第435話 魂の融合実験(2)
ヨメルは繭を鎮めるディシウスをみながら説明しはじめた。
「これからやることは、初めての試みじゃ。
だから、成功するかどうかワシにもわからん。
だが、ソフィアを救える可能性があることはないこともない」
繭がゆっくりと沈み、筒の底についた。
ディシウスが名残惜しそうに、筒の底を覗いている。
緑の液体に映るディシウスの表情が、波紋によって掻き乱れる。
まるで、それはディシウスの不安な心を現すかのようのようであった。
ヨメルは、覗き込むディシウスを邪魔だと言わんばかりに、手で払う。
ディシウスは、仕方なしに頭を起こす。
それを確認したヨメルは、筒のふちから立ち上がっている蓋に手をかけて、話をつづけた。
「そもそも、ソフィアは、荒神の気を吸収し神をもとの状態にリセットする魔人じゃ。
すなわち、ソフィアは、荒神の気を取り込むことができるということじゃ。
これは、ほかの魔人にはできないことじゃ」
ヨメルは上部の蓋を占めながら続けた。
もたもたするヨメルが心配だったのか、ディシウスも蓋に手をやり手伝った。
完全に蓋が閉まると、ヨメルは続けた。
「そこで、これからこの繭の中の荒神の体を溶かしばらばらに砕く。
おそらく、ソフィアの体も荒神の気を吸収するために溶けかかっているだろう。
それよりも早く荒神の体を溶かすのだ。
溶けた荒神の体は、その気とともにソフィアの体の中にに取り込まれていくじゃろう」
「それでは、中の二つの体はドロドロの状態ではないか」
「まぁ、焦るな。ここからがわしの本領発揮じゃ。荒神の気を吸収するソフィアの体を溶けるよりも早く、再生させるのだ」
「どうやって?」
「おそらく、今のソフィアの体は、部分的に溶け始めている。
ならば、その溶けた部分を砕いた荒神の体を使って補うのだ。
ソフィアにくっつければ、その部品に残った荒神の気は、ソフィア自身に吸収される。
おそらく、現状から予想しても、ソフィアの体の半分以上は入れ替えることになるだろう」
「それでソフィアは生き返るのか?」
ディシウスの質問に、ヨメルは少し間を取った。
そして、勿体つけるかのように、自分の顎を撫でる。
「いや、ここからが問題じゃ」
「なぜだ?」
「荒神は荒神の気をソフィアに取り込まれることによって、神としてリセットされるだろう。
すなわち、神の存在が一時的に消えることになる。
ということは、ソフィアの体に置きかえた神の半身も消えることになる。
ソフィアの半身が残ったとしても、その瞬間に即死だ」
「何がいいたいのだ」
「要は、ソフィアに荒神の気を浄化させてはいかんということだ。
いや、違うな……浄化させ続けなければいけないということだ。
その浄化が終われば、すなわち、神の半身が消える。
消えないためには、荒神が荒神であり続ける必要がある」
「それでは、荒神爆発が起こるのではないのか?」
「理論的には、荒神の気はソフィアに吸収され続けるため、荒神爆発は起こらず、荒神状態を維持できるはずじゃ。一方、ソフィアの体も、荒神の気を吸うことによって本来なら溶け落ちてしまうはずじゃが、不老の神の体を使うことによってその形を維持できるだろう」
「なら、それをすぐにしてくれ」
「本当にいいのか?」
「ああ、それでソフィアが死なないというのであれば!」
――ふっ、まぁ、この繭から出てくるのはソフィアかどうかはわからんがな
なにせ、二つの気を融合させるのだ。
これは、肉体の融合というより、魂の融合。
融合したものがソフィアなのかなど、分かりはしない。
だが、こんなに楽しいことはありはしないのも事実だ。
――さて、さて、何ができあがるのやら。
ヨメルはワクワクとしながら、実験を開始した。
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