖が走る。

 その女の鋭い眼光……まさに、鬼……

 魔人たちの本能が、とっさに恐怖する。

 ――殺される!

 瞬時に判断する本能は、魔人たちをあとずらせた。

「このものはミーキアン様の客人! 手を出せば殺す!」

 リンがつぶやく。

 その瞬間、魔人たちは悲鳴を上げて逃げだした。


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