第434話 魂の融合実験(1)
ヨメルはディシウスを一つの部屋に招き入れた。
そこは、ヨメルの研究室。
薄暗い部屋に緑色の液体が入った透明な筒が何本も並んでいた。
この風景どこかで見たことがあるような。
そう、人魔収容所のケテレツの研究棟である。
まさに、その原型となるような風景が、そこにあった。
筒の中の緑の液体が、魔人国特有のオレンジ色の光にきらめく。
この緑の液体こそが融合の神から遣わされた神の恩恵。
融合加工の触媒なのだ。
融合の神は原始の神。
融合国を作りし神なのだ。
そして、その神は、常に王のそばに控えている。
融合国の王は、全ての騎士と神民を束ねる。
そして、その神もまた、全ての騎士と神民の生気を使うことができるのである。
すなわち、融合国のすべての神民の命を代価として、神の恩恵である融合加工の触媒を使うことができるのだ。
ただ、聖人国の融合の神は女、魔人国の融合の神は男らしい。
融合加工の基本は、物質の命気と命気を重ね合わせて融合するものである。
これは、権蔵が言っていた。
命気と命気を重ね合わせれば合わせるほど、使用する生気の量は少なくなる。
だが、単に重ね合わせれば勝手に命気と命気が混ざるというものでない。
神の恩恵である触媒を用いて融合反応を誘発するのである。
あとは、作り上げる形に応じて、職人が腕を振るう。
どんな効果を起こすのか。
どんな形を形成するのか。
どんな魂を込めるのか。
すべて製作者の腕次第なのである。
融合加工の反応が、神の恩恵の触媒で行われている以上、この触媒は融合の神が存する融合国においてのみ活性化するのは当然のことである。
逆の言い方をすれば、融合国以外では、この触媒は不活性化し融合加工は行えないという事を意味している。
一例をあげると、聖人国の主力戦力である魔装騎兵は融合国でのみ作ることができるということだ。
融合国以外の養殖の国や情報の国、医療の国などは、自国の兵を融合国に留学させ、魔装騎兵に養成してもらわないとならないのである。
そのため、魔装騎兵を作り上げることができる融合国、ひいては、その宰相であるアルダインは、聖人世界においてかなりの影響力を有していた。
ヨメルは杖を置くと、筒の上の台によたよたと登っていく。
その後をキラキラした液体の後がついて行き、筋となっていた。
まるで、ナメクジが這った後のようである。
台の上にのったヨメルの足はディシウスの頭のはるか上。
ヨメルは、ディシウスを誘うかのように手を振った。
ディシウスも台に上る。
筒を挟んで、ヨメルと対面する。
それを確認したヨメルは、筒の上部のふたをゆっくりと開けた。
重いのだろうか?
よぼよぼのヨメルは、ゆっくりとふたを開けていく。
その隙間から見える緑の液体は、液体越しに見えるヨメルのローブを揺らすかのように静かな円を描いていた。
ヨメルはふたを開け切ると、ディシウスに命じた。
「つけろ……」
ヨメルの目を見るディシウスは小さくうなずく。
そして、そっと担ぐ繭をその円の中心につけた。
そっとそっと沈めゆく。
ディシウスは、己が手が液体につきそうになると、繭の上部へと入れ替える。
繭の中の二人を驚かすまいと、静かに静かに滑らせる。
繭が次第に緑の液体に浸かっていった。
ディシウスは、名残惜しそうに繭の頂点から手を放す。
繭は別れを告げるかのように揺れながら、ゆっくりと筒の底へと沈んでいった。
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