第443話 ちょっと待て(1)
「ちょっと待て! この話はどこまで続くんや!」
ここはミーキアンの城の中。
タカトは、エメラルダの背に隠れるようにしながらミーキアンの話に聞き耳を立てていた。
さすがに永遠と長く続きそうな話に、こらえ性の無いタカトは辛抱できなくなったようで、大きな声で叫んだ。
「というか、何なんだよ! この話は!」
静かな大広間にタカトの大声が反響する。
その突然の出来事にミーキアンはきょとんとする。
椅子に足を組み、肘をつく手に頬を預けていた目は、少々大きく見開かれていた。
その緑の瞳がより大きく輝いて見える。
「お前たちがいったのだろうが……ディシウスの事を聞きたいと」
その目は、まるで何言っているのだと言わんばかりに、あきれているようにも見えた。
「だからわざわざ、反逆のディシウスと呼ばれるようになった
そもそも、タカトが獅子の顔を持つ魔人の事を知らないかと聞いたことが発端である。
そして、その魔人の事を知っているから、わざわざ教えてやっているのだ。
感謝されることはあっても、怒鳴られる筋合いはない。
コイツは馬鹿なのか?
「反逆だろうが、半額だろうが、ハンバーガーだろうが何でもいいんだよ!」
タカトには、そんなミーキアンの気持など伝わっていない様子。
というか、そんなことが聞きたかったわけではないのだ。
「要はアイツがなんで俺の父さんをかみ殺したのかと言うことだ! その理由を言え!」
すでに頭に来ているタカトは、目の前の女が魔人騎士ミーキアンであることを忘れているかのように声を張り上げる。
まぁタカト自身、ミーキアンの話を聞いて思わないことはない。
ディシウスの壮絶な過去。
いまだに愛する人を助けたいと思う気持ち。
たとえそれが魔人でっても同情を禁じ得ない。
だがそれと父を殺す事とは関係ないだろう。
ただ、お腹が減りましたという理由だけで食べてしまった言うのでは、今までの感動話など全く無意味なのだ。
だからこそ、理由を知りたい。
それだけ壮絶な過去を持っているのであれば、何か知らかの理由があるのではないか。
だから、タカトはそれを問うたのだ。
だが、ミーキアンからは予想を反する答え。
「さぁ、知らん! 私は奴ではないからな」
「はぁ?」
そりゃそうである。
ミーキアンがいくら魔人騎士とはいえ、ディシウスとは赤の他人である。
人間であっても、身近な家族の事すら全て知っているわけはない。
まして、その心のうちなど100%理解などできないのだ。
当たり前のことである。
なら、ミーキアンがディシウスのことなど逐一知っているわけがないのである。
それどころか逆に、一般魔人のディシウスの事を、よくこれほど知っていたものだと感心するぐらいだ。
だが、それにも理由があった。
ミーキアンもまた、愛するものと離れている。
その愛するものを取り戻したいというディシウスの気持はミーキアンには痛いほどわかった。
だが、ミーキアンもディシウスも、愛する人を取り戻す方法なんて分かりはしない。
ミーキアンは半ばあきらめ、日々、空にうかぶ月を眺めるだけ。
それに対して、ディシウスは、いまだに運命に抗っていたのだ。
ミーキアンは、そんなディシウスを少々うらやましく思っていたのかもしれない。
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